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地域系学部というのに加わった大学教員による高知発モンゴル発のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

【2021モンゴル大統領選挙一口メモ(8)(終)】Whither democracy?大統領選挙後のモンゴル国政治(与党篇)

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 2021モンゴル大統領選挙一口メモ、最終回は与党モンゴル人民党についてです。創立、そして人民革命100周年の絶対落とせない戦いで圧勝したものの、むしろこれからが本当の問題になります。

 

 

0. これまでのあらすじ 

 

 本題に入る前に、今回の大統領選挙についてのエントリを再掲します。特に選挙後の野党(労働国民党と民主党)については、(7)をご覧ください。

  

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1. 2020年総選挙との結果比較・モンゴル人民革命党合流の効果はあったのか

 野党2党(正確には民主党と「正しい人・有権者」同盟ですが)同様、ここでも2020年総選挙から2021年の大統領選挙の間の変化を押さえておきたいところです。

 そのために、まずは、前回示した2020年総選挙結果の1人1票換算結果もあらためて記しておきましょう。まず、フレルスフ前首相を擁立した与党モンゴル人民党(以下「人民党」)が712,124.8、エルデネ前党首が立候補した民主党が388,180.5、「あなたと私の同盟」が128,353.9、今回エンフバト元国会議員を擁立した「正しい人・有権者」同盟が82,920.6となります。

 このうち、「あなたと私の同盟」を主導したモンゴル人民革命党(以下「人民革命党」)は大統領選挙前に人民党と合流しており、選挙戦でもフレルスフ前首相を支持したのは、以前書いた通りです。

 そこで人民党のポイントに「あなたと私の同盟」のものを足すと、840,478.7ポイントとなります。ただし、同盟の得票結果に基づくものを足したので、上記の計算結果は、いわば理論的最大値ぐらいに思っていただければと思います。

 その上で、前回示した大統領選挙の開票結果を再掲します。

 

gec.gov.mn

 

 フレルスフ前首相の得票は823,326票。そして、総選挙結果からの換算ポイントが712,124.8(人民党単独)~840,478.7(「あなたと私の同盟」全得票追加)となります。

 つまりは11万票強が上積みされた形なわけで、ものっそ単純化すれば、人民革命党の支持者が加わった効果が最大でこのぐらい、というように話を持っていくことができます。

 もっとも、全得票を追加した時のポイントからすれば、フレルスフ前首相の得票数は値としては小さくなりますが、その分は「あなたと私の同盟」の他党の支持者、あるいは合流に納得できなかった人民革命党の支持者の流出分である可能性が高いと考えられます。

 この11万票強という値が大きいか小さいかは、評価が分かれるところでしょう。ただ確実に言えるのは、人民革命党が合流しなくても、フレルスフ前首相は余裕で勝てたということです。

 仮にフレルスフ前首相の得票が、2020年総選挙のポイントからさらに端数を切り捨てて712,124票だったとしましょう。ここで差し引かれた11万票強が全て、エンフバト元国会議員に向かおうが、白票になろうが、フレルスフ前首相の過半数獲得は揺るぎません。

 加えて、もし全て棄権になったとしても、投票率は50%を割ることはなく、選挙は成立します。そして当然ながら、その場合はフレルスフ前首相が過半数を制することになります。

 ということは、少なくとも大統領選挙に関して言えば、人民党にとって人民革命党との統合の効果はゼロに等しかったことになります。もちろんこれは結果論ですが、今後の人民党内の動きに影響する可能性は考慮すべきでしょう。

 

2. 人民党フレルスフ党首の後任は誰か

 モンゴルの大統領は国民の団結を象徴すべき存在です。特定の党派に肩入れすることは、少なくとも建前上はあってはなりません。したがって、大統領就任に際しては党派を離脱することが求められます。

 これは人民党党首のフレルスフ前首相も例外ではありません。なので、フレルスフ党首は辞任し、人民党は新たな党首を選ばなければならなくなります。

 人民党の党規によれば、国会で与党となった際には首相が党首に立候補するとされています。この党規に則れば、オヨーン=エルデネ首相が党首の最有力候補となります。

 

www.nam.mn

 

 ただし、条文にあるのは「立候補」で、任命でも就任でもありません。ということは、他の党員が立候補して党首に選ばれることもあることになります。現時点では表面上の動きがないので具体的には書きませんが、対抗馬が出るとの憶測は既に出てきています。

 もっとも、誰が党首になるにせよ、一番の課題は党内のまとまりを維持できるかどうかです。以前のエントリでも書きましたが、現在の人民党は、エルデネバト政権への支持を巡って二分されたところをフレルスフ党首が力づくで締めてまとめたものです。その過程で対立者が要職を退いたり、国会議員引退に至ったりした例も散見されます。

 それだけに、前政権、あるいは現政権で鳴りを潜めている党内勢力が、党首交代を機に復権を図ろうとする動きも考えられます。そうなると、新党首の対応次第では再び党内が分断される恐れもあるのです。

 

3. 人民革命党からの合流組の処遇は

 他方、エンフバヤル元党首をはじめ人民革命党からの合流組の処遇も注目されます。合流に際しては党内ポストの確保などの噂が流れましたが、実際のところはどうなるのか。

 また、エンフバヤル元党首は天然資源の権益拡大に加え、新憲法制定(改正ではなく憲法自体を変えてしまう)といったラディカルな主張もしており、これらの扱いも気になるところです。

 ただ、上記のような主張がもともとの人民党の党員・支持者にどこまで許容されるかは分かりません。先述した大統領選挙の結果を考えれば、元人民革命党の一派に配慮するインセンティヴは乏しいところです。

 人民党と人民革命党との間には、2016年の総選挙前にも人民党との統合を表明しながら、立ち消えになった過去があります(『アジア動向年報2017』参照)。なので、今回の統合の動きが出てきた時も、当方は懐疑的でした。

 今回は結果として統合は実現し、人民革命党は解散しています。ですが、今後の扱い次第では、エンフバヤル元党首が不満を強めて再度分離という可能性も否定できません。その点では、次に述べる国会補欠選挙で、エンフバヤル元党首の子息バトショガル氏がどう扱われるかがポイントとなりそうです。

 

4. 国会議員の欠員はどうなるか

 フレルスフ党首・前首相は前回の総選挙で当選しており、新大統領就任に際して議員を辞職することになります。となると、欠員の補充が焦点となります。

 加えて、国会議員就任直後に首都知事に転じたスミヤバザル氏の議席も空いているため、この分も補充されなければなりません。

 実はこのスミヤバザル前議員の補欠選挙に関しては、人民党・人民革命党の合流前から、両党間で取引があったとの報道が複数なされています。人民革命党がフレルスフ前首相を支持する代わり、人民党が補欠選挙でバトショガル氏(先述したエンフバヤル元党首の子息)を支持するというものです。

 その上、両党が合同したとなれば、バトショガル氏の立候補の可能性は高まったようにも見えます。ですが、実際に立候補とするのに党内調整が必要となるのは、日本もモンゴルもそう変わりません。実際、人民党内には他にも立候補の可能性のある人物がいるとの報道もあります。

 

 

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 ではどうなるのか。日本では考えられないことかも知れませんが、あり得るシナリオの一つとして、補欠選挙を先送りにして、場合によっては次の総選挙までなしにしてしまうことがモンゴルではあり得ます。

 事実、スミヤバザル前議員の補欠選挙は本来なら春には行われるところ、いまだ具体的な計画が全く出てきていません。また、過去にも補欠選挙の方法を巡って憲法裁から選挙差し止めの判断が下り、結局総選挙まで欠員が残ったこともあります(『アジア動向年報2020』参照)。

 というか、キリル文字モンゴル語が読める方なら、先程の記事自体が「補欠選挙は延期になるのか」という見出しになっているのがお分かりでしょう。そして今に至るわけです。

 とはいえ、エンフバヤル元党首やその支持者からすれば、バトショガル氏の立候補が実現できないのは好ましくないところでしょう。他のポストでも当てがわれれば話は変わりそうなものの、補欠選挙が人民党にとって火種になる恐れはあります。

 

5. モンゴルは権威主義に向かうのか

 モンゴル内外を問わず気になっている人が多いのがこの点ではないでしょうか。社会主義時代の独裁政党が分派した左派勢力を取り込み、国会・内閣に加えて大統領の座も得たこと、しかも新大統領のフレルスフ氏の「軍隊好き」から、モンゴルの民主化への逆行や権威主義化を懸念する声はネット上でも少なからず見受けられます。

 ただ、少なくとも現時点で、そのような懸念を裏付ける動きは見受けられません。大統領選挙にしても、国際監視団から選挙手順について大きな問題点は指摘されていませんし、まして軍隊や警察と言った武力・実力による政治介入もありません。

 また、ロシア・中国への傾斜も現時点では考えにくいところです。先月末から今月初頭にかけて、バトツェツェグ外相が就任後初の外遊先としてロシアを訪問したところですが、正式加盟を巡る議論が数年来なされていた上海協力機構(SCO)について、協力は重視するものの現在の地位を維持する旨発言しています。

 

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 そもそも、人民党(当時の名称は人民革命党でしたが)は2001年から2004年にかけても国会・内閣・大統領府を独占していたわけで、しかも当時は今よりも国会での議席が多かったのです。

 ということは、人民党による権威主義化はその時にもあり得たわけです。にもかかわらず起きなかったことが、今懸念されると主張するのであれば、さらに十分な根拠が必要でしょう。

 さらに、当時であれ今であれ、民主化からの逆行は、モンゴルが「第三の隣国」と位置付けるアメリカや欧州諸国、日本や韓国と言った国々に対し、明らかにネガティブな印象を与えることになります。これらの国々の支援がまだまだ必要なモンゴルにとって、そのような行為が賢明とはとても言えますまい。

 もちろん、これから想定外の事態が発生し、状況が変わる可能性はあるでしょう。とはいうものの、モンゴルにとってロシア・中国との緊密な関係を発展させる一方で、自由民主主義諸国との価値観の共有に基づいて協力・支援を得ていくという基本方針が変わることは考えられません。

 だとすれば現在のモンゴルの政治、さらには経済のあり方は維持されるべきものなのです。この点は、モンゴルの人々が何より理解しているところでしょう。

 

 というわけで長くなってしまいましたが、ひとまず大統領選挙を受けた雑感としては、こんな感じです。

 大統領選挙が終わり、モンゴルではしばらく大きな政治日程はありません。そうなると、国内外の注目は、今回のシリーズでほとんど触れなかったCOVID-19の状況に、まして向かうことでしょう。

 それだけに、今後のモンゴルの政治については、少なくとも短期的には、感染の広がりと対策の成否がカギを握るものと考えられます。そして感染終息(収束?)後には、経済の立て直しも待ったなしです。

 ただそのためには、これらに政府与党が一致して取り組めるかが問われてきます。もしも党内の勢力争いが優先されるようなら、人民党の優位は簡単に失われるかも知れません。それこそ、前政権があっけなく消えたように。