2021年モンゴル国大統領選挙初回投票が6月9日に行われました。投票終了後に開票結果の速報が何回か発表されており、モンゴル人民党フレルスフ前首相が大差で当選、2回目投票は行われないことが確実です。以下、結果の概要を簡単に見ていきます。
- 1. はじめに:現時点での開票結果公表状況
- 2. 開票速報(10日15時時点)
- 3. エルデネ候補:予想以上の惨敗、最後はデッドヒート
- 4. エンフバト候補:善戦も決選投票には持ち込めず
- 5. フレルスフ候補:対立候補には圧勝。しかし真の勝者とは?
1. はじめに:現時点での開票結果公表状況
選挙結果についてはモンゴルの選管のウェブサイトを見るのが基本なのですが、本エントリ執筆段階でなぜか見ることができません。
なので、差し当たり現地報道を紹介したいと思うのですが、これがまた報道によって値がまちまちで非常にややこしい。元となる情報は同じ選管情報のはずなのに、同じ時点での投票総数や得票率が一致しない始末です。昨日からずっと各報道を照合してきたのですが、大元の選管発表情報がないと判断ができません。なので選管のウェブサイトを見るのが基本なのですが(以下無限ループ)
とはいえ、細かい数値の違いは今後も出てくるにせよ、結果はほぼ動かないものと思います。ここでは当方が現地時点で知る限り最新となる、10日15時時点での結果とされる報道に基づいて解説していきます。
なお、こちらは手集計による確認作業後のものということなので、その通りなら現状最も信頼できるデータだと思われます。
モンゴル語の分かる方は当該報道もご一読ください。
記事にリンクが張られた選管の記者会見の動画で分かるのですが、記事中の値と記者会見上での表示が違っています。
で、たぶん記事の本文の方が間違っています。ええ加減にせぇよ
なので、ここでは動画での値を採用します。
2. 開票速報(10日15時時点)
上記記事によれば、10日15時時点での開票結果の速報値は、下記の通りとなります。
- フレルスフ候補前首相(モンゴル人民党):823326票(得票率67.76%)
- エルデネ候補(民主党):72832票(得票率5.99%)
- エンフバト候補(国民労働党・モンゴル社会民主党・倫理党「正しい人・有権者」同盟):246968票(得票率20.33%)
- 白票71937票(5.92%)
ただし最終結果はまだ確定していないため、今後多少の変動はあり得ます。というか、この票数を足したら選管発表の投票総数をはるかに上回ってしまうのですが、どういう理由なのか、総数と得票率は昨日22時時点のものから変わっていないので、少なくともこの辺は変動しないとおかしいです。
ここからは結果について見ていきますが、詳細な分析はモンゴル政治がご専門の方にお任せして(無言の圧力)、ここでは現時点で言えそうな簡単なことを示していきたいと思います。
また、上記の順番のままというのも芸がないので、3候補のうち票の少ない順に取り上げます。
3. エルデネ候補:予想以上の惨敗、最後はデッドヒート
最大野党の候補ながら、悪材料ばかりが目立った民主党エルデネ派のエルデネ前党首。ちなみに「悪材料」がどんなものだったかについては、めんどくさいので選挙前のエントリをご参照ください。
自業自得とは言え支持基盤が崩れ、立候補決定の過程にも疑問符がつく中で、苦戦は必至ではありましたが、フタを開けてみると文字通りの惨敗でした。
得票総数は10万票にすら及ばず。与党フレルスフ候補の得票の10分の1すら下回るなど、全くもって相手になりませんでした。そればかりか、2位のエンフバト候補の3分の1の票すら得られなかった上に、開票途中では台風の目となったツァガーン氏ときわどい最下位争いを演じる始末でした。
……あ、ツァガーン氏というのは白票のことです。以前にも書きましたがモンゴルでは有効票扱いなのです。絶賛内紛中とは言え曲がりなりにも最大野党、二大政党の一角の候補が、誰も選びたくないという投票者の数を上回るとなれば前代未聞のことです。
エルデネ氏を擁立した民主党エルデネ派の幹部はこの結果について承服せず、与党による金権選挙と非難しています。
ただ、諸外国や国際機関からの監視団も招いて行った選挙で、しかもこれだけの差がついている以上、結果が変わる望みはまずないでしょう。
このような反応も含め、民主党エルデネ派や支持者にとって、今回の結果はまさに惨憺たる結果と言わざるを得ません。
4. エンフバト候補:善戦も決選投票には持ち込めず
エルデネ候補とは対照的に善戦したのが「正しい人・有権者」同盟のエンフバト候補です。同候補についても過去エントリをご参照ください。
都市以外で支持基盤が弱く、選挙戦終盤には新型コロナウイルス感染による入院で現場での選挙活動が不可能になったエンフバト候補。しかし、得票数はエルデネ候補をはるかに上回り、25万票近くを獲得。昨年2020年の総選挙で「正しい人・有権者」同盟が全選挙区で獲得した票が21万票近くなので、2割近くの票が加わったことになります。
また、先月行われた在外モンゴル国民の投票では、エンフバト候補が4分の3に当たる4084票を得て他の2候補を圧倒しています。有権者総数からすれば微々たるものですが、アピールポイントにはなり得ます。
とはいえ、エンフバト候補の得票がフレルスフ前首相に遠く及ばなかったのも事実です。このことは、エンフバト候補や同盟が民主党支持者の切り崩しや、第三勢力の支持者へのアピールにほとんど成功しなかったことを意味します。
選挙結果を受けて、労働国民党党首のドルジハンド国会議員は成果を強調しています。
しかし冷静に考えれば、この結果は労働国民党の、少なくとも現時点での限界も示したものとも言えるでしょう。
5. フレルスフ候補:対立候補には圧勝。しかし真の勝者とは?
すでに述べた通り、今回の選挙ではフレルスフ候補が勝利。そのフレルスフ候補について、こちらも以前のエントリを貼っておきます。
フレルスフ候補の得票数を、3候補の得票数に白票を足したもので割った暫定的な得票率を計算すると、67.4%になります。最終結果は変わってきますが、過去の大統領選挙と比較して最高の得票率になるのは間違いないでしょう。
それだけに、フレルスフ候補と与党人民党にとっては圧勝と言えそうな結果です。私もある程度はそう考えるのですが、以下の2点で留保をつけなければなりません。
第1に、今回の結果で露わになったのは与党側の強さよりも、むしろ野党側の脆弱さではないかという疑問です。
既に見た通り、エルデネ候補はそれでなくても不人気な上、民主党の凋落と内部対立を招いた張本人でもあり、民主党員の支持すらおぼつかない状態でした。また、エンフバト候補の支持層が限定的だったのも、これまた前述の通りです。
つまりは、支持どころか反感を買い続ける候補と、支持が広がりにくい候補を相手にしたわけです。有り体に言えば、フレルスフ候補も人民党も勝てて当然の選挙戦だったのです。
第2に、今回の選挙戦の投票率の低さを指摘しなければなりません。前述の動画によれば、投票率は59.35%。今後多少の変動はあり得ますが、今回の選挙は過去最低の投票率になることがほぼ確実です。
そうなると、得票率が高くても、国民全体での支持が同じように高いとは言い難いところです。
そこで、フレルスフ候補の得票率や投票率から、投票しなかった有権者を含めた得票率を計算すると、39.3%となりました。僅かながら4割を切る値です。
ということは、有権者全体で見た場合、フレルスフ候補よりも棄権者の方が多かったことになります。本エントリのタイトルもそこから来ています。流石にこういう名前の人はいないとは思いますが、ことモンゴルに限って言えばいても驚きません。
もっとも、繰り返しになりますが、ここで見ているのは速報値です。今後変化の可能性がありますし、それによりフレルスフ候補の得票が逆転する可能性も考えられます。
また、棄権者数よりも得票数が少なかった当選者が過去にいなかったわけではありません。特に最近は投票率が下がっていて、そのような候補が出やすくなっています。
とはいえ、フレルスフ候補の得票は過大に評価される恐れがある点には留意が必要である、とは言うべきでしょう。
さて、速報とは言え選挙結果が出たところで、気になるのはこの結果から今後のモンゴルをどう占うべきかです。ただ、それについては稿を改めて述べていきたいと思います。