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地域系学部というのに加わった大学教員による高知発モンゴル発のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

【2021モンゴル大統領選挙一口メモ(3)】立候補者のプロフィール・フレルスフ前首相(モンゴル人民党)

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 今回から2021年モンゴル大統領選挙の候補者3名について、順に簡単な紹介を書いていきます。まずは与党候補のフレルスフ前首相から。

 

 

 

0. はじめに:3候補の概説記事

 

 大統領選挙期間が始まった際に、各立候補者の経歴をまとめた報道がなされています。

 

www.polit.mn

 

 3候補のスローガンと主張の概要はこちらから。

 

dnn.mn

 

 さらに選挙公約と候補者審査結果へのリンクもあります。

 

montsame.mn

 

 モンゴル語の分かる方はこれらを読んでいただければ話が早いのですが、読めと言われても困る方の方が多いと思います。また、他にも選挙に関してポイントがあるので、今回から解説を加えていきます。

 最初にご紹介する立候補者はオフナーギーン・フレルスフ前首相。与党モンゴル人民党(以下「人民党」)が擁立した候補です。

 

1. 経歴:「軍人上がり」からモンゴル人民党内実権掌握、首相を辞職して大統領選挙挑戦

 フレルスフ氏は53歳、今回の候補者では最も若手です。首都ウランバートルで生まれ育ち、国防大学を卒業。この経歴から、自身を「軍人」とする発言がしばしば聞かれます。その後はモンゴル人民革命党(現人民党)でキャリアを重ねます。

 フレルスフ氏は人民党が地滑り的勝利を収めた2016年、エルデネバト首相による与党単独政権でも副首相を務めます。ところが、その直後に通貨トゥグルグ急落によって経済難が表面化、翌年にはIMF支援要請、さらに大統領選挙で人民党が敗北するなどの混乱が生じ、人民党は政権への支持をめぐって真っ二つに割れます。

 この機会にフレルスフ氏は副首相を辞任、政権への攻撃に打って出ます。この賭けは当たり、エルデネバト政権は崩壊。フレルスフ氏が次期首相の座を勝ち取ります。さらにフレルスフ氏は人民党党首にも就任します。この動きに不満を持った人民党の反フレルスフ派は2018年に内閣不信任案を提出しますが、国会はこれを否決、フレルスフ氏が党内での権力を完全に掌握します。

 フレルスフ氏は2020年の総選挙でも人民党の議席数をほぼ守り、引き続き首相を務めますが、2020年末にモンゴル国内でCOVID-19感染が発覚、そのために採ったロックダウンでウランバートル市内の混乱を招いたことから、徐々に支持を失っていきます。

 そして2021年、ウイルスに感染した妊婦に対し、保健職員が厳寒の中、パジャマとスリッパだけで移動させる動画が拡散すると、市民の怒りが爆発、外出規制を破るデモに発展します。その結果、フレルスフ氏は責任を取る形で首相を辞任します。

 ただ、フレルスフ氏は党首として党内での権力を維持します。そして人民党内での候補者選択で、党幹部のほぼ全員一致で大統領選挙への立候補が決まりました。

 この辺の経緯は過去の『アジア動向年報』をご参照ください。また、今後公刊する原稿でも述べていく予定です。

 

www.ide.go.jp

 

2. 選挙スローガン「自らの資源の主たるモンゴル」

 今回の選挙で、フレルスフ氏は資源ナショナリズムを彷彿とさせるようなスローガンを掲げています。背景として考えられるのは2点です。

 まず、モンゴル国内のオヨー・トルゴイ銅鉱を巡る問題です。世界最大級と言われるこの銅鉱を巡っては、開発の遅れと支出の膨張が問題となっており、モンゴル政府と投資者のリオ・ティント社及びその関連企業との間で、目下係争が起きています。特にモンゴル側から見れば、リオ・ティント社らが自国の資源で利益を上げる一方で、モンゴルにはほとんど利益がないばかりか、巨額の債務が押し付けられているという不満が存在しています。

 

montsame.mn

 

 このような状況を考えれば、資源開発を巡ってナショナリズムを煽り、自らの指示に結びつけようとする戦術は理解可能です。もっとも、銅鉱開発の交渉に当時の人民革命党・人民党がノータッチだったかは別問題ですが。

 そして2点目は、人民党に再合流した(第2次)人民革命党の取り込みです。2010年に当時の人民革命党は現在の名称である人民党への改称を決めたのですが、エンフバヤル元大統領率いる一派がこれを不服として分派、人民革命党の名称で独立します。

 その後、こちらの人民革命党は徐々に離脱者を出しながらも、エンフバヤル元大統領個人への支持と、天然資源開発に乗り出した外資への攻撃的発言、さらに資源の利益の分配を謳うことで、第三勢力としての立場を維持します。

 ところが、今年に入ると人民革命党は人民党と接近。4月には両党間で大統領選挙での共闘と合同についての合意がなされます。そして先月、人民革命党最高裁に解散を届出、両党は正式に再合流しました。

 今回フレルスフ氏と人民党が掲げたスローガンは、エンフバヤル元大統領らの主張を連想させます。というか、そっくりそのままといってもいいでしょう。その背景には、新たに加わった第2次人民革命党の勢力を取り込みたい意図が見えるように思います。

 もっとも、そうして取り込める第2次人民革命党の支持層の規模は決して大きいとは言えず、そこまで配慮しなくても、という疑問も感じます。もともとの人民党の支持者からも不満や疑義が出てくるかも知れません。とはいえ、選挙に出る立場からすれば、支持は少しでも大きくしたいところなのでしょう。

 

3. 選挙見通し:当選最有力も一抹の不安、初回投票で当選できるかがカギ

 過去の世論調査データや報道を見る限り、大統領に最も近いのはフレルスフ氏です。最盛時ほどは期待できないとはいえ、フレルスフ氏には一定数の支持が残っていますし、ワクチン接種が進めば(そしてモンゴルでは世界的にも驚異のスピードで進んでいます)与党には有利となるでしょう。

 何より、詳しくは後述しますが、対立候補が弱過ぎます。民主党のエルデネ前党首は国民どころか党内でも「嫌われ者」、正しい人・有権者同盟のエンフバト元国会議員は知名度にかなりの難があります。それだけに、フレルスフ氏は「普通にやれば大丈夫」にも思われます。

 ただ、不安がないではありません。先程は支持が残っていると書きましたが、裏を返せば一部の支持を失ったことにもなります。

 となると、問題はこの失った支持がどの程度のものか、ということです。特に、首相辞任の際には、引責よりも大統領選挙への立候補が真の目的だとする観測も出ており、フレルスフ氏への見方は意外と冷めているかも知れません。

 

dnn.mn

 

 また、モンゴルでは今まさにCOVID-19の感染が急拡大しています。6月4日保健省発表によれば、直近24時間に1189名の感染判明、累計の感染者は62585名。13名が死亡,死者は累計301名となっています。人口350万人程度、四国より人口が少ない国で、この値なのです。

 政府はこれ以上の経済停滞を恐れてか、過去のような強力な全国ロックダウンを採らないことを明言しています。一方で感染の不安は収まらないため、世論の不満が与党に向かう可能性は十分考えられます。

 このような不満が高まれば、当然フレルスフ氏には逆風となります。初回投票で生き残れたとして、2回目投票に進めなかった候補者の支持層がフレルスフ氏に流れる保証はありません。

 モンゴル人民党にとって、今年は党創立、ならびに旧人民革命党が主導した人民革命100周年の記念すべき年です。まして、前回2017年、前々回2013年の大統領選挙では敗北しているだけに、今年の大統領選挙は是が非でも勝たなければなりません。

 そのためにも、フレルスフ氏は1回目投票で逃げ切りを図りたいところです。「敵失」もあって一見安泰に見える選挙戦ですが、意外ともつれる展開も考えられないではないのです。