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【2021モンゴル大統領選挙一口メモ(5)】立候補者のプロフィール・エンフバト元国会議員(正しい人・有権者同盟)(6/7追記)

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 2021年モンゴル大統領選挙一口メモ、今回は労働国民党が擁立し、同党が主導して国会に議席を有する「正しい人・有権者」同盟から立候補したエンフバト元国会議員を取り上げます。

 

 

 

1. まずはおさらい:各候補の経歴・スローガン・選挙公約

 前々回と前回に続き、今回もおさらいとして、各候補の経歴・スローガン・選挙公約を示した記事を順に再掲します。

 

www.polit.mn

dnn.mn

montsame.mn

 

2. エンフバト元国会議員の立候補まで

 これもおさらいですが、今回の大統領選挙に候補者を擁立する資格があるのは、モンゴル人民党民主党、あなたと私の同盟(モンゴル人民革命党、市民の意志・緑の党、モンゴル伝統統一党)、正しい人・有権者同盟(労働国民党、モンゴル社会民主党、倫理党)の4党・同盟です。

 ただし、あなたと私の同盟はというと、主導するモンゴル人民革命党が人民党との共闘を早々と決め、ついには同党に合流して解散*1。他の構成政党は候補者を擁立するに至らなかったばかりか、この決定に対し、人民革命党及び同盟から国会議員に唯一当選したガンバータル国会議員は民主党トワーン党首代行派に移籍してしまい、議席を失った形となりました*2。そのため、今回は他の3勢力による選挙戦となりました。

 そして、人民党が党幹部の協議で、民主党が(エルデネ派の)党内選挙で候補者を選んだのに対し、正しい人・有権者同盟は、同盟を主導する労働国民党が候補者の一般からの推薦を募るキャンペーン「大統領を発注しよう」を展開します。

 このキャンペーンで名前が挙がった中で、推薦を受諾して候補選に臨んだうちの一人が、エンフバト元国会議員です。そして労働国民党執行部の選挙で同氏が最大得票を獲得、候補者指名が決まりました。

 

unuudur.mn

 

3. エンフバト元国会議員略歴と主な主張

 エンフバト元国会議員はウランバートルで生まれ育ち、当時のエリートコースとなる旧ソ連留学も経験した人物。市場経済化開始後、インターネットという言葉が影も形もなかった1994年にダータコム社を創設、情報通信技術の黎明・拡大の時期を代表する企業に育て上げます。

 その後、2008年にはモンゴル緑の党から国会総選挙に立候補して当選。後に市民の意志党と合同し、市民の意志・緑の党の共同党首を務めます。

 ただしこの合同に際しては反対者が分立、緑の党の党名を引き継いで現在に至ります。またエンフバト元国会議員自身も後に市民の意志・緑の党を離れたようで、同党は2020年総選挙であなたと私の同盟に加わっています。もっとも、人民革命党の解消後に同盟がどうなったのかは分からないのですが。

 そして今回の大統領選挙では、エンフバト元国会議員は「モンゴルはできる」というスローガンを掲げています。また、先程のスローガンに関する記事では、党派性を排除した専門家グループを結集し、チーム・モンゴルを構成するとしています。

 

4. 選挙戦と今後の見込み

 エンフバト元国会議員は、その経歴や都市(のおそらくは比較的若年層、中間層)に基盤を持つ労働国民党の特徴もあってか、インターネットやSNSを中心に選挙戦を展開しています。立候補決定直後にはClubhouseでインタビューを実施、また"de facto"の二つ名で知られるジャーナリストのジャルガルサイハン氏を味方につけ、Facebook上でもPRを図っています*3

 ちなみに、ジャルガルサイハン氏のサイトがこちら。日本語版もあるのが貴重です。

 

www.jargaldefacto.com

 

 ただ裏を返せば、地方住民や高齢者層への知名度にはかなりの難があります。確かにモンゴルは若い国で、首都ウランバートルに人口の半分が集中するわけですが、そうは言っても首都の比較的若年層を全て取り込めるわけではありません(むしろ人民党に流れる可能性もあるわけで)。

 それだけに、地方へのアピールは至上命題なのですが、この点でエンフバト元国会議員には不運が相次いでいます。

 先日は東南部のスフバータル県での遊説に向かったものの、悪天候で飛行機が着陸できず断念。

 

 

www.facebook.com

 

 その上、5日にはあろうことか、同氏夫妻の新型コロナウイルス感染が判明。

 

unuudur.mn

 

 幸いにして無症状なものの、国立第2病院に入院を余儀なくされることになってしまいました。

 

www.montsame.mn

 

 厳しい状況に直面するエンフバト元国会議員。ですが、それでもエルデネ氏に不満を持つ民主党支持層からの票の流入、さらにはネット・SNSに親和的な層からの投票を多く得られれば、初回選挙で2位に踏みとどまる道が開けてきます。

 そしてそうなった場合、こんどはエルデネ氏の支持者からの票も多く得られるでしょう。この層が人民党フレルスフ前首相にこぞって投票するシナリオは考えにくいところですし、

 それだけに、エンフバト元国会議員からすれば、人民党にはこれ以上権力を持たせたくない、かといってエルデネ氏はごめんこうむる、という層の票を初回投票でどれだけ掘り起こせるかがカギになると言えるでしょう。

 ただそもそもとして、そのような層を投票所にどれだけ向かわせられるかが問題かも知れません。

 ちなみに、今日6月7日は大統領選挙立候補者の討論会が予定されています。通常形式での開催はどう考えても不可能ですが、同氏はオンラインでの開催を主張しており、これが実現するかどうかが気になるところです。

【追記】

 ……と思ったら中止だそうです。

 

dnn.mn

*1:人民党から立候補したフレルスフ前首相に関するエントリを参照

*2:民主党トワーン派についてはこちらのエントリも参照。

*3:統計を持っていないので確言はできないのですが、SNSの中でもモンゴル、特にウランバートル市民にはFacebookが浸透していて、ネットでのやり取りは主にFacebook経由になっています