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地域系学部というのに加わった大学教員による高知発モンゴル発のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

【2021モンゴル大統領選挙一口メモ(7)】投票用機械別開票結果と大統領選挙後のモンゴル国政治(野党篇)

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 気がつけば大統領選挙から1週間以上過ぎてしまいました(汗)この間の動きも含めて、選挙後のモンゴル国政治について、候補を擁立した政党を中心に考えてみたいと思います。

 

 

 

1. まずは選挙結果を振り返る

 

 先日のエントリで開票速報について述べましたが、結局そのまま(だと思います)確定したようです。

 選挙中央委員会(モンゴルの選挙管理委員会の全国組織。ただなぜこんな日本語訳になったのか今となっては謎)が結果を公開していますが、モンゴルでは電子投票が行われていて、なんと投票用の機械別の集計となっています。それがコチラです。

 

gec.gov.mn

 

 とりあえず、総計も示されていてホッとしました。これ、機械ごとの結果を全部足すとか無理ですからね。Excelにコピペができればまだ助かりますが……

 ともあれ、フレルスフ前首相が低投票率の戦いで圧勝、エンフバト元国会議員は善戦、エルデネ前民主党党首は惨敗、という結果は変わりません。

 

2. 2020年総選挙からの変化、を見るためのややこしい話

 ここで気になるのが、昨年2020年の総選挙から政党の選好にどのような変化があったのかです。それを見るためには、総選挙でのモンゴル人民党(以下「人民党」)、民主党、「正しい人・有権者」同盟とフレルスフ前首相、エルデネ前党首、エンフバト元国会議員の得票を比較するのが単純明快……であってほしいのですが、実は総選挙の結果が曲者も良いところなのです。

 まずはその結果について。選挙中央委員会が公開しているのは選挙区ごとの結果で、全国総計を計算するのは正直しんどいので、集計してくれているサイトの情報を示します。

 

www.electionguide.org

 

 ここで問題となるのが、2020年総選挙は中選挙区完全連記制で行われたこと、また選挙区によって有権者の票数が異なることです。

 どういうことか?2020年総選挙は、選挙区ごとに定数が2または3となっていて、有権者は定数に合わせた票を投じることになっていました。

 また、選挙区は全国で29、そのうち定数2のものが11、定数3のものが18となっています。

 そのため、上記の結果は1人1票の大統領選挙と同じように扱うことはできないのです。票数で割る、しかもその票数が選挙区によって異なるのでそのウェイトをかけるという作業が必要になります。

 この辺、政治学では厳密な計算方法があるのでしょうが、私は専門ではないので、単純に計算したところ、人民党のポイントが712,124.8、民主党が388,180.5、モンゴル人民革命党を含む「あなたと私の同盟」が128,353.9、労働国民党を含み、今回エンフバト元国会議員を擁立した「正しい人・有権者」同盟が82,920.6となりました。

 「あなたと私の同盟」のポイントも算出したのは、今回の大統領選挙に際してモンゴル人民革命党と人民党が合同して臨んだので、この同盟に投票した有権者が人民党のフレルスフ候補に投票したと仮定した計算も必要だと考えたためです。

 というわけで、ここからは上記のポイントも踏まえた上で話を進めます。

 

3. 労働国民党:大政党への成長に立ちはだかる壁

 「正しい人・有権者」同盟については、以前のエントリではさほど票を伸ばせなかったと書いたのですが、どうやら撤回しないといけません(汗)上記のポイントで言えば3倍増に相当する成果を示したわけで、健闘かつ躍進と言えるでしょう。

 もっとも、労働国民党が民主党に代わって二大政党の一角を担うには、まだ時間がかかりそうです。確かに大統領選挙では次点となったものの、その地位はむしろ民主党の自滅、自壊によって転がり込んできたと言うべきです。

 実際、前回総選挙での民主党の得票ポイントと、今回のエンフバト元国会議員の得票とは開きがありますし、現実を見ると国会にあるのは1議席のみ。地方議会での議席もほとんどなく、現有勢力としては民主党との差がまだまだあります。

 また、モンゴルでは比例代表制に対して憲法裁の違憲判断が示されており、判例が変更されない限り、今後の総選挙も完全小選挙区制ないし中選挙区完全連記制で実施されることが見込まれます。また、これまでの議席配分は首都ウランバートルと比較して地方に手厚いものでしたが*1、もともと地方で強い人民党に加え、都市での地盤を失いつつある民主党にも、1票の格差を改めるインセンティヴは見当たりません。

 それだけに、労働国民党にとっては次期総選挙までに地方にどこまで浸透できるかが重要なポイントになります。人民党の岩盤を切り崩すのは容易ではありませんが、まずは、人民党にも民主党にも飽き足りない有権者を引き付けることが課題で、そのためには現在の同盟を超えた連携も選択肢に入るでしょう。

 さらには、民主党の内紛が収まらない場合、労働国民党が支持者の受け皿になることも予想されます。この内紛については次にも述べます。

 

4. 民主党:終わらない党内対立

 エルデネ前党首派とトワーン前党首代行派との間で、党本部から党首に加え、大統領選挙の立候補者すら分立(結局はエルデネ前投手のみが認められましたが)するという前代未聞の内紛劇の末に惨敗を喫した民主党。当然ながら対立の収拾が最大の課題となるのですが、その見通しは現在のところ全くありません。

 理由の一つが司法判断の遅れです。両派の間では党首の印璽の有効性を巡って法廷闘争が繰り広げられているのですが、大統領選挙候補者公判差し止めの訴えを認めた初級裁の判決が控訴裁で差し戻しとなった上、この判決について両派の見解が対立するなど、事態は混迷をさらに深めています。

 ちなみに判決についての報道です。肝心の判決全文が見つかりません……

ikon.mn

 

 そして対立する両者の見解です。

www.zms.mn

 

 また、両派の力関係も一筋縄ではいきません。過去のエントリで見た通り、エルデネ派は大統領選挙の立候補を認められたものの、民主党の国会議員はトワーン派寄り。司法の最終判断がまだ出ていないこともあり、一方がもう一方を圧するには至っていません。

 この状況で民主党出身のバトトルガ大統領が退任すれば、この問題に介入するのは必至です。バトトルガ大統領はエルデネ前党首の立候補に際して民主党員の一致した支持を訴えましたが、一方でエルデネ前党首の背後にいるエルベグドルジ前大統領とは折が悪く、両派どちらにつくのか、あるいは第三者的な立場をとるのかは定かではありません。

 さらに、一方が出て行って新党結成というシナリオも、現状では考えづらいところです。そもそも独立する気があれば、とうの昔にそうしていたはずです。

 つまり、両派の目下の対立は、民主党としての正統性をかけた争いです。こうなった背景には、これまで見てきた問題の経緯もあるでしょうし、あるいは党組織や支持者と言った「資産」に加え、民主化運動の正統な流れを汲む政党という金看板を巡る争いでもあるのかも知れません。

 となると、両派には矛を収めるインセンティヴはありません。負けても守れるものがほとんどないためです。

 このままですと、争いの行方はいつ出るか分からない司法の最終判断を待つことになりかねません。流石にそれはマズいと思ったのか、民主党国会議員団から、党執行部一本化のために臨時党大会を開くべく、署名集めの動きが出てきました。

 

montsame.mn

 

 はたしてこの試みが成功するのか。そして、自分たちこそ正統と称し、内部分裂を否定するエルデネ派、トワーン派の中心人物たちに届くのか。そういう間に裁判が進むのか。この展開によって、モンゴル政治の行方も変わってくることでしょう。

 

 与党人民党の話も書きたかったのですが、長くなったので稿を分けます。ここで頭出しだけしておくと、大統領選挙で勝ったことが新たな火種を生むこともある、ということです。

*1:国家統計庁によれば、2019年末時点での首都9地区の人口が約154万人と全国の47%近くを占めるのに対し、2020年総選挙での定数は24で、全体の32%に止まっています。