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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

モンゴル2024年国会総選挙参加政党・同盟について(4)国民同盟

 

 今回のエントリではモンゴル2024年国会総選挙に際してモンゴル緑の党とモンゴル民族民主党が結成、ノムトイバヤル元国会議員が主宰する国民同盟を取り上げます。

 

 

 

1. はじめに

 モンゴル2024年国会総選挙まであと1週間を切りました。今回のエントリでは第三勢力の1つ「国民同盟」(Үндэсний Эвсэл)を取り上げます。

 例によって、今回の内容については『アジア動向年報』モンゴルの項に関連の記述がありますので、どうぞご参照ください。

 

ir.ide.go.jp

 

2. モンゴル緑の党とモンゴル民族民主党の同盟

 国民同盟は、モンゴル緑の党(以下「緑の党」)とモンゴル民族民主党(以下「民族民主党」)が今回の総選挙で新たに結成した同盟です。同盟なので統一名簿で選挙に臨んでいます。

 それぞれ見ていくと、緑の党は2012年に発足した政党ですが、源流は1990年代からの歴史を持つ同名政党です。同党は1996年には民主化勢力と民主連合同盟を結成して総選挙に参加、政権を獲得しています。

 その後、2012年に当時の執行部が市民の意志党との合同を決めて解党されたのですが、これに反対する勢力が新たに政党登録を行ったのが、現在の緑の党です。ただし、2012年以降の緑の党は国会選挙に参加するも、国会での議席を得たことはありません。

 一方、民族民主党は1990年代にも(日本語、英語では)同名の政党があって紛らわしいのですが*1、こちらは2005年に民主党内の対立から離党の末に結成された国民新党が2011年に党名を改称したもので、両者に直接の関係はあるんだかないんだかです。

 同党は2012年に(第2次)人民革命党と「正義」同盟を結成、11議席を獲得してキャスティングボートを握ります。しかし、続く2016年の総選挙では人民革命党が単独で臨むことになり、行き場を失って不戦敗*2。さらに2020年には正義市民同盟党(現「新党」)・共和党・真正党と「新同盟」を組んだものの、議席ゼロに終わります。

 このように、歴史があると言えばあるのですが、近年は国政への影響力に乏しい両党。今回同盟は結成したものの、それだけでは議席獲得は厳しいと言わざるを得ないのが実際でした。

 ところが、2024年に入って状況が変わります。

 

2. ノムトイバヤル元国会議員が同盟のリーダーに

 緑の党と民族民主党はそれぞれ2024年1月に同盟結成を決議。盟主としてノムトイバヤル元国会議員を選出します。

 

unuudur.mn

 

 ノムトイバヤル元国会議員はもともと人民党の国会議員でしたが、2018年にJDÜKhS疑獄をめぐって当時のフレルスフ首相(人民党)と対立、首相不信任案の提出に加わります。ところが首相解任の動きは失敗、フレルスフ首相が党内の実権を掌握した一方で、2020年の総選挙前にノムトイバヤル国会議員は腐敗の疑いで党を除名され、不逮捕特権を停止された末に、議員辞職に追い込まれます。

 これを政治的弾圧と主張するノムトイバヤル元国会議員は、その年の総選挙で無所属での立候補を試みますが、その直前に職権濫用の疑いで逮捕されます。これに対し無実を主張する氏の陣営は父親を陣頭に立てて選挙戦に臨みますが、結果は落選。また裁判では実刑判決が確定しました。

 そして、2021年に釈放され、再起の機会を窺っていたノムトイバヤル元国会議員に対し、国民同盟が白羽の矢を立てたのです。国会議員としての経験と知名度のあるノムトイバヤル元国会議員が前面に立つことで、国民同盟への注目度は俄然上がります。

 

3. 総選挙参加も比例代表名簿をめぐって選挙管理委員会と対立

 国民同盟は今回の総選挙で選挙区・比例代表とも参加、比例代表ではノムトイバヤル元国会議員を第1位とする名簿を提出します。ところが、選挙管理委員会はノムトイバヤルら一部候補の立候補を却下する決定を下します。とくにノムトイバヤル元国会議員については、過去の有罪判決から立候補が法で禁止されているというのが、却下の理由でした。

 

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 しかし、ノムトイバヤル元国会議員はこれを不服として告訴。結果として最高裁はノムトイバヤル元国会議員の有罪判決は立候補禁止の条件に該当しないとして、選挙管理委員会に立候補承認を命令。ノムトイバヤル元国会議員は晴れて立候補できるようになりました(この辺のせいで、当ブログの過去エントリも記述が混乱したわけです……)。

 

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 さらに、選挙管理委員会は他の比例代表候補2人についても、人民党から離党していないとして届出を却下していましたが、最高裁はこちらの決定も認めない判決を下しています。

 

zms.mn

 

4. 人民党主流派批判層の受け皿になれるか?

 先述したフレルスフ首相不信任案をめぐる闘争の結果、敗れた勢力は人民党から事実上追い出されるか、フレルスフ体制への順応を余儀なくされました。これは、ある見方からすれば腐敗の当事者の一掃であり、旧来の政治化を退場させて人民党内の世代交代をもたらす動きであったと評価できます。

 ですが、別の見方もできないではありません。フレルスフ首相の後を受けたオヨーン=エルデネ首相は2023年から反腐敗闘争を前面に掲げています。ですが、その手法には異論も少なくありません。加えて、腐敗疑惑で被告とされた中には裁判で無罪となった人々も少なくなく、そもそもの嫌疑や訴追が反腐敗に名を借りた政治的意図によるとの疑いも、モンゴル国内では燻っています。

 それだけに、人民党の支持者(かつての支持者)の中に、フレルスフ・オヨーン=エルデネ両首相による党運営や政治手法に納得がいかない人々が存在するものと想像されます。そのような見方に立てば、ノムトイバヤル元国会議員は現在の人民党中央による「粛清」の被害者と見ることも可能です。しかも、ノムトイバヤル元国会議員をはじめ旧人民党員が総選挙への立候補を一時的にでも妨げられたという事実は、そのような見方を補強しかねません。

 とすれば、それらの人々にとって国民同盟は有力な選択肢となり得ます。今の人民党には疑問があるが、さりとて民主党や人間党に票を入れたくない人々にとって、国民同盟が「別の人民党」になり得る、ということです。

 ここで注目されるのが、社会主義時代末期、1980年代後半に首相を務めたソドノム氏の動きです。氏は今回の総選挙で人民党ではなく国民同盟の候補者証書交付式(日本の選挙戦でいう出陣式に近い)に出席、ノムトイバヤル元国会議員を激励しました。

 

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 また、インタビューでも国民同盟の選挙公約を評価しています。

 

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 ソドノム元首相とノムトイバヤル元国会議員との間に個人的なつながりがあるような話もありますが、だとしても、人民党支持者に対するインパクトは決して軽くはないとみられます。

 

5. 選挙戦は経済成長重視?

 国民同盟は「国民の力で豊かになろう」とのスローガンとともに、選挙公約「国民生産を支援しよう、国民の力で豊かになろう」を発表しています。選挙公約は選挙管理委員会のウェブサイトで公開されたPDFファイルで見ることができます。

 (他党・同盟もそういう面はありますが)選挙公約はどうしても総花的なものになりがちで、これだけで傾向を読み取るのは難しいです。ただ、スローガンやタイトルからすれば、経済成長重視という印象は受けます。また、選挙戦についての報道を見ても、経済成長や雇用拡大、民間部門の自由拡大といった点を強調しているようです。

 その是非は置くとして、このような政策が緑の党の支持者に刺さるのかどうか、という疑問は生じます。また、旧来からの人民党支持者を取り込む上で、分配や社会福祉があまり前面に出てこないのは気になるところです。

 

6. 小括

 前項のような疑問はあるものの、国民同盟は全選挙区と比例代表に多くの候補者を擁立しており、第三勢力の中では人間党とともに複数議席獲得の可能性も十分あります。また経緯から人民党との連立はそのままでは考えにくいものの、民主党となら連立政権樹立の可能性もあるでしょう。ただそれもこれも、人民党からどこまでの票を奪えるかが成否を握っていると言えそうです。

*1:1990年代の「民族民主党」はМонголын Үндэсний Ардчилсан Нам, 現在の「民族民主党」はМонгол Үндэсний Ардчилсан Намです。どう訳し分けろと。

*2:この辺の経緯は不明ですが、少なくとも公式結果を再確認した限り、民族民主党の候補者は見つかりませんでした。