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モンゴル2024年国会総選挙参加政党・同盟について(3)人間党

 

 今回はモンゴルの現国会(第8次国会)で第三勢力唯一の議席を維持している人間党(旧労働国民党)を取り上げます。ただし前回総選挙等に関するエントリと被る内容もあるので、それらもぜひご参考に。

 

 

 

1. はじめに

 今回からはモンゴル2024年国会総選挙参加政党・同盟のうち、人民党(モンゴル人民党)と民主党以外の第三勢力について見ていきます。最初は本エントリ執筆時点で第三勢力唯一の議席を持つ人間党(旧労働国民党)についてです。

 ただし、この党は現在に至るまでの経緯がちょっとややこしいです。ここでは簡単にのみご説明しますので、詳細は例によって『アジア動向年報』モンゴルの項をご覧ください。とくに2016年版(2015年のモンゴル)や2021年版(2020年のモンゴル)辺りがご参考になるかと。

 

ir.ide.go.jp

 

2. 旧労働国民党が2022年に改称

 人間党はもともと労働国民党と称していましたが、2022年の党大会で改称しました。日本語にすればまるで名前が違いますが、モンゴル語では当時の略称(ХҮН)と現在の党名(ХҮН Нам)がほぼ一緒です。

 もっとも、厄介なのがこの党名をどう日本語に訳すかです。この党名を「人間党」としたのは、モンゴル語でХҮНが「人間」の意味であることが理由で、党綱領等を見ても「人間」と解するのが良いだろうとの判断によります。

 ただ、英語の資料を見るとそのままThe HUN Partyとして、モンゴル語を訳していないものもあります。しかも、私が探した限り公式な英語名がなく、どうするのが正しいのかが分かりません。この例に倣うと党名は「フン党」になるのでしょうが、カタカナだと「フン族の政党か?」って思う人も出てきそうな気もするので、いささかためらわれます。

 ちなみに、党名改称を決めた党大会では、党の基本方針を中道右派と宣言しています。見た目の名前と違い、中身はガラッと変わっています。

 

3. 2015年に党勢急拡大も内部対立で2016年総選挙は参加不可能に

 旧労働国民党は2011年に結成された政党ですが、その後は休眠状態にありました。これに目をつけたウランバートルの外国留学経験者や若手実業家らが2015年に党の運営権を掌握、ウランバートル市内でのデモ挙行などで注目を集めます。さらに同年には当時人気が高かった無所属のガンバータル国会議員が入党、国会での議席を獲得しました。翌年にはガンバータル国会議員が党首に就任します。

 これによって翌2016年の国会総選挙では労働国民党が躍進するかと思いきや、内紛が勃発します。2016年に幹事長人事をめぐって同党はガンバータル国会議員派と反対派に分裂、反対派も党首を立てる事態となります。この経緯は不明な部分が多いのですが、今になって思えば、労組上がりでポピュリストと目されるガンバータル国会議員と実業家中心の党幹部では、そもそもソリが合わなかったのでしょう。ともあれ、党内の混乱が収まらないうちに総選挙の準備期間が終了、労働国民党は申請が間に合わずに総選挙に参加できなくなってしまいました。

 ちなみに、ガンバータル国会議員は議員失職後に(第2次)人民革命党の候補として2017年の大統領選挙に立候補します。ここでは落選しますが、2020年総選挙では人民革命党中心の「あなたと私の同盟」候補として国会議員に返り咲きます(この辺は当ブログ過去エントリもご参照ください)。そして同党が人民党再統合を決めると、それを是とせず民主党入りし、今回も民主党候補として第1選挙区から立候補しています。

 

4. 2020年総選挙に「正しい人・有権者」同盟で議席獲得、2021年大統領選挙でも健闘

 混乱によって命運尽きたかに見えた労働国民党でしたが、ガンバータル派が去った後に残った幹部らによって、党再建が進められていました。そして2020年総選挙ではモンゴル社会民主党と倫理党とともに「正しい人・有権者」同盟を結成、ドルジハンド候補が唯一の議席を獲得しました。

 翌2021年に行われた大統領選挙では候補者にエンフバト元国会議員を指名。当選した人民党フレルスフ元首相には大きく差をあけられたものの、党内分断を解決できない民主党エルデネ候補を尻目に次点となりました。さらに、2議席を争って行われた国会議員補選では当時の第28選挙区(首都西部ソンギノハイルハン地区の一部)でナイダラー元党首が立候補、こちらも当選はしなかったものの民主党候補のバト=ウール元首都知事を上回る票を集めています。ただ、もう一方の第18選挙区(東部ヘンティー県)では候補者が擁立されず、首都以外での支持基盤の弱さを露呈する形となりました。

 

5. 2024年総選挙は単独参加、

 その後現党名に改称した人間党は、今回の総選挙に単独で臨みます。同党は「変革する!その時が来た」とのスローガンを掲げ、比例代表47人(定数48)、選挙区75人(定数78)を擁立しています。

 このうち、ドルジハンド党首・国会議員やガンゾリグ幹事長、さらにナイダラー元党首・理事は比例代表で、また理事の多くは比例代表または首都の選挙区から立候補しています。支持基盤が首都に集中する状況を考えれば、堅実な選択と言えるでしょう。

 

6. 選挙公約は経済成長重視、日本式高等専門学校の拡充明記

 人間党の選挙公約は公式ウェブサイトで動画も含めて公開されています。

 

www.hunnam.mn

 

 選挙公約では「強力な経済」「人間志向の投資」「人権を尊重する簡素、有能で腐敗のない国家」「自然寄りの開発」「国防・対外関係・在外モンゴル人向け政策」「都市開発・インフラ」「地域開発」を柱としており、簡単に言ってしまえば経済成長や小さな(ってだけでもないですが)政府、人的投資志向が押し出された形です。「人間志向の投資」では年金改革も示されていますが、同じテーマに含まれる教育改革と保健改革よりは言及が小さくなっています。

 一方で、個人的に興味深いのが教育改革です。まず、真っ先に示されているのが英語の第2言語化です。これは単なる英語教育推進では済まない話で、モンゴルで社会主義時代から行われてきたロシア語教育の大幅な縮小を必然的に伴うものになります。

 また、日本式の5年制高等専門学校の拡充も謳われています。モンゴルでは日本の支援で高専が導入されており、既に卒業生も出てきています。この「コーセン」(日本語がそのままキリル文字になっています)について、地域開発の一環として拡大することが、選挙公約に盛り込まれているのです。ということは、地方ごとに高専を作るということでしょうか。高等教育機関のほとんどがウランバートルに集中する現状を考えても、注目されるところです。

 

6. 日本の大学院留学経験者らが立候補

 人間党で特に私が注目しているのが、日本留学経験者の存在感です。人間党は幹部に大学院修了生や外国留学経験者が多いのですが、公式サイトを見ると、ドルジハンド党首が一橋大学、ナイダラー元党首・理事が神戸大学(!)でそれぞれ修士号取得したとあります。

 さらに、比例代表では第10位のミンジマー候補が神戸大学(!!)、第13位のガンボルド理事が一橋大学、第22位のㇽハムチメグ候補が京都大学、第43位のボヤンジャルガル候補が兵庫県立大学、選挙区では第4選挙区ゾンドイ候補が広島大学、第6選挙区エンフバヤル候補が明治大学、同エンフトヤー候補が亜細亜大学、第8選挙区から立候補のナランバヤル理事が京都大学、それぞれ大学院に留学したとの経歴が公式サイトの候補者名簿に記載されています。

 先程の高専拡大という公約も含めて、日本が30年以上にわたって行ってきたモンゴルとの協力の成果が、思わぬ形で出てきました。ただし、ここで挙げたのは人間党の候補者のみで、他党・同盟にも日本留学経験者はいることでしょう(調べていませんが)。日本とモンゴルとの関係を見ていく上でも、これらの候補者がどうなるかが気になるところです。