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地域系学部というのに加わった大学教員による高知発モンゴル発のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

2020モンゴル国会総選挙一口メモ(8)モンゴルの政党:5. 労働国民党(正しい人・有権者同盟)

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 2020モンゴル総選挙一口メモ、続いては労働国民党について解説します。ここでは同党が今回の総選挙で結成した「正しい人・有権者同盟」についても見ていきます。

 

 

 労働国民党は2011年に創立された政党です。設立当初はまるで目立つことのない存在だったのですが、2015年に外国留学者や若手経営者らによる団体が労働国民党に乗り込み、実権を握ると、一気に注目の的となります。

 党指導部を一新した労働国民党は、ウランバートル憲法改正や東部中国国境での経済自由地帯反対を唱え、首都ウランバートルでデモを決行。さらに当時無所属だったガンバータル国会議員を迎え入れ、国会での議席を獲得します。

 なお、以上は『アジア動向年報2016』でもまとめたことであります。

 

ir.ide.go.jp

 

  この勢いを駆って、翌2016年の総選挙に臨みたい労働国民党。年明けにはガンバータル国会議員が党首に就任、2017年の大統領選挙への立候補を表明します。

 ところが、この後の党執行部人事で内部対立が勃発。ガンバータル国会議員の支持者と反対派が分裂して、それぞれ党大会を開催し、党首が並び立つ事態になります。

 この騒動は最高裁にまで持ち込まれますが、訴訟が行われている間に、総選挙への参加登録が締め切られてしまいます。その後、最高裁がどちらでもない第三者を党首として認定したのですが、時すでに遅し。労働国民党の2016年総選挙への道は閉ざされてしまいました(『アジア動向年報2017』参照)。

 

ir.ide.go.jp

 

 なお、ガンバータル国会議員は結局無所属で立候補して落選。その後は人民革命党に迎え入れられ、大統領選挙への挑戦を経て、今回の総選挙にも立候補、というのは前回述べた通りです。

 

www.3710920.com

 

 一方の労働国民党は潰えたかと思われたのですが、昨年から徐々に名前が報道に再び現れはじめます。中心となっているのはかつてのガンバータル国会議員への反対派で、対立党首だったナイダラー氏があらためて党首に就任しており、また同議員に幹事長から追われそうになったドルジハンド氏も地位を回復しています。

 そして、今回の総選挙で、労働国民党はモンゴル社会民主党、倫理党とともに「正しい人・有権者」同盟を結成、53名の候補者を全29の選挙区に立てて臨んでいます。

 ただし、同盟相手のうちモンゴル社会民主党は歴史こそあるものの近年はまるで報道に上らず、倫理党も選挙がなければ名前が出ることのない政党で、実質的には労働国民党がヘゲモニーを握る同盟と言えそうです。

 労働国民党の存在感の強さは、同盟の名前に含まれた「人」からも伺えます。労働国民党のモンゴル語での名称はKhödörmöriin Ündesnii Nam、略称は"KhÜN"です。これは、単語としては「人」を表すもので、同盟の命名に当たっても、この点が考慮されたと推察されます。

 早い話が、同盟の名前を見た時点で、労働国民党の存在が見て取れるものになっているわけです。ここからも、同盟に占める労働国民党の地位が察知できようものです。

 さて、その「正しい人・有権者」同盟ですが、以下の2点が注目されます。

 第1に、鉱業開発に関する選挙公約では、投資環境の整備や大規模国営企業の株式会社化、民間セクターの重視や投資環境の整備が掲げられています。この点は、これまで見てきた新同盟や「あなたと私の同盟」とは異なっています。

 なお、モンゴルの総選挙では党・同盟や無所属候補が事前に公約を提出、国家監査庁の審査を受けることになっており、その分量も結構あります。

 

audit.mn

 

 ただし、鉱業部門、経済政策、教育政策については、当方でも折に触れご紹介しているブログMongolia Focusにて、人民党と民主党、正しい人・有権者の公約の詳しい比較がなされています。英語ではありますが、そちらをご覧いただくのが有益かと思います。

 

 

 

blogs.ubc.ca

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 第2の特徴が、候補者に占める留学経験者の多さです。もっと言えば日本留学経験者の多さです。他党・同盟の候補者の学歴を詳しく調べてないので断言は避けますが、割合で言えば突出してそうです。

 下記に報道を示しますが、一橋大学出身者が複数いて、他にも京都大学千葉大学といった名前もあります。そしてナイダラー党首に至っては、私と同学です(研究科がどこかは分かりませんが)。

 

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 ただし、この2つの特徴はそのまま弱点にも転化します。鉱業政策の当否はさておき、大規模鉱山の持ち分拡大や利益の国民への直接配分と比較すれば、有権者を惹き付けるものとは言い難いところです。

 また、高学歴な候補者を揃えた点は、都市部の中産階級以上にはウケが良いかも知れませんが、それ以外の層にははたしてどうか。

 例えば、新同盟は以前の記者会見で、オックスフォード大学やケンブリッジ大学を卒業したような者は候補者にしないと主張しています。

 

www.sonin.mn

 

 実際にどうなったのかは、新同盟の候補者一覧に学歴が載っていないので分からないのですが、記事を読む限り、新自由主義者や外国崇拝者よりも、外国の大学の出身者が前に出ています。新同盟からすれば、彼・彼女らを真っ先に忌避することがアピールになると踏んだのでしょう。

 そして、もし新同盟の読みが正しければ、留学経験者を揃えたことは、有権者へのアピールにならないばかりか、逆に反感を買う恐れすらあるのです。

 前回の無念を乗り越えて、ついに総選挙への参加を果たした労働国民党。しかし、都市部での一定の得票は期待できそうなものの、支持層の拡大には課題を抱えていると言えるでしょう。