2020年6月24日に実施されたモンゴル国会総選挙。このほど選管の全国組織である選挙中央委員会が発表した開票結果によれば、前回選挙に続いてモンゴル人民党が地滑り的勝利を収めました。この結果について、本エントリで見ていきます。
1. 開票結果の注目ポイント
何よりもまず見るべきは、開票結果と当選者です。このうち、選挙中央委員会は英語サイトで当選者一覧を公表しています。
また、モンゴル語のみですが、選挙区ごとの開票結果と各候補の得票率も公表しています。
この結果をまとめると、新たな国会の議席配分はこうなります。
・あなたと私の同盟:1議席(モンゴル人民革命党・市民の意志・緑の党、モンゴル伝統統一党、モンゴル人民革命党が議席獲得)
・正しい人・有権者同盟:1議席(労働国民党・モンゴル社会民主党・倫理党、労働国民党が議席獲得)
・無所属:1議席
モンゴル人民党は前回選挙で65議席を獲得、改選前は63議席を有していたところ、ほぼ同数を確保して、地滑り的連勝を達成しました。他方、二大政党の一角と言われた民主党は前回選挙および改選前の9議席から微増にとどまっています。
両党以外では、あなたと私の同盟のうちモンゴル人民革命党が1議席を確保。前回総選挙では1名が当選しながら党の内紛で離党された経緯があるので、実質的には議席を回復したことになります。
また、正しい人・有権者同盟では労働国民党が1議席を獲得。同党にとっては初めての議席となります。
そして、100名を超える無所属候補の中で、当選したのは1名のみ。それも長く民主党の有力政治家だったアルタンホヤグ元首相という結果でした。
ただし、注目すべきは政党間の勢力争いだけではありません。あと2つ、今回の選挙の特徴を挙げておきましょう。
第1に、当選した女性候補が13名。最多となった前回と同数になっています。
モンゴルの現行法では政党・同盟に対し、候補者のうち20%を(男女)どちらかの性別から構成することが定められています。「どちらか」という言い方によってミソジニーの付け入りを難しくしているところは巧妙だと思う反面、Xジェンダーの問題は残ってしまうわけですが、ともあれ20%弱の女性候補が当選したことで、選挙法の趣旨はかなりの部分果たせたように思います。
第2に、今回の総選挙では初当選の候補が32名となりました。再選が38名、元職が6名です。
2016年の初当選者が過半数の39名で、それには及ばないのですが、与党モンゴル人民党がほとんど議席を減らさない中で、これだけの初当選者が出たのは、非常に興味をひくことだと思います。普通なら現職が再選されそうなものだけに。
では、そんなモンゴル人民党をはじめ、議席を得た各党・同盟の選挙結果について見ていきましょう。
2. モンゴル人民党:初の総選挙連勝は世代交代の表れか、権力一極集中の加速器か
モンゴル人民党は先述の通り62議席を獲得。前回も地滑り的勝利と言われましたが、今回も議席の8割以上を獲得したわけですから、これは地滑り的連勝と言うべきでしょう。
確かに、この結果は選挙制度に助けられた面のあるものです。まだ計算が追いついていませんが、人民党は得票率で言えば50%を下回る計算になるはずで、間違っても得票率80%というのは有り得ません。
ただ、今回の採用された中選挙区完全連記制という選挙制度の下では、有権者が複数の投票権を持っていて、投票先を振り分けることが可能です。はじめから死票が多くなる単純小選挙区制とは異なるわけです。
とすれば、今回の結果に関しては、選挙制度の欠陥とは必ずしも言えないところです。むしろ、なぜ人民党が投票を総取りできたかが問われるべきでしょう。
その上で、今回は人民党の当選者のうち24名が初当選。他方、多選を重ねた大物議員であるニャムドルジ法務・内務省やルンデージャンツァン国会議員が落選。2018年の内閣不信任案提出に名を連ねた中では、ツォグゾルマー前教育・文化・科学技術・スポーツ相らが落選、エンフボルド前国会議長やハヤンヒャルワー前国会議員団長に至っては立候補すらできませんでした。
しかも、憲法改正によって首相は国会の承認を得ずに組閣が可能になりました(以前は閣僚ごとに国会の承認が必要)。選挙結果によってフレルスフ首相の再任は確実と言えますし、国会与党でも自身の意向が反映しやすくなったと言えそうです。その点では、今回の選挙は人民党以上にフレルスフ首相が大勝したと言っても間違いではないでしょう。
とはいえ、問題がないではありません。最大の焦点は組閣です。改正憲法によって国会議員で閣僚を兼任できるのは4名までと制限されたため、自身以外が国会議員であったフレルスフ内閣は大幅改造を余儀なくされます。
ただ、これだけ人民党の国会議員が増えてしまうと、国会の外から閣僚を選ぶのはなかなか難しいところです。落選者、非立候補者から選ぼうにも、自身の意に従い、かつ資質を備えた人物がどこまでいるかは分かりません。
また、今後野党からツッコミを受けそうなのが、2018年に発覚した中小企業基金不正融資疑惑についてです。今回の総選挙では清新な候補を選んだと主張するフレルスフ首相ですが、報道では不正疑惑のある6名が当選したとなっており、この点が攻撃材料になる可能性はあります。
また、選挙活動中に職権濫用の容疑で勾留されたエルデネバト前首相も気になるところです。拘束後は自身での選挙活動ができないながら、結果は選挙区でトップ当選となりました。
今後は裁判を控えているエルデネバト前首相、勾留が解かれる予定は今のところありません。とはいえ、来月には初の国会召集が控えているだけに、どのように政治活動を行うかは注目されるところです。とりわけ、首相辞任以来の因縁のあるフレルスフ現首相との関係も気になるところです。
この後は民主党ほかについても述べたかったのですが、既に長くなってしまったので、次のエントリに回したいと思います。