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地域系学部というのに加わった大学教員による高知発モンゴル発のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

2020モンゴル国会総選挙一口メモ(4)モンゴルの政党1. モンゴル人民党

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 2020モンゴル国会総選挙一口メモ、ここからは各政党の紹介に移ります。まずは現在の政権与党であるモンゴル人民党から。

 

 

 ……と書きましたが、党の成り立ちや特徴については前回総選挙の時に書いてしまっていて、変更すべきところもありません。ですので、まずはそちらをご覧ください、という手抜き。 

 

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 さて、前回総選挙で76議席中65議席獲得と地滑り的勝利を収めたモンゴル人民党(以下「人民党」)。ところが、この4年間は波乱の連続でした。

 まず、選挙直後から通貨トゥグルグの急落がはじまり、モンゴルは外貨建て債券の支払い不安に直面します。これに対し、選挙後に発足したエルデネバト首相(当時)による政権とモンゴル銀行は緊急の引き締め政策を発動、翌2017年にはIMF国際通貨基金)による支援を要請するに至ります。

 

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 すると、人民党に対する支持は低下。この年に行われた大統領選挙では党首のエンフボルド国会議長(当時)が立候補しましたが、それでなくても汚職疑惑等で人気の無い候補ということもあり、初回投票では第三勢力であるモンゴル人民革命党のガンバータル候補に迫られる始末。決選投票でも民主党バトトルガ候補に10万票以上の差を付けられる結果となりました。

 

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 この結果を受けてエンフボルド国会議長は党首を辞任しますが、党内ではそれに満足せず、首相の責任をも追及する声が高まります。ただし、これには反対する幹部も多く、党内は二分された状態でした。

 そのような中で、党内から内閣不信任案が出されます。これに対し当時副首相だったフレルスフ氏が同調、職を辞して倒閣に加わるとこれが成功、エルデネバト政権は総辞職に追い込まれます。フレルスフ氏は後任の首相に収まると、その後の党内選挙で人民党党首の座も勝ち取ります。

 この辺の経緯は、『アジア動向年報2018』にまとめてありますので、より詳しく知りたい方はぜひ下記リンク先からご一読ください。できれば本も買ってください

 

 

hdl.handle.net

 

 発足当初、フレルスフ政権の基盤は決して強いものではありませんでした。内閣はエルデネバト前首相の解任賛成派・反対派の共存で構成され、国会には反対派の大物エンフボルド国会議長や、党首の座を争ったハヤンヒャルワー人民党国会議員団長(院内会派代表)等、反対派の大物が力を残した状態でした。

 2018年に入ると、反対派が攻勢に出ます。この当時、中小企業開発基金の不正融資疑惑が発覚、国会議員のうち数十名が関与したとの報道が噴出しました。不正を認めた政府高官の辞職が相次ぎ、疑惑が首相や与野党の議員に向けられる中で、内閣の責任を追及するハヤンヒャルワー団長と、団長自身の不正疑惑を指摘するフレルスフ首相との対立が表面化したのです。

 団長解任を画策するフレルスフ首相に対し、ハヤンヒャルワー団長は内閣不信任案を国会に提出します。これにはエルデネバト前首相やエンフボルド国会議長ばかりか、当の閣僚の中からも賛成者が現れ、フレルスフ首相は窮地に追い込まれます。

 ところが、フレルスフ首相は自らに近い国会議員や世論の支持を得て、不信任案を何とか廃案に葬ります。この勢いを駆ったフレルスフ首相はハヤンヒャルワー団長を解任、エンフボルド国会議長も追い落とし、党内の実権をほぼ掌握しました。今年に入っても対立していた人民党のノムトイバヤル国会議員が辞職に追い込まれるなど、フレルスフ首相の権力は今のところ盤石のようです。

 このうち、特に内閣不信任案の顛末については、『アジア動向年報2019』をご覧ください。人の入院中にドタバタやりやがったせいで退院後に報道を追いかけるのが大変だったのはいまだに逆恨みしています

 

hdl.handle.net

 

 こうしたしっちゃかめっちゃかの4年間を経て迎える国会総選挙。フレルスフ首相にとっては有利に動いていると思われます。モンゴルではこれまで総選挙のたびに政権与党の構成が変わっていたのですが、こと今回に関しては、人民党が(議席は減らすとしても)総選挙を制して政権が維持される可能性が十分にあります。

 そう考える理由は2つあります。第1に、フレルスフ首相個人への支持があります。直近の世論に関するデータがないので憶測ですが、少なくとも昨年のウランバートルでの世論調査では、フレルスフ首相は一貫して高い評価を得ています。また、自身への不信任案やエンフボルド国会議長解任の際にはウランバートル市民の間でデモが発生、これと同調することで事態を有利に動かした面も見逃せません。

 第2に、総選挙の区割りです。モンゴルでは人口の半分がウランバートルに集中していますが、今回ウランバートルに割り当てられた議席数は全76議席のうち24と、3分の1もありません。違憲訴訟が頻繁に起きるモンゴルで、このような1票の格差が裁判にならないのが不思議なのですが、ともあれ地方での支持が強い人民党には有利です。

 ただし不安要素も3つあります。まず、フレルスフ首相はこれまで選挙を率いた経験がありません。そのため、選挙戦を行うための手腕については未知数です。

 加えて、今回の中選挙区完全連記制という投票制度も不確実要素です。以前のエントリでも書きましたが、有権者は定数に応じて2人または3人の候補に投票することになります。ですので、人民党のように定数分の候補者を立てている政党は定数総取りも狙える一方、有権者が投票先を分ける可能性もあり、その場合は議席数が一気に減ることになります。

 そして、有権者の二大政党離れがどれだけ起きるかも懸念材料です。近年モンゴルでは二大政党の人民党・民主党を「人民民主党」(MANAN)とひとくくりにして批判する傾向が広く見られます。これまでフレルスフ首相はこの傾向をむしろ利用して、党内の政敵を追いやってきたのですが、今回の総選挙は話が違います。人民党の中でどの一派を支持するかという過去の争いとは異なり、総選挙では人民党以外の選択肢もあるためです。

 現状を見る限り、もともと地方で強い人民党が、首都でも首相人気が期待できる状況です。そのためか、あくまで現地報道を見た印象ですが、人民党は今回フレルスフ首相を前面に押し出した選挙戦術をとっているように思えます。

 ただ、総選挙で負けることがあれば、フレルスフ首相の信認が問われることになります。そうなれば、鳴りを潜めていた首相反対派が勢いを盛り返すこともあるでしょう。

 そう考えれば、今回の総選挙はフレルスフ首相にとって一世一代の戦いとも言えそうです。