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2020モンゴル統一地方選実施。与党人民党堅調、最大野党民主党が第一党の議会も

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 4年に1回行われるモンゴル国地方行政単位の統一選挙が2020年10月15日に全国で実施されました。結果速報によれば与党人民党が安定した戦いを示した一方、最大野党の民主党は一部行政単位の議会で第一党となっています。

 

 

 

 1. モンゴルの地方制度と2020年統一地方選

 モンゴル国(以下「モンゴル」)は21の県と首都に分かれ、県は複数の郡(規模に応じて数が異なる)、首都は9つの地区に分かれています。郡は日本の市町村、地区は東京23区に相当するものと考えれば分かりやすいと思います。

 それぞれに任期4年の住民代表議会(以下「議会」)が置かれていて、選挙は国会総選挙の年の秋に一括して行われています。

 そして、今年は10月15日に選挙が行われました。なお、モンゴルでは地方行政単位の首長を議会議員が選出し、県・首都の場合は首相,郡・地区の場合はその県内市首都の知事の承認を得て就任することになっており、直接選挙は行われません。

 選挙は15日中に混乱なく行われ、開票結果の速報が続々と届いています。結果が確定するまではだいぶかかると思いますが、だいたいは明らかになったと言えるでしょう。

 ここでは、その速報結果について、簡単に見ておきたいと思います。

 

2. モンゴル人民党は首都で大勝、他の地方でも堅調

 6月に行われた総選挙で定数76議席中62議席と圧勝した与党モンゴル人民党(以下「人民党」)。その後も大きな問題を起こすことはなく、統一地方選も有利に進むものと予想されました。

 結果として、人民党は首都ウランバートルの選挙で他を圧倒しました。首都議会では定数45議席中34議席を獲得、各地区の議会でも合計290議席中201議席を得ました(ただし、1議席については民主党候補と獲得票数が同数となったため、追加投票によって結果が決まります)。

 また、地方21県の議会選挙では、13の県で第一党の座を得ています。報道を基に内訳を書くと、バヤン=ウルギー、バヤンホンゴル、ゴビスンベル、ダルハン=オール、ドルノド、ドルノゴビ、ザブハン、オルホン、ウブルハンガイ、セレンゲ、トゥブ、ホブド、ヘンティーの各県です。

 ちなみに、首都人民党のトップは元横綱朝青龍、元プロレスラーブルーウルフの兄スミヤバザル(ソミヤーバザル)委員長。閣僚経験もある大物政治家です。

 

3. 民主党は首都での野党共闘不発も、地方で存在感示す

 一方、先の総選挙では不振から脱せなかった最大野党民主党。首都議会選挙を党再生の機会とばかりに重視し、人民党一党支配への対抗を旗印に、第三勢力のモンゴル人民革命党(以下「人民革命党」)と正義市民統一同盟党と共闘、「民主主義のための政党間連合」を結成して臨みました。

 ただし、これはモンゴルでよくある複数政党の連合体「同盟」とは異なり、統一名簿は作成していません。民主党人民革命党がお互いの候補者に対立候補を立てず住み分けを図るとともに、正義市民統一同盟党の候補は民主党から立候補することにした、ということです。

 特に、正義市民統一同盟党は民主党から分立して昨年結成されたばかりなだけに、わずか1年での共闘が再合流につながるのではとの観測も流れました。

 ただ、結果は民主党の獲得議席が8。政党間連合による共闘は不発に終わりました。地区議会でも獲得議席数は85、人民党の4割程度です。

 他方、首都以外では野党による共闘は見られませんでした。これが首都議会選以上に民主党不利に働くかと思いきや、民主党はアルハンガイ、ゴビ=アルタイ、ボルガン、ドンドゴビ、ウムヌゴビ、スフバータル、オブス、フブスグルの8つの県で第一党となりました。

 これまでのモンゴル政治では、人民党は地方で強く、後述する最大野党の民主党は首都で強いと言われてきました。しかし、この構図は変わってきているのかも知れません。

 

3. 第三勢力の明暗。労働国民党の台頭と人民革命党、正義市民統一同盟党の退潮

 

 今回の選挙では労働国民党が首都議会で初の3議席を獲得、地区議会でも10議席を得ています。

 実は、労働国民党は党内対立により一時首都議会選への参加が差し止められていたのですが、選挙管理委員会の裁定と裁判の結果により、後になって参加が認められます。もし参加できないままだったら、選挙結果や今後の首都政治の行方は少なからず変わっていたように思えます。

 対照的なのが、これまで第三勢力の中でも規模の大きかった人民革命党と、先の総選挙までは国会に議席を有していた正義市民統一同盟党です。人民革命党は首都議会選で議席ゼロの完敗、地区議会ですら1議席を得るのがやっとでした。

 一方、正義市民統一同盟党は先述の通り首都議会選には独自で候補を擁立しておらず、地区議会でも議席は得られませんでした。

 この結果を基に、かつて人民革命党と正義市民統一同盟党が第三勢力の中でも主導的だったのが、労働国民党にとって代わられるのではとの見方も出ています。

 

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 まだ断言するには程遠い状況ではありますが、構図の変化は第三勢力でも始まったかも知れません。

 

4. 今後に向けて

 ただ、来年2021年には大統領選挙が控えています。以前にも書きましたが、モンゴルの大統領選挙には国会で議席を有する政党が立候補者を出す資格を持ちます。ですので、人民党、民主党人民革命党、労働国民党に、候補者を出す権利があります。

 このうち、人民党は国会でこそ圧倒的多数派であるものの、大統領選挙では2009年以来3連敗中。フレルスフ首相の個人人気に頼る部分が少なくない中、国民に人気のある候補者を出して連敗を止められるかが注目されます。

 他方、民主党はバトトルガ大統領が続投を目指すことになるでしょう。特に首都ではフレルスフ首相とならんで評価が高いだけに、再選の可能性は十分あります。

 そして、人民革命党と労働国民党にとっては、第三勢力の覇権争いとなりそうです。ただし労働国民党は若手が多いため、50歳以上という年齢規定がある大統領選挙では、候補探し自体で苦労しそうです。

 そしてどの政党にとっても、COVID-19で冷え切った経済再生が大きな課題となります。今年の主な選挙はこれで終了です(選挙自体終了かも知れません)が、モンゴル政治はこれからこそ注目されます。