2021年6月9日、モンゴルで大統領選挙が行われます。そこで今回からモンゴルの大統領と選挙について、シリーズで見ていきます。まずは2019年に施行された改正憲法に基づき、モンゴルの大統領制度についてご紹介します。
1. 大統領はモンゴル国の元首
モンゴル国憲法では第2部第30条から大統領に関する規定が示されています。その冒頭には「モンゴル国大統領は国家元首であり、モンゴル人民の団結を表象する。」と定められています(以下日本語訳は私の試訳です)。
後述するように大統領は国会に議席を有する政党・同盟(政党連合)から選出されますが、上記のように国全体を代表する存在となる規定のため、就任後は党派を離脱することが求められます。
2. 大統領の条件と任期
憲法では、大統領は50歳に達しており、直近5年以上国内に常住しているモンゴル国民から任期6年で1回のみ選出されるとされています(第31条)。
このうち任期と選出回数は2019年の憲法で現行の通りとなりました。以前は任期4年で1回のみ再選可能となっていたのが改定されたのです。一方の年齢と国内居住期間についてはそのままです。
3. 大統領の権限
大統領の権限については憲法第33条に定められています。このうち、第1項で具体的な権限が記載されているのに加え、第2項では大統領がモンゴル国国軍の最高司令官であると記されています。
ここで、第1項で記載された権限を見ていくと、以下のようになります。ただしそのまま訳すと長いので、こちらでは要旨のみを示した点にご留意ください。
- 国家大会議(国会)が制定した法律及び決定の全部ないし一部に拒否権を発動する。ただし国会本会議出席議員の3分の2が拒否権を受け入れない場合、法律・決定の有効性は維持される。
- 国家大会議の過半数の議席を持つ政党・同盟から立候補した者を首相に任命する。過半数を持つ政党・同盟がない場合は最大多数の政党・同盟、それも不可能な場合は議席を有する政党・同盟で協議の上で立候補した者を任命。
- 大統領権限に関する問題について政府に方針を指示する。大統領令を発布した場合は首相の署名により有効となる。
- 対外関係の全権を代表する。国家大会議と協議の上で政府を代表して国際条約を締結する。
- 国家大会議と協議の上で在外公館代表を任命、召還する。
- 外国公館代表の信任状および召還状を受領する。
- 国家による称号、軍隊最高位の授与、勲章およびメダルによる褒章を行う。
- 恩赦を行う。
- モンゴル国籍の付与及び放棄、庇護問題の決定を下す。
- モンゴル国安全保障会議を主宰する(訳注:大統領、首相、国家大会議議長による安全保障上の問題を協議する会議)
- 国土全土ないし一部に軍隊を派遣する。
- 憲法に定められた特別な事態の際、国会が閉会ないし延期の場合に国土全土ないし一部に非常事態ないし戦争状態を宣言する。宣言の大統領令は国会が発布以降7日間に審議の上で承認ないし無効を判断する。国会の決定がない場合宣言は無効となる。
以上が大統領の権限となります。
こうしてみると、大統領の権限がいろいろあるようで、首相や国会の歯止めが設けられていて、勝手に行使しづらくなっているように思われます。
他方、大統領には法案の提案権が認められていません。また、ここには司法に関する規定がないのですが、第51条第2項で大統領が任命することになっているものの、人事の提案権は司法の側にあるので、こちらも大統領が自由に人事を行うことはできません。
以上から、モンゴルの大統領は儀礼的存在とまではいかないものの、旧ソ連の多くの国々のような強権の持ち主とは程遠い存在でもあります。そのため、モンゴルの大統領制度を半大統領制と捉える見方があります。私もこの見方をとります。
4. 現在までの大統領
モンゴルでは民主化直後、現行憲法が制定される前から大統領制がとられています。
現在までに大統領を務めたのは、以下の5人です。カッコ内は立候補時の政党・同盟と任期です。
初代:ポンサルマーギーン・オチルバト(モンゴル人民革命党→民主連合同盟*1、1990-96年)
第2代:ナツァギーン・バガバンディ(モンゴル人民革命党、1997年→2005年)
第3代:ナムバルィン・エンフバヤル(モンゴル人民革命党、2005年→2009年)
第4代:ツァヒアギーン・エルベグドルジ(民主党、2009年→2017年)
第5代:ハルトマーギーン・バトトルガ(民主党、2017年→2021年)
そして2019年修正憲法、ならびに今年改定された大統領選挙法によりバトトルガ現大統領の再立候補が不可能となり、モンゴルは来週6月9日に新たな大統領を選ぶことになります。その方法については、次回第2回のエントリにて。