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2020モンゴル国会総選挙一口メモ(2)2020総選挙の選挙制度について

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 2020年のモンゴル国会総選挙が着実に近づいています。前回から間が空いてしまいましたが、今回は総選挙の制度について見ていきます。

 

 

 

1. はじめに:2020年度総選挙投票制度、急転直下で固まる

 ここでご紹介するのは国会選挙の制度と、2020年総選挙の投票制度です。と書くと妙に思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、後述する通りモンゴル国会総選挙の投票制度は2008年以来毎回変わっているので、常に最新の制度を頭に入れておかないといけないのです。

 そして、2020年第1回の一口メモのところで「改正された選挙法が例によって憲法裁判所の審査に引っかかってしまい、これから選挙までにさらに変わる可能性が高い」と書いたのですが、違憲判決が出るところまでは案の定だったものの、これが国会の拒否権によってなんと覆り、結果として選挙制度も固まりました*1

 というわけで、ようやく2020年度総選挙の制度について書けるようになりました。ただ、他の部分では、2016年に行われた前回総選挙と変わらないところも当然あります。ここではその際に記したエントリも参考に見ていきたいと思います。

 

2. モンゴルの国会総選挙は4年に1回行われます

 この部分は前回総選挙の時と共通する部分が多い、その際のエントリを一部繰り返します。

 現在のモンゴルの国会「国家大会議」。初めての総選挙は1992年に行われました。以来、憲法の定めにより、4年に1回必ず行われています。時期は微妙に異なりますが、6月中に行われるのが通例です(アジア動向データベース調べ。2000年のみ7月初頭に実施)。

 そして、2020年の総選挙は6月24日に実施されます。バトトルガ大統領は一時期総選挙延期を求めていましたが、新型コロナウィルスの国内伝染が確認されていないこともあり、予定通り実施される公算が今のところ高いです。

 

3. 国会解散は今まで一度もありません

 これも前回総選挙の時と同様です。日本の衆議院は任期満了までに解散して総選挙を実施するのが一般的ですが、モンゴルでは逆に国家大会議が解散した例が今まで一度もありません。

 理由としては、「不可能ではないが現実的に難しい」となるでしょうか。実はモンゴルでは今年2020年の5月25日に改正憲法が施行されるのですが、改正前の憲法では、「モンゴル国家大会議が全権を執行できない旨を全議員の3分の2以上が認めた場合、また同じ理由により大統領と国家大会議議長が協議の上提起した場合」(第22条第2項)「憲法に他の定めがない限り、モンゴル国首相の任命の提案を国家大会議に上程して45日以内に採決することができない場合」(第22条第3項)、国会が解散すると定められています。日本のように首相の専権事項ではなく、さまざまな主体が関わってくるのです。

 そして改正憲法を見ると、第22条第2項は、「モンゴル国家大会議が全権を執行できない旨を全議員の3分の2以上が認めた場合、また同じ理由により大統領と国家大会議議長が協議の上提起した場合、全議員の3分の2の賛成により自ら解散を決定する」となりました。

 また第22条第3項は、「(大統領が)首相任命を国会に対して最初に指示してから45日以内、もしくは(中略)首相が解任されてから、または(中略)首相が解任されたとみなされてから30日以内に国家大会議が首相を任命できない場合、大統領は国家大会議の解散の大統領令を発する」となりました。

 これだけを見れば、国会の解散が余計に難しくなった印象が出てくるところです。

 モンゴルでは日本よりもデモが頻発する印象がありますし、その中で国会解散を求めるスローガンはたびたび目にします。とはいえ、実際に解散することは、改正憲法下でもあまりありそうには思えません。

 

4. 今回の総選挙は中選挙区完全連記制で行われます 

  先述の通り、モンゴルの選挙制度はこのところ総選挙のたびに変わっています。そして、2020年総選挙は中選挙区完全連記制で行われることが決まりました。

 中選挙区制という部分に関しては、日本でも馴染みが深い制度です。しかし、完全連記制と言われると難しいかも知れません。ただ、要は定数の分だけ候補を選んで投票する制度、ということです。

 今回の選挙では、原則として県ないし首都ウランバートルの地区別で選挙区を設定しています。ただし人口の都合で複数県・地区の合区や地区をさらに分割したところもあり、結果としてモンゴル全土が定数2または3の選挙区に分かれています。

 そして、有権者は定数に応じて、候補2名ないし3名を選んで投票することになります。ただし、定数より候補を多く選んでも、少なく選んでも、無効票になります。ちょっと厳しいなと思いますが、法律で決められたことです。

 この制度は、有権者が1名のみしか選べない場合とは異なり、同一政党・同盟間での支持者の奪い合いや共倒れの心配がなくなります。そのためか、有力政党・同盟は定数きっちり、合計76名の候補者を立てています。

 このように複数候補を選べるのは、衆議院は定数1、参議院は定数0.5の日本式合区選挙区に住まう私からすれば羨ましい限りです。

 またそれとは別に、この制度が選挙結果にどう影響するかの分析は難しいところです。というのも、有権者が2つないし3つの選択枠をどう使うか、推測するための情報がほとんどないためです。

 第1に、モンゴルでは年に複数回行われる全国規模の世論調査が見当たりません。分かるのはせいぜいウランバートルでの調査結果です。ですので、地方の動向を把握するデータは皆無に等しい状況です。

 また、有権者が複数の票をどう使うかも謎です。すべて支持政党の候補に投票するか、あえて異なる選択をするか。あるいは、無党派層の投票行動はどうなるか。これらが全てブラックボックスになっています。

 それでも、こちらでは入手可能な資料からある程度の予想はしています。ただ、それがどの程度正しいかも分かりません。まして現地に行くわけにもいかず、今回の総選挙は、以前に増して不確定要素が多い印象を受けます。

 というところで、先程何の説明もなしに「同盟」という言葉を混ぜてみました。しかし、これはいったい何なのか。あるいは政党についても、モンゴルのものは全然分からない方もいらっしゃることでしょう。

 この辺は、総選挙への参加政党・同盟が最終的に固まってからお伝えしますので、しばしお待ちください。

 

5. 参考エントリ

 ここで参考にした前回総選挙に関するエントリはこちらです。

www.3710920.com

 

 また、2020年モンゴル国会総選挙一口メモ、前エントリはこちらから。 

www.3710920.com

 

  そして、この後のエントリはこちらから。

www.3710920.com

*1:憲法裁判所中法廷が違憲判断を下したのに対し、国会本会議で判断拒否の議決を行い、憲法裁大法廷が議決を受け入れるという経過でした。