当方の論文「モンゴル国における民主化・市場経済化の動向と現状―民主主義・市場経済評価指標の国際比較による検討―」が『日本とモンゴル』第55巻に掲載されました。同誌の許可を得て全文を公開します。
モンゴル国で民主化運動が発生、それまでの社会主義一党独裁体制が平和裏に放棄されて30年余りが経過しました。この間モンゴルは権威主義体制に囲まれながらも「民主主義のオアシス」と称賛される一方、最近ではその民主主義の後退が懸念される事態となっています。
一方、2021年はモンゴル国の市場経済化政策が始まって30周年にもあたります。当初の大混乱とその後の低成長は2000年代からの鉱業ブームによって吹き飛ばされた感がありますが、一方でこの間を通じて失業・貧困は根強い問題として残存しています。
さらに、後を絶たない政治的腐敗に加え、ウランバートル一極集中に伴う大気汚染や交通渋滞をはじめとする都市問題、あるいは鉱業開発、違法掘削による環境問題など、より深刻化した問題もあります。
このように正負両面で顕著な動きがあったモンゴル国の民主化と市場経済化を、われわれはどう捉えるべきか。これは過去の振り返りというだけではなく、同国のみならず、かつて「東側」と呼ばれた諸国の針路を考える上でも、重要な論点となるものです。
その際、必要な研究作業として、2通りのものが考えられます。一方は、十分に信頼し得る国際的指標によるモンゴル国の民主化と市場経済化の評価およびその変化の把握、もう一方は、モンゴル国の人々が民主化と市場経済化、あるいはそのゴールである民主主義と市場経済をどう捉えているかについての分析と理解です。
本稿はこのうち前者についてのものです。世界のさまざまな国々・地域の民主主義や市場経済の現状について評価する際に一般的に用いられる、国際NGO・研究機関による各種の指標を用いて、モンゴル国の政治的自由・民主主義・政治的変化・経済的自由・経済的変化について、評価の変動をまとめ、それらについて考察を加えております。
論文はまず『日本とモンゴル』誌の冊子体により公刊され、後に電子版が公開予定です。ただ、著者による公開が可能と伺いましたので、このほどAcademia.eduにてPDFファイルを公開いたしました。
議論の詳細については、ぜひご一読いただきたいのですが、民主主義や市場経済という、ともすれば規範的な主張が先行しやすい論点について、個人の主義主張や価値判断を優先した議論を回避し、客観的*1な判断を行うためには、このような指標を用いた評価は必要だろうと考えています。
とはいえ、モンゴル国の行方を決めるべきは同国の人々であり、言うまでもありませんが、それは政治・経済についてもまさに当てはまります。だとすれば、先程書いた後者、つまりモンゴル国の人々による民主化と市場経済化、民主主義と市場経済への意識を把握することも求められます。
この点については、これからさらに研究の上、成果を世に問うつもりです。
と言いつつ、なかなか進んでいませんが、頑張ります……
*1:これも何を以てそれであると言い得るかが難しいところですが、最近の当方は「承認すべきものとして共有可能な、あるいは共有することが望ましい」ぐらいに捉えています。