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モンゴル・ウクライナ両国大統領が電話会談(モンゴル側公式発表全文試訳付)

 

 ゼレンシキー・ウクライナ大統領がフレルスフ・モンゴル大統領と電話会談を行ったとツイート。モンゴルの大統領官房公式ウェブサイトも電話会談の事実を公表しました。モンゴル側発表の全訳含め見ていきます。

 

 

 モンゴル暦の正月「ツァガーン・サル」朔日のお祝いでモンゴル全国が盛り上がる中、ウクライナのボロディミル・ゼレンシキー大統領がモンゴルのフレルスフ大統領と電話会談を行ったとツイートしました。

 

 

 本エントリ執筆時点でウクライナ大統領府からの公式発表は出ていません。また電話会談というからには、カウンターパートたるフレルスフ大統領側の発表や反応を確認しなければなりません。

 ただし、モンゴルは歴史的に親ロシア感情が根を下ろしており、経済面でも燃料や電力をロシアに依存しています。ゆえに、ウクライナ侵略開始以降もモンゴルは中立を守ってきたわけです。

 それだけに、電話会談が事実だとしても、モンゴル側がロシアに配慮して沈黙を守る可能性も十分ある、と私は踏んでいました。

 ところが同日、モンゴルの大統領官房公式ウェブサイトからも両大統領の電話会談が行われたとの発表がありました。

 

president.mn

 

 では、発表の内容はどのようなものか?以下、発表全文について試訳を示します。あくまで訳は私個人のものなので、モンゴル国大統領官房とは全く関係ないことをご留意ください。

 

 ウクライナ大統領V.O.ゼレンスキー*1大統領はモンゴル人民にツァガーン・サルの祝賀の挨拶を贈り、困難な時期にモンゴルがウクライナ人道支援を提供したことに祝意を示し、両国の関係に満足していることを強調した。彼はモンゴルで過ごした子どもの頃を回想した*2

 モンゴル国大統領オフナーギーン・フレルスフは〔訳注:ゼレンシキー大統領が〕困難な時期に時間を割いて電話で会談し、モンゴル人民にツァガーン・サルの挨拶を贈ったことに感謝を表した。彼はまたウクライナの状況を憂慮していることを表明し、国際共同体が外交活動を強化し、対話と平和な道筋に基づき問題を解決することが最も正しい方法だと強調して言及した。

 またモンゴル国が両隣国*3及び第三の隣国*4と関係・協力を均衡させながら発展させることを目指しており、平和を尊重し、開放的、独立、多面的な外交政策を一貫して実施していることを示した。

 両者は伝統的な友好関係を高く評価し、協力に関する一部の問題について意見を交換し、国連および他の国際機関の枠組みにおける協力の継続を追求していくことを確認した。

 

 こうしてみると、ゼレンシキー大統領とフレルスフ大統領で、同じ電話会談でも内容の示し方が違うのが分かります。やっぱりな、というのは、ロシアのウクライナ侵略についての表現の違いでしょう。

 もっとも、この辺は「お互い立場があるからね」という一言で済む話と判断します。それ以上、両者の表現の相違に意味づけを行おうとしたり、解釈しようとすることは、歪んだ帰結しかもたらしますまい。

 ただし、この会談が行われた2月21日という日付はどうしても気になります。モンゴルにとっては先述した通りツァガーン・サルの朔日ですが、同時にロシア・プーチン大統領が大掛かりな一般教書演説を行った当日でもあるのです。

 ということは、ロシアからすれば大規模なプロパガンダを行ったまさにその日に、この会談をぶつけられた形になります。友好国(対等の、と彼らが思っているかどうかはさておき)とみなす国の大統領が、「敵国」の元首と会談したことになるのです。

 だからこそ、モンゴル側が会談の事実を積極的に公表しない可能性を、私は当初想定したのです。

 しかし、モンゴル大統領官房は会談を発表した。しかもウクライナ側の公式発表の前に。

 この事実が今後何を意味するのか?モンゴル側の「ロシア離れ」の始まりなのか?あるいは、あんま深く考えてなかっただけなのか?

 また、この事実が何をもたらすか、あるいは何ももたらさないのか?特に、ロシア側は公式、非公式にどのような反応を示すのか?

 そして、その反応にモンゴルはどう対応するのか?あくまでツァガーン・サルの挨拶で押し通すのか、あるいは?

 この辺、今年のモンゴルの対外関係を考える上でも、しばらくは注視する必要がありそうです。

 また、モンゴル・ウクライナ領大統領の電話会談については、モンゴル最大手通信社モンツァメをはじめ、複数の主要ニュースサイトが報道しています。

 

montsame.mn

ikon.mn

gogo.mn

 

【2月23日追加記事】

www.unuudur.mn

news.mn

 

【2月25日追加記事】

www.polit.mn

ikon.mn

montsame.mn

 

 これがモンゴルの世論に何らかの影響を与えるのかどうか?ネット上のコメントでは好意的な意見が優勢に見えますが、否定的なコメントも少なくありません。こちらも要注目です。

 

 ちなみに、ロシアのウクライナ侵略に対するモンゴルの姿勢については、当方の過去エントリもご参照ください。

 

 

www.3710920.com

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*1:モンゴルでは現在でもウクライナの固有名詞をロシア語に準じて表記するのが通常なので、「ゼレンスキー」となります。ウクライナ語のキリル文字の一部がモンゴル語にないからかも知れません。

*2:ゼレンシキー大統領は父親の仕事で幼少期をモンゴル北部の都市エルデネトで過ごしています。

*3:ロシアと中国。

*4:モンゴルが両隣国以外で外交上主要なパートナーと位置付ける国々。たいていは日本、アメリカ、韓国、イギリス、EUを指します。