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地域系学部というのに加わった大学教員による高知発モンゴル発のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

ロシアのウクライナ侵略とモンゴル(2022.4.5.):2回目のロシア大使館前デモと政府の人道支援

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 ロシアによるウクライナへの侵略に対するモンゴルの対応については以前2回に分けて論じました。ただ、のちに新たな動きが出てきましたので、アップデートしておきます。

 

 

1. はじめに:ロシアのウクライナ侵攻とモンゴルのこれまで

 ロシアによるウクライナ侵略に対するモンゴルのこれまでの姿勢は、良く言えば中立的、悪く言えば「見て見ぬふり」と言えます。国連でのロシア非難決議に棄権した一方で、ロシア・ベラルーシとの経済関係を従前の通り継続しようとしていたためです。

 この辺の事実関係と背景、さらに日本のモンゴルへの関わり方を含めた以後の見通しについては、以前2回に分けて論じたエントリがあります。長いですが、こちらをご一読いただければ幸いです。

 

www.3710920.com

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 ただエントリ投稿後、モンゴル国内で新たな動きも出ています。それらは現在のところ私の基本的見解を揺るがすほど大きなものではありませんが、展開次第ではモンゴルの姿勢に変化が起きる可能性も考慮に入れるべきではあります。少なくとも、情報のアップデートは必要です。今回はそれらの動きについて、順に見ていきます。

 なお、当ブログはモンゴルにおけるさまざまな動きについて、規範的な判断を行うことを目的としていません。各エントリをどう読み取るかは読み手の自由ですが、読み手に書き手の意図を勝手に決められる謂われは全くない点ぐらいはご留意ください。

 

2. ロシア大使館前で2回目のデモ挙行

 4月2日にロシア大使館前で、3月26日以来2回目となるデモが行われました。

 

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 デモの参加者の多くがウクライナ国旗を掲げています。これだけを見れば、デモがロシア非難、ウクライナ支持を意図したものとなりそうです。

 ところが、話はそう簡単ではありません。というのも、後者の記事に出ている参加者の発言を読んでみると、100%ウクライナ寄りとは限りません。むしろ、ロシアとウクライナのどちらにも肩入れしないと発言している参加者もいるのです。

 さらに、後者の記事で示された参加者の主張も注目に値します。戦争反対や平和的解決はもちろんとして、同じかそれ以上に掲げられているのが、モンゴルにおける思想信条の表現の自由、そして内政不干渉の要求なのです。

 この要求の原因は、ロシア大使館による3月24日のFacebookページへの投稿(その後削除)にあると見て間違いないでしょう。「民主党及びアメリカのリベラル支配への支持者への警告」と題したこの投稿については以前のエントリのうち(下)で取り上げましたが、この投稿が自国の独立と地位の保全に敏感なモンゴルの人々を少なからず刺激したこと、そして戦争への評価に関わらず、ロシア大使館への反感を引き起こしたことは無視できません。

 モンゴルではデモの規模が報じられることはまずありません(というか私は見たことがない)。なので、このデモがどの程度の広がりを持ったものかは不明です。

 とはいえ、今回のデモはロシア大使館が自ら招いた帰結でもある、とは言えそうです。いまのところ大使館からの反応は確認できていませんが、それ次第ではデモの継続や拡大もありそうです。

 

2. モンゴル政府、「ウクライナで生じている状況」に対し20万ドルの人道支援決定

 

 4月4日に行われた臨時閣議で、モンゴル政府からウクライナに対して20万ドルの人道支援を行うことが決まりました。閣議後の記者会見で、ボロルトヤー首相報道官が発表しています。

 

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 モンゴル政府ウェブサイトからも発表がありました。

 

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 英語版での記事もありますので、必要な方はどうぞ。

 

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 発表によれば、支援のうち15万ドルは国連による救援基金、5万ドルは国際赤十字・赤新月社連盟に送られるとのことです。このうち国連の救援基金というのが分からなかったのですが、英語版にある"UN Crisis Relief"が国連人道問題調整事務所(OCHA)によって運営されているというので、こちらのことでしょう。

 人道上の危機に際して支援を実施すること自体は評価されるべきです。それと同時に、この支援についてのいくつかの特徴を見ておくことも、モンゴル政府の姿勢を推し量る上で重要です。

 ここで注意すべきは、モンゴル政府が「ウクライナで発生している状況に関連して」(Украинд үүсээд байгаа нөхцөл байдалтай холбогдуулан)支援を行う、という言い回しです。ボロルトヤー首相報道官の発言では「ロシアとウクライナで」となっていますが、違いはそれだけです。

 つまり、モンゴル政府は「戦争」(дайн)や類義語を用いていないのです。尤も、ロシアが主張していた「特別軍事作戦」に準ずる表現もとっていないのですが。

 加えて注目されるのが、発表の扱いです。政府ウェブサイトの発表では追加事項になっていますし、記者会見でも後で閣僚らが発表を行う前に、簡単に触れられる程度です。

 この理由としては、そもそも人道支援臨時閣議の中心的な議題ではなかったことが挙げられます。むしろ主要議題は、国際的な混乱の中で物資の供給や価格の安定をどう図っていくかで、閣僚らの報告もそれらの対策についてのものでした。

 そう考えると、この支援について、モンゴル政府の「中立」的な姿勢からの転換と捉えるのは誤りでしょう(かといって、単なるポーズとみなすのも言い過ぎな気はしますが)。むしろ、基本姿勢が変わっていないのは、次の報道からも伺えるのです。

 

3. ロシア・モンゴル・中国天然ガスパイプライン建設に向けた動きは継続

 ロシアからモンゴルを経て中国につながる天然ガスパイプラインの建設に向けた作業は、相変わらず続いています。4日付の報道では、モンゴル国内でパイプラインが通過する6県に対し、ロシア・モンゴルの参加企業による出張説明が始まったそうです。

 

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(英語版)

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 以前のエントリの繰り返しになりますが、このパイプラインの建設はモンゴル政府にとって20年越しの悲願です。それだけに、建設準備継続を頭ごなしに批判することにはためらいを覚えます。サハリン1, 2を考えたら日本も他所様のこと言えないし

 ただ事実として、ロシアとの合同によるプロセスが続いていることは念頭に置いておくべきです。そして、ここからモンゴル政府のロシアへの態度を読み取ることも不当ではないでしょう。

 

4. 現時点でのまとめ

 

 ここまで、前回エントリをアップした3月26日以降の新たな動きを見てきました。

 現時点での結論として、それらを過大評価することは危険です。むしろ、モンゴル政府の姿勢には、目下のところ変化を読み取ることはできません。私が冒頭に、これらの動きが基本的見解を揺るがすほど大きなものではないと述べたのもそのためです。

 ……と書いていたら、ロシアがモンゴルを友好国52ヶ国のひとつに含めたという報道が入ってきました。モンゴルのニュースサイトがタス通信を引用しています。

 

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 こうなると、ますますモンゴルの短期的な変化は考えにくくなります。きっかけがあるとすれば、ロシアとの通商関係に障害が出た場合*1ロシア大使館から以前のような挑発的な投稿があった場合など、ロシア側のオウン・ゴールが出たときぐらいでしょう。

 それだけに、日本には欧米日とは違うモンゴルの立場を理解、尊重しつつ、それでも国際社会の一員としてのつながりからは外れずに済むよう支援するスタンスが求められます。もっとも、この点も、以前の見解とは変わらない話ですが。

*1:先の記者会見でロシアが一部の燃料の輸出を止めているとのヨンドン鉱業・重工業相の発言があって、これが気になると言えばなります。 

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