今年も通常通りの卒業式はできません。しかも昼から天気が悪くなるようで、わざわざ会場から大学まで来られない卒業生もいることでしょう。なので、3年続けてになりますが、卒業していく皆さんに向けて、こちらから。
昨年、一昨年は多少なりとも気の利いた言葉を記してみようとしたのですが、今年はどうにも思いつきません。ネタ切れと言えばそれまでですが、世界全体がこれだけ揺らいでいて、明日が見通せるのかどうかすら分からない中で、何を偉そうなことが言えるのか、という疑問も正直あるわけです。
ただ、不安定さや不確実さを増す世の中で、自分の人生を生きていくための最低限の姿勢については、皆さんは身に着けているはずです。
それは、学んでいこうとすること。
知ろうとすること。
そして何より、他者と関わりながら、新しいものを作りだそうとしていくこと。
学士(地域協働学)という学位は、皆さんが学部での実習、研究、それ以外のさまざまな取り組みを通じて、そのような姿勢を身に着けたことを示すものです。
この姿勢から、皆さんがそれぞれの進んだ先において、何を得るかは自由です。別の言い方をすれば皆さん次第です。
ただ、一教員の勝手を言わせてもらえるなら、ひとつだけお願いしたいことがあります。
あなた自身にとっての幸せをつかんでください。
幸せになりたい、幸せになってほしい―それは、「幸せ」という概念を得た人間誰しもが願うことでしょう。
ただ、そこで言う「幸せ」とは何でしょうか?
現代社会は過去とは異なり、社会の規範が「幸せ」の中身を全て決めることはできません。あなた自身が、自分の幸せとは何かを考えなければならないのです。そして、その「幸せ」を、社会の中で生きていきながら、実現していかないといけないのです。
その過程で、競い合いや対決、場合によって争いもあることは否定できません。あるいは、いっそ考えることから逃げて、誰かに決めてもらった「幸せ」に従う選択も、無くはありません。
ですが、さまざまな地域で、さまざまな主体との関わりの中で、自分たちの取り組みを実現させてきた皆さんは、それらが全てではない、中心ではないことを、身をもって学び取っているはずです(新型コロナのせいでできなかったことはもちろんあるにしても、その代わりとなったものがあるはずです)。
最低4年間研究科目に取り組んだ皆さんには、自身で問いを立てて、自身の答えを見つける姿勢と経験が身についています。
そして「協働」を学んだ皆さんは、多種多様な主体との話し合い、関わり合いの中で、その幸せと、他者の幸せとを、折り合わせたり、統合したりしながら、いずれも実現していこうとできるはずです。
そのような能力は、他者にあらゆる犠牲を払わせることで自らの幸せを具現化させようとする者による災禍が今まさに展開されている中で、そしてそのような暴力を終わらせようと世界が奮闘する中で、何よりも大切なものだと、私は思っています。
誰のものでもない、あなた自身が納得できる幸せを考え出すこと、そしてそれを、他者との協働の中で、他者の幸せとともに実現しようとしてください。
その試みの先にこそ、これまでできなかった自由かつ平和な社会があるはずです。ご卒業おめでとうございます。
[参考] 昨年版、一昨年版