今回は2017年モンゴル大統領選挙立候補者のうち、残るガンバータル前国会議員(モンゴル人民革命党)についてご紹介します。
以前にも書きましたが、モンゴル人民革命党(以下「人民革命党」)の党首エンフバヤル前大統領は2012年に汚職の容疑で逮捕、有罪判決を受け公民権を停止され、その後恩赦が下されたという経緯があります。この際公民権停止は解かれていないのですが、人民革命党側はこの措置に納得しておらず、前年の国会総選挙の際には立候補届け出を強行したものの却下され、抗議活動に出るという騒ぎもありました(結局は代わりの候補者を立てましたが)。
今回も同様のプロセスが繰り返されたのですが、党集会で新たな候補者に選出されたのがガンバータル前国会議員でした。しかし、人民革命党の党員では氏の擁立に対して同党唯一の国会議員バーサンフー氏が反対、離党も辞さない姿勢を示しました。そのため、実際に離党した場合同党の候補者擁立の権利がどうなるのかが注目されましたが*1、どういうわけか直後に態度を軟化し、立候補が実現しました。
そのガンバータル前国会議員は1970年生まれ、最も若い候補者です。報道によれば、モンゴル国立大学、モンゴル工科大学(現モンゴル科学技術大学)、ケメロヴォ鉱業大学(ロシア)、イーリング・ハマースミス・アンド・ウェストロンドンカレッジで修学したものの、いずれも卒業はしていないとのことです。また、モンゴル労働大学の修士の学位を持っているとも言われています。
後に氏は日本企業の傘下にあることで知られるモンゴルの大手銀行、ハーン銀行でキャリアを積むと、2002年から2003年に金融経済大学、2003年から2004年に経営アカデミーの講師として勤務、2005年から2007年まで、当時国会議長であったエンフバヤル氏の顧問を務める傍ら、複数の市民運動に加入します。そして2007年にはモンゴル労働組合連合の総裁に就任、2012年には無所属で国会総選挙に立候補して当選します。
この間、ガンバータル氏は現在のモンゴルの鉱業開発が外資有利であると厳しく批判、特にモンゴル随一の銅鉱オヨー・トルゴイ鉱山を巡っては、リオ・ティント社との開発契約の再交渉を強く主張してきました。このような主張は外国投資家から資源ナショナリズムとして警戒され、モンゴルへの外国投資が激減する原因の1つとなったとも言われています。ただモンゴル国民からの人気は上がり、ガンバータル氏は2015年と2016年に『ポリトバロメートル』で最も影響のある政治家に選ばれるまでになりました。その2016年初めには当時急速に勢力を拡大していた労働国民党に入党、すぐさま党首の座を得ており、同年に予定されていた国会総選挙に向けて勢いは頂点に達しました。
ところが、この直後に党内の亀裂が突如露わとなります。ガンバータル氏の方針に反発した勢力が突如抵抗、党の意思決定機関である中央委員会を独自に開催してガンバータル氏を解任すると、これをガンバータル氏は認めず、労働国民党は指導部が分立する事態に陥ります。そのあおりで労働国民党は総選挙への参加ができなくなり、ガンバータル氏は無所属での立候補を余儀なくされた末に落選します*2。その後、今月(2016年7月)になって反ガンバータル派が労働国民党の党首に就任する一方、ガンバータル氏は落選直後に外国留学の話が報じられたものの、その後は話題に上ることもなく忘れられつつあった……と思いきや、今回人民革命党のトラブルに乗じる形でカムバックを果たしたのです。
手元の資料で見る限り、ガンバータル氏の人気は落ちています。先程見た最も影響のある政治家ランキングの2017年版を見ると、順位も回答比率も大きく落ちていますし、次の大統領選挙で投票したい政治家としてはランク外になっています。
とはいえ、「最も影響のある政治家ランキング」に限って言えば、エンフボルド、バトトルガ両候補を上回っているのも事実です。また、このランキングで毎回上位に入るエンフバヤル前大統領と、氏を党首としてまとまる人民革命党がバックにいる点も見過ごせません。さらに、人民党・民主党の二大政党どちらにも不満を持つ層の票もかなり集まるでしょう。そう考えると、ガンバータル前国会議員の大統領当選の可能性は無視できませんし、ロイターなどの外国メディアも「ナショナリスト」「ポピュリスト」の立候補に反応しています。
モンゴルのメディアの中にも、ガンバータル氏を「モンゴルのウゴ・チャベス」と称し、氏の立候補が外国投資の妨げになると懸念する記事が出ています。
以上の評価が正当なものかどうかは意見が分かれて当然でしょう。ともあれ、選挙活動期間が始まるとともに、ガンバータル氏の選挙公約も発表されました。いずれ他の2氏のものとともにご紹介しますが、見出しを見た限りでは、氏の面目躍如と言うべきものです。
2016年には選挙前に失速したガンバータル旋風が、今度の大統領選挙で巻き起こるかどうか。それは、モンゴルへの投資国の1つである日本にも決して無縁ではない問題です。
なお、他の2人の立候補者についてはこちらを。
その他、【モンゴル大統領選挙2017】シリーズです。