2017年モンゴル大統領選挙の活動期間が始まりました。今回は前回に引き続き、民主党から立候補したバトトルガ元工業・農牧業相についてご紹介します。
モンゴルにおける二大政党の1つとされながら、昨年の国会総選挙では定数76のうち獲得議席が9議席だけという惨敗を喫した民主党。党勢回復をかけて臨む今回の大統領選挙にあたって、民主党は立候補者の選出を全党員が参加可能な党内選挙として行いました。党内選挙には元首相のアマルジャルガル氏とアルタンホヤグ氏、元外相のボルド氏ら合計6名が立候補し、最終的にはバトトルガ元工業・農牧業相がアマルジャルガル元首相との競り合いを制し、民主党の大統領選挙に選ばれました。
そのバトトルガ元工業・農牧業相は1963年生まれ。日本の政治家と比べれば若い部類に入りますが、それでも今回の3人の大統領候補の中では最年長です。1982年にウランバートルの舞踊芸術中等学校の美術課程を卒業後、サンボ(旧ソ連発祥の格闘技)の選手に加えて画家として活動するという、一風変わった経歴の持ち主です。
1990年、モンゴルで社会主義体制の放棄が決まると、バトトルガ氏は当時まだ珍しかった民間企業ジェンコ社を立ち上げます。その後2004年まで社長を務める間に、ジェンコ社はウランバートルの老舗バヤンゴル・ホテルや社会主義時代の旧国営企業タルフ・チヘル社、マフ・インペクス社等を次々と傘下に収め、一大企業集団を形成するに至りました。今では「ジェンコ」がバトトルガ氏の二つ名になっていて、ジェンコで検索して出てくるのは傘下の旅行会社かバトトルガ氏のほとんどどちらかという状況です。
2004年、バトトルガ氏はジェンコ社の職を辞して国会議員に立候補し、初当選します。それ以来3期12年にわたり国会議員を務める一方、2008年から2012年にかけて2つの政権で道路・運輸・建設・都市計画相、2012年から2014年には工業・農牧業相に就いています。2014年には首相解任により大臣辞職、2016年には総選挙で敗れていますが、依然民主党内では勢力を持っており、今回の党内選挙で大統領候補に選出されたのです。
ただ、大統領への道は険しそうです。人民党エンフボルド候補のご紹介でも見た2017年3月の世論調査「ポリトバロメートル」では、バトトルガ氏を大統領に推す意見は2.5%に過ぎません(もっとも、ウランバートルでは3.8%と、エンフボルド候補の2.9%を上回ってはいますが)。加えて、同調査では回答者の支持政党別に大統領推しの上位4名の政治家を示していますが、バトトルガ氏の名前はどこにも(民主党支持者の間でも!)ありませんでした。もっとも、最終的には民主党内のレースで勝ったわけですから、調査以降支持を伸ばしたという可能性ももちろんあるのですが……
さらに、民主党がまとまり切れるのかという問題もあります。2012年から2016年の間に連立与党第1党として政権を担ってきたのですが、この間度重なる派閥対立で首相が変わることもあるなど、不安定さを見せ続けてきました。今回の党内選挙でもバト=ウール前首都知事兼ウランバートル市長といった「大物」がボイコットを宣言する等、火種は残っています。
このような状況では、人民党の自滅がない限り、バトトルガ氏の大統領選挙勝利は難しいと言わざるを得ません。現実的には、初回投票で2位を確保した上で決選投票に持ち込み、政権批判票を集めて逆転を図るというのが、可能な戦略となりそうです。
なお、他の候補者についてはそれぞれエントリがありますので、そちらも是非合わせてお読みください。
このほか、【モンゴル大統領選挙2017】シリーズのエントリはこちらです。