今回は人民革命党から2017年大統領選挙に立候補したガンバータル候補の選挙公約を見てみましょう。
なお、ガンバータル候補って誰?というかたはまずこちらをお読みください。
で、氏の選挙公約としてはモンツァメ通信社に出たものを見ていきます。
ガンバータル候補は「他の出口はある。我々を信じよ」というスローガンを掲げて選挙戦を戦っています。いきなり「他」とりますが、人民党・民主党の二大政党やIMF主導の経済改革に対して、自分たちがそれ以外の選択肢であることをアピールすることが狙いなのは容易に想像がつきます。
そして、選挙公約は「大いなる旅が始まる」9箇条からなるものです。ただ、他の候補と比べるとかなり短いものになっています。以下、順に見ていきましょう。
まず最初の見出しは「責任あるガバナンスを確立し、失業と貧困を一掃する」というものです。今日の政治が無責任で人民を顧みておらず、失業や貧困を解決できていない批判した上で、この状態を解決するよう努力すると述べています。
次は「オリガルヒやオフショア人*1を制限し、正義を打ち立てる」という見出しです。経済格差が拡大し、中間層が減少する一方、オリガルヒやオフショア人は守られていて、正義が否定されているという批判を展開した上で、正義を打ち立てて恩恵の行き渡る経済成長を実現することは可能だと主張しています。
第3の見出しは「人民の生存に関わる利益を最優先し、国民の利益と調和を尊重する」というもの。各政党が嘘をつき、むなしい公約をして、人民を弄んで洗脳しているという批判に続けて、人民の生存に関わる利益を最優先し、モンゴル国民の利益のために調和を尊重して自由を保障するという内容です。
第4は「モンゴル人として生まれたことを誇り、モンゴルのために努力する」。有権者に対し、モンゴル人として生まれたことを誇り、蒙古斑のあるチンギス・ハーンの末裔としてモンゴル国に二心なく仕えることがモンゴル人として生まれた者の大いなる運命であり、ともにモンゴル国のために努力しようと呼びかけています。
第5に来ているのは「モンゴル人は横たわらぬ運命を持ち、横たわらぬ文字を持ち、横たわらず生まれた神聖な人民である*2」という見出し。モンゴルの名誉を世界にさらに響き渡らせるために努力するとの宣言に続いて、人民に雇用を、将来・次代の若者により高い教育を提供し、高齢者を愛情をもって守り、現在の独立国家を築いた先人の恩に高い生活水準で報いることを誓っています。
第6には「モンゴル人はモンゴルの国土の主人である」との見出しが来ています。モンゴルの天然資源を人民に与えることを目指すのは愛国主義的な考え方であると述べる一方で、自分たちモンゴル人がこの国の主人であるという内容の主張が繰り返されています。
第7の見出しは「口と仕事、言葉と行動の一致を実現する」となっています。言行一致を求め、嘘を戒めた上で、自分たちには発展の計画や、人民によって協議・制定され実行され、将来の大モンゴルを建設するための憲法の統一プログラムがあると主張しています。
第8にあるのは「祖国の前に立ちはだかる挑戦を克服する」という見出し。この部分はほとんどが呼び掛けの形になっていて、農牧業を最優先の部門として、都市を国民産業の集積地にしよう、失業を一掃し、政府が人民に仕えるようにしよう、中間層を増加させ、国民・民族の発展や繁栄の強固な基礎にしよう、調和を尊重し強化しよう、という呼びかけが並んでいます。つまり、候補としてこうする、というのではなく、有権者に対して、自らとともに取り組むことを呼びかけているのです。ここから感嘆符が連発するのも大きな特徴です。
最後には「千年紀の大建設を始める」という見出しを掲げています。ここで述べられているのは、われわれの大いなる旅である、我がモンゴルの幸福の道の起点を置く大いなる旅である、新千年紀の大建設を始めよう、モンゴル人はモンゴルの真の主人である、モンゴル人の価値と評価を高める、モンゴルは急速に発展する、独立は強固に確立する、モンゴルを誇りモンゴルをともに発展させよう、という文言です。
以上、ガンバータル候補の選挙公約を見てきました。端的に言えば、エンフボルド候補やバトトルガ候補の選挙公約とは明らかに質が異なります。大統領としての目標はもちろんあるのですが、それ以上に両氏の選挙公約には見られない現在のモンゴルへの批判や、有権者への呼びかけがガンバータル候補の選挙公約には目立ちます。
それとともに、ガンバータル候補のナショナリズムの性質もある程度露わになったと言えるでしょう。彼はこれまで資源ナショナリストとしばしば評されていましたが、もはや「資源」という限定は不要かも知れません。もっとも、氏がナショナリストであるかどうかは議論の余地がありますが、少なくとも氏が資源ナショナリズムのみを煽る政治家でないことは確かでしょう。
もうひとつ明らかになったこととして、ガンバータル候補が「生まれつきモンゴル国民であるモンゴル国民」のナショナリズムに訴えようとしていることです。ナショナリズムについて分析する時に忘れてはならない論点が「誰を『国民』としているのか」ということですが、彼の公約では「生まれ」、つまりは血統上「モンゴル国民」と認め得るものがアピールの対象となっています。結婚やその他の理由でモンゴル国籍を取得した者は「モンゴル人として生まれたことを誇り」ようがないのです。彼のナショナリズムでは、そのような人々は「モンゴル人」のカテゴリからこぼれ落ちます。
これまでガンバータル候補に対しては、資源ナショナリストとして警戒する向きが、特にモンゴル国外の投資家やウォッチャーからあったように思います。ですが、この選挙公約を見た以上、注視すべきポイントは「資源」の限定のないナショナリズムであると言うべきです。そして、このような選挙公約を掲げる候補がどれだけの得票を集めるのか、モンゴル人ではないウォッチャーたる私には非常に気になるところです。
なお、他の2候補の選挙公約についてはこちらを。
また、2017年大統領選挙については、過去のエントリもぜひご一読ください。