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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

【モンゴル大統領選挙2017】「白票運動」登場とその波紋

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 モンゴル大統領選挙2回目投票(決選投票)は国外の有権者による投票が昨日から今日まで(4~5日)実施中で、モンゴル全国では7日(金)に予定されています。そんな中、2回目投票に残ったエンフボルド候補とバトトルガ候補のどちらかにではなく、白票を投じようという運動がSNS上で登場、波紋が広がっています。

 

 まず、2回目投票実施に至った経緯については下記でご確認いただければと思います。

 

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 その上で、2回目投票のポイントとして、

  • 人民党エンフボルド候補と民主党バトトルガ候補との間の選挙戦
  • 有効票の過半数を獲得した候補がいなければ選挙やり直し
  • やり直し選挙は両候補に加えて人民革命党ガンバータル候補も立候補不可
  • 白票は有効票として認められる

 以上の4点を頭に入れておいてください。

 さて、今回の大統領選挙ではいずれの候補者にも金銭に関わる疑惑が浮上しており、どの候補にも投票したくないという声が燻ぶっていたところ、人民党エンフボルド候補と民主党バトトルガ候補との間での2回目投票実施が決まった後に、どちらの候補にも投票せず、白票を投じようという動きがSNS上に現れました。

 まず、Facebook上に現れたのが、「ツァガーン・ソンゴルト」(モンゴル語で「白い選択」)というアカウントです。白票を投じて政党に教訓を与えた、またこれから与える人々が集まる箇所という説明がなされています。

 

■ 「白い選択」Facebookページ

 

 Twitter上でも#ЦагаанСонголт(白い選択)や#ЦагаанХуудас(白い用紙)というハッシュタグが使われるようになり、中には前者を名乗るアカウントも見られるようになりました。

 

twitter.com

 

 ここで先程のポイント「白票は有効票として認められる」「有効票の過半数を獲得した候補がいなければ選挙やり直し」を思い出してください。以前にも書いたかと思いますが、白票が有効票にカウントされる以上、白票が増えれば、それだけエンフボルド候補も民主党バトトルガ候補も、過半数を獲ることが困難となり、やり直し選挙の可能性が高まります。

 実際にどの程度の白票が入れば選挙がやり直しになるかは、当日の投票率等によって変わるので分かりません。ただ、初回投票でガンバータル候補に投票した有権者の大多数が白票を投じれば、エンフボルド・バトトルガ両候補いずれの過半数獲得も不可能となることです。必ずしも全員が白票を投じる必要はなく、一定程度あれば十分です(いくつかの仮定を置けば具体的な数字の算出は可能ですが、数字が独り歩きするのは避けたいので、ここで書くことは控えます)。

 そして、やり直し選挙になれば人民革命党に再挑戦のチャンスが生まれます。それだけに、人民革命党にとっては望ましい展開です。初回投票の結果を受け入れていないガンバータル前国会議員も、2回目投票実施の際には白票を投じるよう呼びかけています。

 

sonin.mn

 

 一方、人民党・民主党にとっては、やり直し選挙になるのは自らが擁立した候補が支持されなかったことを意味します。つまりは負けに等しい痛み分けで、避けたい事態です。

 特に、開票結果をめぐって人民革命党から攻撃された人民党は黙っておらず、昨日になって声明文を出しています。ここでは、国会議員、首相、国会議長、大統領を務めた人物が、投票結果を無効にするよう有権者の心理に影響を与えようとしている、という趣旨の批判が展開されています。名指しこそしていませんが、これに該当する人物はエンフバヤル前大統領・人民革命党党首以外にあり得ません。事ここに至っては、人民党と人民革命党との共闘の可能性は消えたと見ていいでしょう。

 

nam.mn

 

 一方で、モンゴルの大手紙の一つ「ウヌードゥル」紙は、6月30日に「白い選択に関する興味深い8つの投稿」(太字部分は原文ですべて大文字になっている箇所)という記事を投稿しています。

 

unuudur.mn

 

 ここでは「白票運動」に対する反対論とそれに対する反駁を掲載していますが、とりわけ興味深いのは最後のマンガです。2回目投票(原文では再投票となっていますが)で誰を支持するか尋ねられ、「白票」と答えた人が窓から突き落とされた、という内容なのですが、白票を投じるという答えが怒りを買ったというのは、オチの表面に過ぎません。

 実はこのマンガのタイトルは「我々にはほかの出口がある。」となっています。今回の大統領選挙を見てきた方なら、人民革命党ガンバータル候補のスローガン「他の出口はある、我々を信じよ!」を連想することでしょう。つまり、白票というので人民革命党やガンバータル候補を想起させる一方、最後のコマをあらためて見ると、「他の出口」から出るとはビル上層階のガラス窓から外に蹴落とされることだった、という裏のオチを読み取ることも可能になります。

 今回の「白票運動」が成功するかどうかは分かりません。ここでは「成功」をエンフボルド・バトトルガ両候補の過半数獲得阻止と理解して話を進めますが、成功するのに必要な票が多い一方、初回投票の結果からすれば、必要なだけの票が集まる可能性も十分考えられるためです。

 ただ、仮に成功したとして、それが何を意味するのかを簡単に解釈することはできません。二大政党への不満を意味するところまでは間違いないのですが、人民革命党が白票投票を呼びかける側に回っている以上、純粋に「既成政党」への不満や不信を表すものと理解するのはためらわれます。

 となると、白票運動の本来の主旨である「政党に教訓を与える」というのが本当に叶うかどうかも疑問になってきます。むしろ、やり直し選挙となればこれまでのモンゴルの政治で中心的な役割を担ってきた人物の利益になり得るわけで、この点は留意しておくべきでしょう。

 ともあれ、2回目投票は在外有権者の投票から既に始まっています。選挙活動が禁止されているせいか、初回投票の時と比べると非常に静かな選挙に見えますが、はたして何が起きるか分からない不穏さも秘めています。