前回のエントリから、2017年モンゴル大統領選挙立候補者の選挙公約をご紹介しています。今回は民主党バトトルガ候補の選挙公約を見てみましょう。
まず、バトトルガ候補のプロフィールについては既にまとめておりますので、そちらをご覧ください。
また選挙公約については、エンフボルド候補同様モンツァメ通信社に掲載されているほか、民主党のウェブサイトからも探すことができます。
さて、バトトルガ候補の選挙公約は「愛国者」という言葉が繰り返し使われているのが大きな特徴です。バトトルガ候補は選挙スローガンを「モンゴルは勝つ」とする一方、選挙公約では「強力なモンゴルのために」を合言葉とした上で、公約前文で5つの方向性が示されています。具体的には、「調和を尊重し、国民の権益を最優先に置く愛国者の大統領」「自由と正義を守り、市民を最優先に置く愛国者の大統領」「経済を回復させ、産業を発展させた愛国者の大統領」「環境のバランスを充足し、土地を保護する愛国者の大統領」「輸出の新世紀を切り拓き、平等な対外関係を尊重する愛国者の大統領」となっています。
そして、それぞれの方向性について、個別の取り組みと、その中で細分化された取り組みが階層的に置かれています。以下、順に見ていきましょう。
第1の「調和を尊重し、国民の権益を最優先に置く愛国者の大統領」では、祖国と人民の基本的利益の尊重と保護、国民の調和の尊重と実現という2つが掲げられています。このうち前者では、
・民主主義的価値や人権の尊重
・国防強化
・遊牧文明の人類の文化的価値観としての地位確立
・隣国・第三国との安全保障や協力強化
また後者では、
・両極化の阻止
・虚無主義・悲観主義の一掃
・世代間の相互支援
・遊牧文明と定住文明の連携と相互間の尊重
・国家の安定と政策の継続性の確保や人材開発と競争力向上
以上がそれぞれ個別の取り組みとして示されています。
第2の「自由と正義を守り、市民を最優先に置く愛国者の大統領」では8つの取り組みが述べられています。具体的には、以下について取り組むとされています。
・公正性の徹底的遵守と人権の最優先
・教育・文化・芸術・科学技術支援
・国民の健康保護とスポーツ支援
・プロによる公務と国民のための公共サービスの支援
・国民の方を向いた社会保障政策の支援
・家族・高齢者・女性・子ども・若者の支援
・牧民・農耕民の支援
・一極集中の緩和と都市建設
・地方開発政策の支援
第3の「経済を回復させ、産業を発展させた愛国者の大統領」では、まず前回の総選挙前である2016年2月に国会で可決された「モンゴル国の持続可能な開発の基本原則2030」を支持して活動するとの方針を示した上で、17の項目が並べられています。それぞれの要点を並べると、最初の項目で工業化に最大の関心を置くとした上で、残る16項目で、
・資本市場整備
・中間層の所得増
・鉱業開発と国家安全保障上の利益との整合
・天然資源からの利益の他の産業部門や労働従事に対する投資
・国民による天然資源の平等・公正な占有と恩恵の利用
・工業・石油化学工業の工業団地や加工業・軽工業開発プロジェクト支援
・環境に優しく透明性と責任ある鉱業
・国家安全保障および地上住民の利益に反する鉱山採掘への対抗措置
・労働に関する法体系の整備
・「一人の国民・一人の兵士」計画導入*1
・規制・税制緩和と腐敗一掃による富の蓄積の環境整備
・対外経済関係拡大*2
・鉄道の国内ネットワーク構築と隣国・世界市場との連結
・再生エネルギー資源利用による国内エネルギー生産拡大
・再生エネルギー・メタンガス・石炭ガス等のエネルギー源増加
・金融・資本市場活動と経済政策との整合
以上が挙げられています。
第4の「環境のバランスを充足し、土地を保護する愛国者の大統領」は9項目からなっています。順に見ると、
・伝統の尊重と環境に優しい生産・機材・技術の導入と普及
・気候変動、大気・土壌汚染、水不足、土壌浸食、砂漠化、牧草劣化への注意と環境の調和の保護
・首都及び人口集中地域の大気・土壌汚染およびそれらの悪影響を非常事態として扱う
・産業・家庭ごみおよび汚水のリサイクル制度の整備
・環境に優しい機材や技術(ハイブリッドカー・電気自動車含む)への増税の禁止
・伝統と地域特性を活かした世界レベルの観光の積極的な開発支援
・石炭・頁岩を加工した無煙燃料、液体燃料、エネルギー生産の支援
・原生地域、水源地、源流の保護とウランバートル近郊での地下水節約、表水利用、下水再処理技術の普及
・稀少で絶滅の危機にある動植物の保護、回復及び繁殖
という通りになっています。
第5の「輸出の新世紀を切り拓き、平等な対外関係を尊重する愛国者の大統領」には20もの項目がリストされています。流石に多いのでさらに簡単に見ていくと、
・独立、安全保障、国民の基本的利益に合致した外交政策
・経済協力最優先の対外関係、輸出促進、外国投資誘致、先進技術普及
・ロシア、中国との全面的戦略的パートナーシップ関係深化
・国民の基本的利益を尊重しつつモンゴルを国際航空路・道路・道路の結節点化し、経済統合にも加入
・技術・生産自由地帯を建設し、外国の貿易業者・外国投資家の活動を容易化
・他国との二重課税防止条約および経済的意義のある他の協定締結について、平等・互恵の原則でモンゴル国の基本的利益と合致する形で締結
・先進国で民主主義的価値観を尊重する国々との関係の発展
・インド・中央アジア・トルコとの関係強化
・政府組織による対外関係の一体化
・在外モンゴル国民の権利保護と労働・生活条件改善
・外国を短期訪問するモンゴル国民のビザ交付条件緩和と権利保護
・国連および国際機関に対する積極的な参加を継続
・第三の隣国に対する関係の強化、関心の喚起および投資に対する平等・公正・透明性の確保と権利保護
・世界・地域の安定維持を目的として国際組織との多面的協力を継続
・非核地帯の維持と反テロリズム活動の継続、生態系バランスの維持、情報の安全保障、人権、教育交換プログラム支援
・モンゴルの名誉・知名度向上に貢献する市民・企業体の活動への支援
・モンゴルの文化・伝統の世界への宣伝と芸術・コンテンツの世界輸出への支援
・モンゴル研究の世界拡大への活動強化
・モンゴル系の世界の人々との人道的関係の拡大と多面的関係の強化
……結局長くなりましたが、このような内容です。
さて、バトトルガ候補の選挙公約を見てみると、およそ以下のようなことが言えそうに思います。
まず、数値目標が示されていない中で多面的かつ抽象的な内容が並んでいる点はエンフボルド候補同様です。経済政策でも準拠するとされる「モンゴル国の持続可能な開発の基本原則2030」には具体的な数値が並んでいましたが、こちらにはありません。もっとも、先述した大統領の権限に加え、バトトルガ候補が当選したとしても内閣・国会はモンゴル人民党が握っているわけで、政策実行の可能性を考えると仕方ない面もあります。
また、対外政策については、多国間外交を通じたモンゴルの国際舞台での知名度・地位向上を重視する点で、特に第1期のエルベグドルジ大統領の方針を継承しています。この点はエンフボルド候補との違いが見える気もします。
一方で気になるのが、これだけのことを言うために、「愛国者」を連呼する必要があったのか、ということです。しかも公約の大見出しという目立つところにわざわざ掲げていたわけで、公約の中身そのものに加えて「愛国者」という言葉でも有権者にアピールしたい意図があると思われます。
だとすれば、そこにバトトルガ候補の支持拡大戦略が表れていると言えそうです。ただ穿った見方をすれば、ナショナリズムに訴えなければならないほど、バトトルガ候補の支持が拡大していないという可能性も考えられます。
なお、他の2候補の選挙公約については以下をご覧ください。
また、以下は2017年モンゴル大統領選挙に関する過去エントリです。