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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

【モンゴル大統領選挙2017】2回目投票(決選投票)は波乱含み、結果次第で選挙やり直しも【6/29追記】

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 前回のエントリで2017年モンゴル大統領選挙が2回目投票(決選投票)に持ち込まれたことをお伝えしました。注目はその2回目投票がどうなるかですが、予想される展開は複雑で、かなりの波乱含みです。とはいえ、可能な限り整理して考えてみましょう。

 

 

 まずは初回投票についておさらいです。

 

3710920269.hatenablog.jp

 

 注目の2回目投票については、昨日選挙中央委員会が7月9日(日)に実施すると発表しました。が、今日になって7月7日(金)に前倒しするとの発表が出ました。

 

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 7月11日からモンゴルでは毎年恒例の祭典、人民革命記念の全国ナーダムが始まります。その2日前だと投票率がどうなるか懸念もあったのですが、前倒しにしたことでこの懸念は多少和らいだ気もします。

 とはいえ、厄介なのはこの決定が出たタイミングと前倒し後の日程です。前回のエントリで民主党が2回目投票日の前倒しを要求していたことは書きましたが、今日になって民主党系の団体「モンゴル民主連合」が7月6日に投票を行うことを要求、選挙中央委員会前でデモを始めました。

  

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 7月7日への選挙日変更は、このような中で発表されたことです。前倒しは勝ち取ったものの希望する日程にならなかった民主党民主党側の主張を一部受け入れる形の日程変更を見せ付けられた人民党、どちらもはたしてこのまま新たな日程を承認するか、少なからず不安はあります。

 

【6月29日追記】民主党支持者のデモが解散したとの報道が入りました。ひとまず民主党側は新日程を受け入れたとみられます。

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(追記以上)

 

 ともあれ、2回目投票をすることだけは確かです。では、この投票はどういう制度なのか?

 既に述べた通り、モンゴル大統領選挙では、初回投票でどの候補も有効票の過半数を獲得できなかった場合、最も得票数の多い候補2名の間で2回目投票が行われます。

 ここで注意すべきは、モンゴルの場合、2回目投票で当選するための条件も初回と同じく、有効票の過半数を獲ることです。そのような候補が現れなかった場合、初回投票含め選挙は無効となり、再選挙が行われます。ただし、選挙法第13条第2項の定めにより、大統領選挙立候補者が同じ選挙で再立候補することは禁じられているため、この場合は候補者選びを一からやり直すことになります。

 ここでカギを握るのは、やはり人民革命党ガンバータル候補が獲得した409,899票です。バトトルガ候補とエンフボルド候補はこの票を奪い合うことになりますし、人民革命党側はキャスティングボートを最大限活用しようとするでしょう。この場合、より有利な条件を引き出した方につくか、再選挙を狙って白票投票やボイコットを呼びかける可能性もあります。特に白票を投じることは決選投票に進んだ候補の過半数獲得阻止につながるため、バトトルガ候補とエンフボルド候補にとっては厄介です。

 では、実際に人民革命党はどう出るか?モンゴルの報道でも政治研究者による観測が出ています。

 

www.news.mn

 

 ここで気になるのが、2012年に有罪判決を受けたエンフバヤル党首の公民権停止が7月1日に終わるということです。つまり再選挙になれば、エンフバヤル党首は人民革命党から立候補できる可能性があるのです。党首の個人人気を考えれば、白票大量作戦に打って出ることは十分考えられます。

 ですが、事はさらにややこしい。まず、ガンバータル候補の獲得した票には二大政党に反発する層のものが多分に含まれます。そのような票は、必ずしも人民革命党やガンバータル候補を積極的に支持した有権者のものではないわけで、そのような有権者の中には白票ではなく棄権することを選ぶ人もいるでしょう。その場合、選挙法では追加投票を行うことになっており、ただちに選挙無効になるわけではありません。

 また人民革命党支持者も、必ずしも一枚岩ではありません。この党は現人民党、旧人民革命党の内部対立から一部が分立した結果としてできた政党ですが、支持者の中には再統合を求める声も根強くあります。事実、昨年までの間にも、両党の間には再統合や総選挙での共闘を目指す動きが見られました。いずれの動きも頓挫したのですが、旧人民革命党の再結集を求める、したがって人民党にもシンパシーを持つ支持者が、白票ではなくエンフボルド候補に票を投じたとしても不思議はありません。

 さらに、上記の記事では「ガンバータル候補とバトトルガ候補とのイメージが近い」という理由から、ガンバータル候補に投票した有権者が今度はバトトルガ候補に投票する可能性もあるとしています。実際、ナショナリスティックな訴えや鉱物資源政策面ではエンフボルド候補よりも差は小さいわけで、これらの面でガンバータル候補を支持した有権者が、バトトルガ候補になびく可能性も考慮に入れるべきでしょう。

 そう考えると、ガンバータル候補に投票した有権者が一気に再選挙狙いに走る可能性はそう高くはなさそうです。むしろ多様な有権者がいるだけに、一致団結したキャスティングボートの担い手になりきれず、むしろ草刈り場になる恐れすらあります。

 その上、仮に再選挙に持ち込めたとしても、エンフバヤル党首は立候補できないかも知れません。エンフバヤル候補は今回の選挙に立候補を届け出ながら、選挙中央委員会に候補者登録を認められなかった経緯があります。問題はこの経緯を先述の選挙法第13条第2項に照らしてどう見るかです。立候補を届け出た以上、再選挙立候補を再立候補と判断して無効とするか、登録が認められなかった以上立候補の事実がなかったと判断するか、現時点では分かりません。無効となった場合はまたひと悶着ありそうです。

 長くなりましたが、モンゴル大統領選挙の2回目投票は波乱含みです。初回投票の結果発表に反発したガンバータル候補や人民革命党が矛を収めるかどうかも分かりません。混沌としているのかどうかも分からない状況、という気すらします。

 

 って書いてふと思ったのですが、もう誰が大統領でもいいから全国ナーダム前に選挙を終わらせよーよって人は結構いたりしないでしょうか、という素朴な疑問。いや、せっかくの3日間のお祭りですし……