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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

モンゴル2024年国会総選挙参加政党・同盟について(2)民主党(6/17追記)

 

 今回はモンゴルの最大野党、民主党について紹介します。ただし過去のエントリでも一度ならず書いたことがあるので、ここでは2020年総選挙以降の動きを中心に。

 

 

 今回のエントリでは、モンゴルの最大野党、民主党(Ардчилсан Нам / Democratic Party)について紹介します。特に2020年総選挙以降の動きが中心となります。

 なお、本エントリの内容について詳しくは、『アジア動向年報』のモンゴルの項(特に2021年版以降)をご覧ください。とりわけ民主党については、人物がいろいろ登場してややこしいと思いますし。

 

ir.ide.go.jp

 

 

1. 民主化勢力の大同団結で誕生

 以前にも書きましたが、民主党は1990年のモンゴル民主化運動を率いた勢力の多くが合流して2000年に誕生した政党です。同年に行われた総選挙ではモンゴル人民革命党(現モンゴル人民党)が76議席中72議席を獲得、民主化勢力には壊滅的な結果となったことから、大同団結の必要が生まれたのでした。

 ただ、いわば「寄り合い所帯」からスタートした民主党には結党以来、派閥間の勢力争いや正統性をめぐる争いがついて回ります。また、この間に離党して新党を結成する者も相次いでいます(気がつけば元の鞘に納まった政治家もいるのですが)。

 そして、このような党のまとまりの無さは、2020年総選挙後に遺憾なく発揮されることになります。

 

2. 2020年総選挙後に党首の座を巡り党内二分

 2020年総選挙で民主党は前回に続く大敗を喫します。その結果、当時のエルデネ党首は党規に従って辞任することになり*1、トワーン党首代行が次期党首の選出業務に当たることになりました。ところが、新たな党首が決まらないうちに、辞任したはずのエルデネ党首が、党首の公印を自らが持っていることを根拠に党首の座を主張します。これにトワーン党首代行が納得するはずもなく、エルデネ派と反エルデネ派の2極による対立抗争が始まりました。

 両派は独自の党首を選出したばかりか、2021年の大統領選挙や国会議員補欠選挙でもそれぞれが異なる候補者を届け出ました。これに対し、政党に関する登録を受け付ける最高裁はどちらの党首受付も認めず(ちなみに両派の党首登録申請→却下の流れは複数回起きています)、一方で選挙管理委員会はエルデネ派の候補を認める決定を下しています。もっとも、党内がまとまらないのに選挙で勝てるわけがなく、いずれの選挙でもエルデネ派の候補は敗退しています。

 

3. 2023年に分断収束も、今度は別の不安表面化

 ところが、2023年に入るとエルデネ前党首が突如和解への動きに出ます。反エルデネ派のガントゥムル党首を承認、党首公印を引き渡したのです。これにより、2年半にわたる党内分断はようやく終結します。エルデネ前党首の行動の背景としては、対立が続く過程で自派からの離脱者が相次ぎ、追い込まれていたことが考えられます。

 これで一件落着、かと思いきや、今度はバトトルガ前大統領と反対派の対立が表面化します。民主党候補として2017年に大統領に選出されながら2021年選挙への立候補を阻まれた*2バトトルガ前大統領は、2023年に入ると民主党内での影響力回復に動きます。その結果、前大統領は首都の党組織トップである首都党委員長に自派の人物を据えることに成功しました。

 ですが、前大統領はかねてよりエルベグドルジ元大統領らとオリが悪く、民主党員の中には前大統領とプーチン・ロシア大統領との親密さを挙げて拒絶反応を示す人も少なくありません。一難去ってまた一難という状況下で、ガントゥムル党首ら党幹部は国会総選挙候補者の選出を迫られることになりました。

 

4. 「失われた8年の誤りを正す!」9+90+900の選挙公約で総選挙参加

 かくして迎えた国会総選挙。候補者の話は長くなるので後回しにして、まずは選挙スローガンと公約についてです。

 今回の総選挙で、民主党は「失われた8年の誤りを正す!」とのスローガンを掲げました。政権獲得を目指す野党なので当然と言えば当然ですが、与党モンゴル人民党(以下「人民党」)による2期8年の施政を真っ向から否定する姿勢です。

 それとともに、民主党は9章90条900項目からなる選挙公約「一体のモンゴル、完全な民主主義」を発表しました。各章は「一体のモンゴル」「目覚めたモンゴル」「資産のあるモンゴル」「生産的なモンゴル」「債務の圧迫のないモンゴル」「国家の圧迫のないモンゴル」「国民にやさしいモンゴル」「公正なモンゴル」「世界のモンゴル」と題されていて、内容は長いので逐一説明できませんが、政府の関与・規制の抑制や民間部門の比重拡大という以前からの主張を盛り込むとともに、第1章では各部門の労働者や子ども、学生、障碍者等を列挙して、それぞれに対する政策を示しているのが特徴的です。

 

www.democraticparty.mn

 

 ちなみに、民主党は選挙公約のイメージアニメも公開しています。モンゴルではまだ珍しい取り組みと言えるでしょう。

 

www.democraticparty.mn

5. 党幹部は主に比例代表、現職候補の多くとバトトルガ前大統領は選挙区から立候補

 そして候補者について。選挙区・比例代表それぞれのリストは下記リンク先の通りです。

ikon.mn

 

 簡単にまとめると、比例代表では党の幹部が名を連ねています。第1位にガントゥムル党首が記されたのにはじまり、第2位オドントヤー国会副議長、第3位バトソーリ国会議員、第4位ツェングーン開発政策担当幹事、第5位シジル元大統領官房長官、第6位バヤルマー副党首、以下という形になっています。

 ただし、現職国会議員で比例代表名簿に記載されたのはこのぐらいで、他は選挙区から立候補しています。またウヌルバヤル副党首が第10選挙区で立候補するなど、党幹部でも選挙区に回った候補者もいます。

 そして、注目されたバトトルガ前大統領は第4選挙区から立候補することになりました。ガントゥムル党首は同選挙区での擁立について、事前調査の結果だとしていますが、バトトルガ前大統領については立候補を認めなければ新党結成や他党移籍も噂されていただけに、そのようなリスクを回避した結果ともいえるでしょう。

 ただし、民主党の候補者選定に対しては、比例代表名簿に記載されないなど、思うような扱いを受けられなかった党員から反発の声も相次いでいます。

 

6. 世代交代は図れたか?

 党内抗争を経て党首以下の若返りに成功した人民党とは対照的に、民主党は世代交代が進んでいませんでした。民主化運動当時の若者が30年の間に長老と化し、若手が登場しなかったのです。昔の若者の候補者が民主化当時からの掛け声で臨んで失敗した2021年の国政選挙は、若手不在の象徴ともいえるでしょう。

 ただ、今回の総選挙では状況が変わっているようです。民主化運動当時の人物は軒並み姿を消した一方、20代後半で比例上位に名を連ねた先述のツェングーン候補のような新たな世代が見られます。正確には候補者らの平均年齢をとった方が良いので、あくまで大雑把な話ではありますが。

 とはいえ、旧世代がこのまま退場するかどうかは分かりません。再び前面に立つこともあれば、隠然とした影響力を保っている可能性もあります。民主党の世代交代が真に図れたかどうかを判断するのは、今回の総選挙の結果や、結果への反応次第と言えそうです。

 

7. 民主党の危機?民主主義の危機?

 最後はどうにもまとまらない話になってしまいます。

 今回の選挙戦開始以来、民主党は記者会見の場等で他党による金銭バラマキや民主党候補への誹謗中傷といった不正があるとたびたび主張しています。一つの例が、リンク先の記事です。

 

ikon.mn

 

 これらの主張の当否自体については、現時点では判断材料がないので論じません。むしろ気になるのは、(民主党に限らない話ではありますが)このまま投票日を迎えて、もし選挙結果が不利なものだった場合、選挙結果についても不当性を訴えて受け入れないのでは、ということです。

 実際、前回総選挙では一部政党が選挙の不正を訴えて抗議運動に出る寸前にまでなっています。この時は当時のバトトルガ大統領が迅速に国会を召集して既成事実を作ることで抗議はあっさり収束しましたが、現任のフレルスフ大統領は人民党出身、同じ手を使うと与党による弾圧として、民主党のみならず、野党の反発をかえって煽ることも考えられます。そうなると、どうしても2008年7月1日暴動の再来が憂慮されるのです。

 民主化以来、モンゴルは十分に公正な選挙を行ってきたと言えるでしょう。ゆえに、選挙結果が不正や操作によって左右されたとは思い難いところです。かつ、西側諸国の多くを「第三の隣国」として重視するモンゴルにとって、(ロシア・中国のような)権威主義体制を敷いてそれらの国々の反感を買うことは避けたいはずで、ゆえに露骨な政治的圧迫を図ることが利益にならないのは、与党も理解しているはずです。

 とはいえ、民主党をはじめ野党側の懸念も理解できないではありません。前回総選挙で野党・無所属候補者の一部が相次いで拘束されましたし、昨年12月と今年5月にはジャーナリストの拘束やニュースサイトの強制閉鎖があり、国際NGO国境なき記者団」が批判する事態になっています。

 また、その「国境なき記者団」が毎年発表している報道の自由指数(世界報道自由度ランキング)でモンゴルの指数が直近10年で低下を続け、評価も「悪い」にまで落ちており、これはモンゴル国内でも少なからず報じられました。これに前回記したオヨーン=エルデネ首相によるエルベグドルジ元大統領への非難が加わっているわけで、民主党員や支持者にとってはフラストレーションの溜まる状況と言えるでしょう。

 もっとも、選挙でまたも負けたとなれば、また党首が辞任して体制を作り直さないといけないわけで、その過程でまたぞろ党内の混乱や対立ということは十分考えられますし、むしろそちらの心配が先だろう、という考えもできます。と書いてきたものの、もちろん民主党が選挙で勝利する可能性もあるのですが。

 

【6/17追記】

 16日に民主党が記者会見、ウブルハンガイ県サント郡知事で同県民主党代表のB氏が殺害されたと発表しました。この事件で、第1選挙区から立候補していたサイハンバヤル国防相の選挙運動を務めていたO容疑者が拘束されたとのことです。

 

www.unuudur.mn

dnn.mn

 

 警察発表によれば、O容疑者は酒に酔っていて被害者と喧嘩になり、被害者を殴打して死なせた疑いがあるとのことです。

 

www.unuudur.mn

ikon.mn

 

 人民党は事件の倫理上の責任として、サイハンバヤル国防相の立候補を取り消すと発表しました。

 

www.polit.mn

www.unuudur.mn

 

 また、オヨーン=エルデネ首相は民主党本部を訪問、ガントゥムル党首に哀悼の意を表明しています。

 

news.mn

 

 アマルバヤスガラン内閣官房長官・人民党書記長は捜査の結論が出るまで事件を政治化しないよう各党に求めていますが、人命が奪われたのです。影響させるなという方が無理でしょう。

 まずは、B氏のご冥福をお祈りいたします。

*1:民主党党規5.17.7.1.では総選挙で最大の議席を獲得できなかった場合に党首が辞任することが定められています。 

democraticparty.mn

*2:2019年憲法改正で大統領任期が4年再任1回可能から6年再任不可に改められ、バトトルガ大統領の再立候補も認められなくなりました。