3710920269

「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

最後の「阪神顔」:阪神電鉄8502号車

f:id:minato920:20220115181437j:plain

 

 かつて「赤胴車」「青胴車」と呼ばれた阪神電鉄の車両たち。そのうち、急行系車両を示す「赤胴車」の昭和後期のスタイルを残す最後の先頭車両が、8000系8502号車です。

 

 

 第2次世界大戦後の混乱期が一段落すると、阪神電鉄は車両の近代化に乗り出します。その中で生まれたのが、「赤胴車」「青胴車」という車両のスタイルでした。

 この名前は車両塗装に関連するもので、赤胴車は特急や急行といった優等列車に充当される、クリーム色と赤色に塗り分けられた車両。青胴車はクリーム色と濃い青のツートンカラーで、駅間が短くこまめに停まる普通列車用として、急加速と急減速の能力を備え、「ジェットカー」とも呼ばれる車両です。

 赤胴車、青胴車とも、登場以来大小のデザイン変更を経て、最終的なスタイルに到達します。

 車体側面は、丸みを帯びた車体に、両開き扉と上下2枚窓。

 そして車両前面は、中央に貫通扉を配した左右対称のデザイン。角を丸めたゴム枠付きの窓が3枚と、左右上部には丸いヘッドライト。これが赤胴車・青胴車の「顔」でした。

 

 

 赤胴車の例。8701・8801・8901形(旧3801・3901形)です。

 

f:id:minato920:20220115183045j:plain

 

 こちらは青胴車、2代目5001形です。

 その後、新たなカラーリングが導入されることとなり、赤胴車は順次塗装変更されるか、廃車になっていきます。

 そして、最後となる7890、7990号車が引退したことで、一時代を築いた赤胴車の歴史は幕を閉じました。

 現在残っている旧赤胴車は8000系のみ。先程記したスタイルからモデルチェンジした車両で、ほとんどは戦後長く活躍した赤胴車とは似ても似つかぬデザインです。

 

 

 赤胴時代の8000系(第2次車)。先程の赤胴車とは塗装が同じでも、スタイルがまるで違うのがお分かりいただけると思います。前面もまるで違えば、側面の窓も1枚になっています。

 

 

 新たな塗装となった8000系(第2次車)の例。現在はさらにコーポレートロゴが入っています。

 そんな中でただ1両、かつての赤胴車の面影を残すのが、8000系の第1次車、8502号車です。トップ画像の車両です。

 

f:id:minato920:20220115181437j:plain

 

 画像を再掲しました。前面中央扉の枠がなくて、割と平たい感じですよね。これだけでも、登場した当時は結構イメージを変えてきたなと思ったものです。

 この車両は8000系の第1編成、トップバッターとして登場しました。デビューはまだ平成にもならない頃で、車体番号も8201号車でした。

 このスタイルの8000系は6両1編成のみ。次の編成からは、先程の画像の通り姿が一変します。

 ただ1編成まとめて製造されたので、もともとは大阪側も神戸側も、先頭車はこの表情。もう一方には、同じ顔をした8202号車がいたのです。

 しかし、以前のエントリでも述べた通り、1995年1月17日、阪神・淡路大震災で、阪神電車は甚大な打撃を受けます。この編成も被害を免れられず、8202号車を含む3両は修復できずに廃車となりました。

 生き残った3両は、同様に一部車両を失った8000系の車両のうち、8023号車の編成と新たな編成を組むことになります。その際、神戸側はこちらの8000系、大阪側は8023編成でまとめられます。もともと大阪側の先頭車だった8201号車は向きを変えられ、番号も8502に改められました。

 ただ、第1編成とそれ以外の編成では、前面も側面もスタイルがまるで違います。なので、どうしても不揃いになります。

 とはいえ、他にも震災での廃車が相次ぎ、車両のやりくりが苦しい中で、使える車両は使わないといけない事情がありました。同じ8000系でありながら、前後で顔も違えば側面も違う編成はこうして生まれ、その後も組み合わせが解かれることはありませんでした。

 そこから年月は経過します。先程述べたように、赤胴車は次々と姿を消していきます。そして残ったのが、この8502号車です。

 登場から40年近くが経過した8000系。気がつけば、トップナンバーだったはずの8201号車は、震災後の8502号車としてのキャリアの方が、はるかに長くなってしまいました。

 そんな最後の「阪神顔」の赤胴車は、地震から28年経った今日も、不揃いの6両編成を組み、災禍に消えた僚車の分まで走っていきます。

 

(参考資料)

raillab.jp

 

※ 関連エントリ。トップ写真はそれぞれ、震災による廃車の代替として製造された8536号車、そして震災で連結相手を失い、編成替えの末に同系列の他の車両よりも早い引退を余儀なくされた5143-5144編成です。

 

www.3710920.com

 

www.3710920.com