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地域系学部というのに加わった大学教員による高知発モンゴル発のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

自分で学んで生きていくための5冊+α(5)『みんなのわがまま入門』

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 自分で学んで生きていくための5冊、最後は学んで社会に関わり、社会を良い変化を起こしていくための本を選びました。

  

 

 当たり前のことですが、われわれの社会には問題や課題、矛盾や理不尽や不条理といった「おかしなこと」が、そこかしこに転がっています。それらにぶつかり、つまづかされ、腹を立てたことのない人はいないでしょう。

 あるいは、自分ではないとしても、この社会のどこかの誰かがぶつかったりつまづいたりしているのを見て、納得いかない思いや、怒りを覚えたことのある方も、決して少なくないと思います。

 そんな時、自分が、あるいは誰かが直面している「おかしなこと」を「おかしい」と言い、そしてそれを変えたいと思うのは自然なことです。

 ところが、そうして思ったことを現実に行おうとすると、壁にぶつかります。とりわけ、自分がぶつかった「おかしいこと」を「おかしい」と言おうとすると、それはお前の「わがまま」だ、自己責任なのだから世間に文句を言うな、という反応が、どこからか返ってくることでしょう。

 この批判は一見もっともらしいものです。実際問題、自己中そのものは困りモノです。

 ただ、声を上げること、社会に変化を起こそうとすること自体が否定されているとすれば、それは社会をアップデートする機会を社会自らが否定することにほかなりません。その先に何が待っているか……いや、そうして否定してきた結果が、この有様です。

 だとすれば、求められるのは発想の転換です。それも「わがまま」に対する転換です。手前勝手なものとしての「わがまま」から、本書の言葉を借りれば、「自分あるいは他の人がよりよく生きるために、その場の制度やそこにいる人の認識を変えていく行動」(p.13、読み仮名は原文に記載)と捉えることです。

 なぜこの転換が成り立つのか。ここでも本書の言葉を借りましょう。「不平や不満を訴えることは、私たちの社会において、苦しみや痛みを一方的に誰かに押し付けないために、絶対必要なもの」だから、そして、「これまでも多くの『わがまま』が政治を変えることで、社会を生きやすい場所へとつくりかえてき」たからです(どちらもp.12)。

 このより詳しい説明については、本書の中から探し出していただきたいと思います。ただし、大事なのは、ここでの「わがまま」が自分だけの利得を訴えるものではないことです。むしろ自分を含め、他者や社会そのもののより良い在り方を求める要求であることです。

 とは言え、これだけでは納得できない方もいるでしょう。そうは言っても自分勝手はあるでしょ、と言う方、その通りです。

 また、納得はできたとしても、そんなに発想なんて変わるだろうか、という疑問もあると思います。他人の「わがまま」に寛容になるのは簡単な話ではありません(そもそもなんにでも寛容になるべきか、って問題もありますし)。一方で、自分の「わがまま」を言うことへのためらい、あるいは他者からの攻撃への恐怖もあって当然です。

 それらをすべて認めた上で(ここが大事。やみくもに否定されるとついて行けない)、ではどうすればいいのか、手掛かりを与えてくれるのが、本書です。

 本書は1時間目から5時間目までの授業形式になっています。1時間目の中心こそ「わがまま」を言えない理由の解説ですが、その後は徐々に実践的な話に加え、受講生=読み手による練習が増えていきます。その点で、本書は学んだ成果を割とすぐに活かしやすくできていると思います。

 また、本書は中高一貫校での講演が基となっていますが、「わがまま」への態度を変えて、さらなる行動につなげるのに、いくつになっても遅すぎるということはないでしょう。

 とりわけ、大学生の皆さんは、ここでいう「わがまま」の準備運動に最も適した環境にいるのです。今が最大のチャンスなのです。

 他方、ここからは狭い範囲の話になってしまいますが、特に5時間目の「『わがまま』を『おせっかい』につなげよう」は、弊学部にとっては大事な内容です。

 似たような話は既に繰り返していますが、高知大学地域協働学部での実習は、地域の方々に言われたことをただするという質のものではありません。むしろ、地域側が抱える課題を踏まえた上で、学生の側が解決に少しでも役立つと思うことを考え出し、地域側に持ち掛けて理解を得た上で、地域内外の方々とともに実現させるというものです。

 ただ、これはよくよく考えれば「おせっかい」です。いや、「おせっかい」にすらならないのでは話にならないんですが、どれだけよくできた企画や事業計画だったとしても、その根本において地域側に対する「おせっかい」であることは、おそらく動かしようがありません。

 なので、自分たちの企画は自己満足じゃないだろうか、地域の方々のためになっているのだろうか……そう悩む学生が、弊学部には毎年、続々と現れるわけです。

 加えて、学生にとって地域とがっつり関われるのは長くて2年半。それも他の授業や、学生によっては課外活動もあるわけで、本当に短い間でしかありません。言ってしまえば、学生も、さらには教員も、限られた間しか関われない「よそ者」です。これも、もうひとつの悩みどころです。

 ですが、本書の第5章に照らして言えば、「おせっかい」も、ちょっとの間しか関われないことも、気にしなくていいじゃないか、となります。詳しく書くとネタバレになるので避けますが、むしろ「よそ者」だからこそできることがある、たとえ関わりが短期間でも変えられることがあるのだから、それでいい、と言えるのです。

 と、内輪の話が長くなってしまいましたが(汗)、本書は自縄自縛(他縛もあるけど)で「息ができない」社会において、意見を伝え変化を起こしていく方法を学び、身に付ける上で、親しみやすく役立つガイドブックと言えます。それだけに、「自分で学んで生きていく」ひとまずの仕上げとして、ご紹介する次第です。

 

みんなの「わがまま」入門

みんなの「わがまま」入門

 

 

 「自分で学んで生きていくための5冊」はこれで終了ですが、これらはあくまで入口です。できれば、それぞれの本で挙げられた参考文献等を読み進めていただければと思います。 

  さらに、地域協働学部の皆さんをはじめ、地域(集落・市町村・都道府県レベルを念頭に置いています)レベルのさまざまな問題に関心がある方は、以前書いたブックガイドもご参考にしていただければ嬉しいです。

 

www.3710920.com

 

 「春休み」と書いていますが、別に季節のしばりはありませんので(笑)

  この夏以降が、皆さんにとって充実したものでありますように。