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地域系学部というのに加わった大学教員による高知発モンゴル発のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

自分で学んで生きていくための5冊+α(3)『勝つための論文の書き方』

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 本シリーズの1冊目と2冊目は、どちらかと言えば学ぶ方に力点が置かれていましたが、ここからは学んだ成果をどう活かしていくかが焦点となります。まずは直接的なアウトプットに関する本から見ていきましょう。

 

 

 大学で自ら学んだ成果を結実させるものと言えば、まず思いつくのは論文です。もちろん、分野によっては論文という形式をとらない場合もありますし、論文執筆が必須でない学部・学科もありますが、成果として見た目としていちばん分かりやすいのは、やはり論文ではないでしょうか。

 ちなみに、高知大学地域協働学部の場合、卒業までに少なくとも2回、最大で年1回ずつ4回は、論文を執筆することになります。それだけに、論文指導は学部のほぼ全ての教員が担当することになります。

 それだけ重要な取り組みなだけに、論文の書き方については、これまで多くの指南書が世に出されてきました。ただ、余程酷いものでなければ(私は幸いそのようなものに出くわしたことはないのですが)、それぞれ一長一短があるわけで、どれを推すかと言うと悩ましいところです。

 それでもあえて選ぶとすれば、ということで、今回はフランス文学者鹿島茂先生の『勝つための論文の書き方』を推すことにしました。

 

勝つための論文の書き方 (文春新書)

勝つための論文の書き方 (文春新書)

 

 

 この本の特長は主に3つです。第1に、「良い問いを立てる」という作業を強調し、実践している点です。

 論文について解説する際によく言われるのが、レポートとの違いです。これが分かっていないと、どれだけの力作でも論文とは認められません。

 では、実際どう違うのか?乱暴にまとめれば、「~について」まとめたのがレポート、「?」に対する合理的な答え「!」を示したのが論文、と言えると思います。そして「?」も「!」も、それまでの学術的な営みに拠って立ちながら、どこか「今までにない」ところが求められます。

 本書は後でも述べるようにゼミ形式を交えているのですが、その中で実際に受講生に問いを立てさせ、それを研究や論文に適した形に修正していくというプロセスを示しています。「?」の重要性は他の指南書でも示されていますが、実際例がある方が断然分かりやすいはずで、それが本書の大きな特徴の1つとなっています。

 第2に、「集めながら考える」という、研究に際して現実的な戦術のとり方を解説している点です。

 理想的には、研究を行う際は、資料体やデータを十分に集めてから分析するのが望ましいところです。加えて、必要なら資料収集に先立って「?」に対する仮説、「!」の候補を立てるべきです(立てないと資料収集やデータ分析ができない時があります)。

 ですが、現実にそううまくいくとは限らない。資料がそもそも少ないこともあれば、仮説に反する資料が出てきたり、「?」に即した資料だけでは、「!」を出すにも十分な根拠が得られない場合もあります。いや、そういう場合はむしろ「よくあること」かも知れません。

 ではどうすればいいのか?本書は資料体を「縦軸・横軸に広げてみる」と良い、と説いています。縦軸は時間・歴史をさかのぼること、横軸は同一時点で異なる領域に視野を広げること、とまとめられます。

 これは先程の問いの立て方の話で出てきたことなのですが、資料収集にも応用が利くことが本書で示されていますし、個人的にはこちらをあえて強調しておきたいと思います。

 資料収集→資料の検討・分析と一方向に進めれば、そりゃ楽です。ただ、現実には矢印の向きは得てして双方向になります。この点を積極的に認めているのは、研究を行う側にとってはありがたいことなのです*1

 第3に、本書で示された「論文の書き方」は、大学卒業後も使える、ということです。

 先程、本書がゼミ形式を交えていると書きました。ですが、受講生は学生ではありません。出版社の編集者の方々です。つまり、学生以外を対象に、学生以外でも役立つ「論文の書き方」を指南したのが、本書なのです。

 「役立つ」ポイントはいろいろです。問いを立てるという意識を持つこと、問いを答えを出せる形に絞り込むこと、資料を集め、分析して得られた結果を(論文に限らず)体系的かつ読み手・聞き手の興味を惹くように見せること、他にも探せばいろいろ出てくることでしょう。

 そしてもちろん、これらが大学で論文を書くこと自体に役立たないわけがありません。学生のうちに入手しておけば、その後も長く使うことができます。

 ただし、資料収集方法については、その後の技術進歩によってアップデートが必要になります。また、ご専門上エロティークな話が出てくるのは避けられず、正直言うと、女子学生の多い本学部では薦めるのをためらってきました(著者は女子大学の教員なんですが……)。

 ただ、それでも「問いを立てる」「集めながら考える」というところは、読み手のジェンダー関係なく役立つはずです。論文をまとめる準備体操としても使いたい一冊です。

 

 なお、現役の大学生・大学院生以外も想定した論文の書き方の指南書といえば、澤田昭夫先生の2冊が古典と言えるでしょう。これらでも、問いの立て方(ここでは「トピックの切り出し方」となっていますが)は重要な位置を占めています。 

 

論文の書き方 (講談社学術文庫)

論文の書き方 (講談社学術文庫)

  • 作者:澤田 昭夫
  • 発売日: 1977/06/08
  • メディア: 文庫
 

 

 

 2冊にもなると結構な文良です。値段も張ります。かつ刊行時期が時期なので、資料収集の方法に関する記述は、いわば蒸気機関車の運転マニュアル並みの古いものになってしまっています。そのため、今回はより容易に入手して読めて、実践にもつながりやすい鹿島先生の本を推した次第です。

 ですが、問いを立ててその答えを探して示すプロセスを、はるか以前に一般向けに示したという点では重要な先駆けです。私も20年以上愛用している名著で、余裕があれば、2冊ともぜひ読んでいただきたいところです。

*1:ただし社会科学のデータ分析の場合、使用するデータが決まっていることが多く、再度のデータ収集はほぼ困難か不可能です。その場合、分析結果が仮説に反したとすれば、分析手続きに問題がない限り、なぜそのような結果が出たのかについて、考察・解釈を加えるプロセスに進みます。ここで合理的かつ新奇な議論が示せれば、下手に仮説が支持されるよりも面白くなることすらあります。