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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

春休みに読んでほしい、地域と日本の社会を考える3冊

 本務校では集中講義期間も終わり、「学生は」(←超重要!)本格的に春休みモードです。また、既に合格が決まった皆さん(おめでとうございます!)と、これから決まる(先におめでとうございます!)皆さんも、一部課題があるのを除けば、入学まではお休みです。

 最近は大学生活も忙しいのです。特に我らが地域協働学部は。なので、3月は息抜き……と言いたいところですが、むしろこの時期は、プロのアスリートで言うところの自主トレ期間。ここで自分自身の課題に取り組めるかどうかで、4月からどれだけ成長できるかが違ってきます。

 ただ、いきなり「自分自身の課題」と言われても、はたして何が課題かを見極めるのは難しいところです。そこで、今回は地域協働学部をはじめ、地域を対象として学び、研究する学生、それも新1・2回生を想定して(もちろんそれ以外の方もご参考にしてくださって結構です)、いちど読んでみてほしい本を3冊選びました。

 

 では早速、1冊目からご紹介します。  

 

hon.gakken.jp

 

 この本は4コママンガブログ「Web4コマ 地方は活性化するか否か」から派生したものです。地方都市に住む女子高生を主役に、地域活性化についてギャグも交えたストーリーが展開されています。マンガ、しかもギャグ系なので、読みやすいのはもちろんです。

 ただ、あくまでもギャグ「系」のマンガであって、中身はリアル、かつシリアスです。シャレでは済まない「残酷な話」も入っています。だからこそ読んでほしいのです。地域活性化、地方創生の落とし穴を理解した上で、それを回避しつつどう進むのか? ラストシーンの先、大学生の皆さんなら主人公たちをどう応援できるか、どう応援できるようになりたいか? ぜひ考えてみてください。

 続いて2冊目です。

 

www.akishobo.com

 

 関連書である『知ろうとすること。』どちらにするか最後まで迷いましたし、いっそ4冊にしてしまおうかとも思ったのですが、4冊以上になると流石に多いかと思ったのと、「地域と日本の社会を考える」という主旨に従って、こちらを選びました。ただ『知ろうとすること。』は文庫本で簡単に読めてしまうので、合わせて読んでいただいても問題ない(ってかぜひ読んでね)とは思いますが。

 福島第一原発事故の影響でホットスポットが発見された千葉県柏市。それまでの「地産地消」の街が危機にさらされます。しかし、市民は消費者、生産者、流通者、販売者などの立場や利害の違いを越えて危機克服に動きました。彼らは「『安全・安心の柏産柏消』円卓会議」を結成、信頼できる調査と互いの熟議の積み重ねに基づいて「安全」の基準を決め、そうすることで安心と信頼を取り戻したのです。本書は、そんな取り組みの記録と論考をまとめたものです。

 本書が示しているのは、地域社会が直面する問題を解決するには、立場や利害の違う、しかし同じ問題に直面する人々が、共に考え、行動することが必要となることです。どれだけ有能な個人・組織が動いたとして、人々の安心・信頼という、言ってしまえば「心の問題」まで解決することはできません。また、その個人・組織と利害が対立する人々はどうなるのか、という問題もあります。

 なので、共通する問題に直面する違う者どうしが、互いの違いを理解しつつ、その違いを越えて「自分の問題=自分たちの問題」として取り組むことが必要となります。「自分の問題=自分たちの問題」ですから、他人事として投げることはできません。当事者には協調性とともに自律性が求められます。われわれの言葉で端的に言うなら、「地域協働」がなければならないのです。

 本書は、そんな地域協働の成功例、しかも非常に切迫した条件からの、貴重な成功例と言えるでしょう。原発事故の影響だけではなく、地域課題一般について考える時にも、読んでおくと役に立つはずです。

 なお、さらに放射線放射性物質の問題に関心がある方は、『いちから聞きたい放射線のほんとう』で基礎的な知識を固めておくことを強くお勧めします。悪意の情報のみならず、狂った善意によるウソにも騙されないために。

 

 そして、3冊目はこちら。

 

■ 仕事と家族|新書|中央公論新社

 

 残念ながら、この本だけ埋め込みリンクが生成できませんでした……

 さておき、本書は前の2冊とは異なり、地域レベルからマクロ(この場合は日本全国)レベルに焦点が広がります。「地域問題とは関係ないのでは?」と思われるかも知れませんが、少子化・高齢化という背景となる問題が共通していることは、読んでいただければ理解できることでしょう。

 また、地域について考える際に、その地域だけで「閉じて」考えることはできません。どんな地域も完全に孤立している訳などなく、カネ・モノ・ヒト・情報などで、他のさまざまな地域とつながっています。そして、現代社会では、それらのつながりの大きなまとまりとして「国」が存在しています。ですので、1つの地域について考える際にも、他地域との関連、国レベルの視野を欠かすことはできません。

 ただし、国レベルで考える場合に大事なのが「比較」の視点です。人は自身を理解するのに鏡を使うことができますが、自分の国を映す鏡はありません。ですから、さまざまな指標について、他の国々と比較し、自国の位置付けを理解することが欠かせないのです。ただし、その際には客観性があり信頼できるデータを利用すること、求められる分析を確実に理解した上で行い、分析結果から何が言えるか、言えないかを見極めることが必須です。本書はそんな国際比較の優れた例でもあります。

 膨大なデータをまとめた新書なので、大学新入生の皆さんにはちょっとハードかも知れません。「難しいな」と思ったら、ノートを取りながら読んでみましょう。そういう文献の読み方を身に付けることも、さらに学び、研究を行うための大事なステップです。

 

 以上の3冊。春休みを有意義に過ごす上で、ご参考していただければ嬉しいです。