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IMFとモンゴル政府,EFF(拡大信用供与措置)による支援実施で基本合意(中)モンゴル支援の方向性

  先日発表されたIMFのモンゴル政府に対するEFF(拡大信用供与措置)による支援。今回はモンゴルに対する具体的な支援内容と、その前提となる改革プログラムの方向性を、IMFのプレスリリースから見ていきます。なお、昨日は前後篇に分けるつもりでしたが、さらに長くなるので、前中後の3回に分けることにしました。ご了承ください。

 

 

 今回見ていくのは、IMF公式ウェブサイトから出されたIMFモンゴル管轄作業部会コシー・マタイ代表の声明です。

 

■ IMF Reaches Staff-Level Agreement with Mongolia on Three-Year Extended Fund Facility (IMF, Febryary 19, 2017)

 

 IMFでの位置づけはあくまでマタイ代表の個人的見解であり、理事会の意見を表すものではなく、理事会の決定もこれから先ということですが、余程のことがない限り(というとありそうに思えてくるのですが)、ここで示された方向性がIMFのモンゴル支援になるものと思われます。

 肝心の声明内容なのですが、要点をかいつまんで示すと、こうなるでしょうか。

 

  • モンゴル政府とIMF調査団はモンゴルへの3年間のEFF適用について、スタッフレベル("staff-level"のこと。他国の事例では「実務者レベル」と書く報道もあり)で合意
  • IMFによる融資は3億1450万5000SDR(特別引出権)で、4億4000万ドルに相当
  • IMF以外の金融支援を合わせると総額は55億ドル。具体的には、世界銀行アジア開発銀行、日本、韓国による30億円の予算・金融支援の計画あり。中国人民銀行もモンゴル銀行との15億人民元の為替スワップを延長する見込み
  • これらの支援によってモンゴル政府の「経済安定化プログラム」を支援。プログラムは経済・債務の安定化に加え、強く持続可能で包含的な成長の条件整備を、最も弱い市民を守りながら実現することを目指す
  • 最も優先順位が高いのは予算強化。無責任な予算政策が経済困難と債務拡大の主要な原因。財政赤字は優先度の高い社会支出を維持しながら、着実に削減しなければならない。子ども手当基金はすべて最も弱い層へのフードスタンプ支出増加に回す。個人所得税はより累進性を高め、高所得層のみ負担を増加させる
  • モンゴル開発銀行は法律に基づき、今後は純粋に商業的な独立した銀行として運営される
  • モンゴル銀行は、現在では本質的に回転資金としての運用になっている住宅ローンプログラムを点も含め、追加的な擬似財政的活動を行わない
  • 採掘権プロジェクトに関連する法律を改正し、公共投資プログラムは国家開発の優先順位に沿うよう合理化する
  • 銀行システムの強化がプログラムの核心部分。最も優先順位が高いのは、銀行の健全性とレジリエンスの審査。モンゴル銀行はその審査の結果に基づき、規制と監督の枠組みを強化しつつ、必要に応じて銀行に再構築と資本増強を行わせる
  • 当局は大規模鉱山への投資を誘致するとともに、産業の多様化と農牧業・観光を中心とする競争力向上のための一連の構造改革を実施することで、経済の活性化を目指している。改革は世界銀行アジア開発銀行との緊密な連携で行われる
  • 当局の調整および構造改革プログラムによって、2019年の経済成長率は8%程度、外貨準備高は38億ドル(輸入6ヶ月分相当)になる見通し。予算の強化によって民間セクターへの信用供給が増加して成長につながる。これらの政策は債務削減ももたらす
  • 政府はプログラム実施のため、外国債権者と共同で行う財政保証によって、債務の持続可能性が回復される。 

 

 基本的には、放漫財政を改め、モンゴル銀行も監査を強化することで、市中銀行の体力を回復、増進させるのが主な戦略で、その際にモンゴル銀行は中央銀行としての役割以外から原則手を引くというのが条件になります。また、この戦略と同時に成長力や競争力強化に向けた政策も行いつつ、プログラム実施過程で最貧層への影響が出ないよう十分注意を払う、というところでしょうか。私は国際金融が専門ではないので、この辺りは専門家のご教示を請いたいのですが、一見したところ、非常に標準的な内容だと思われます。

 ただしそれだけに、1980年代や90年代のIMFによる途上国支援でしばしば言われた「途上国の置かれた条件を考えずに、画一的なプログラムを押し付ける」という批判は出てきそうです。私自身、モンゴルの市場経済化開始後の経済支援に対しては、同じ立場から批判していたのですが、市場経済化開始から20数年が経った今となっては、支援策内容がこうなるのも止むを得ないと思っています。

 近著(分担執筆ですが)で触れるつもりですが、ここ2, 3年のモンゴルの財政を見ると、歳入増加の当てもないのに歳出を膨張させており、赤字の増え方には凄まじいものがありました。なので、ここでいちどリセットしておいた方が、かえってためになるように思われます。

 また、銀行セクター改革も、市中銀行が存在しないところから始めなければならなかった1990年代とは一緒にできないわけです。よちよち歩きの子どもを相手にするのではないのですから、厳格な監査を課し、打つ手のない銀行には退出を促した上で、回復・発展が期待できる銀行の体力増強を図るのは、当然の策と言えます。

 とはいえ、これらは手段であって目的ではありません。究極の目的は、モンゴルが再び経済成長軌道に乗り、支援から脱して自ら持続可能な経済開発を実現できるようにすることです。

 ただ、それにはいくつか解決すべき課題が考えられるのですが、今回もまた既に長くなってしまいました。それらの課題については、後篇で検討しているのでご覧ください。

 

3710920269.hatenablog.jp

  

 なお、前篇はこちらからどうぞ。 

3710920269.hatenablog.jp