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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

拙書『遊牧の経済学』が出版されました(5/1販売元様リンク追加)

 このたび初めての単著『遊牧の経済学 モンゴル国遊牧地域に見るもうひとつの「農村部門」』を上梓いたしました。ご一読いただければ幸いです。

 

 

 本書は私の博士論文を基としていますが、論文提出後の動きや統計データの整備・修正に伴い、終章を全面的に改変の上拡充、その他の部分も見直した上で加筆修正を行ったものです。

 博士論文自体は2005年に提出したもので、大学院終了後に専門が変わったこともあり、近年まで出版は諦めていました。ところが、前職でたまたま参加した若手向け(当時は業界では若手だったんです!)セミナーでその気になり、さらに出版社の方に博士論文を読んでいただいたところ、出版のお勧めを頂きました。さらに今年度、日本学術振興会の科学研究費事業・研究成果公開促進費に採択されたことで(学術図書・課題番号16HP5143)、11年半越しで出版に漕ぎ着けることができました。ですので、セミナーを開催していただいた前任校の関係者、出版社の晃洋書房の方々にはあらためて感謝です。

 本の内容につきましては、実際にご一読いただくのがいちばんですので、本エントリでは触れません。全面的に見直したとはいえ、議論の根幹の部分は2005年以前の事実認識に基づいていますので、それが現在どの程度通用するかも、読者の皆様それぞれにご判断いただきましょう。その上で、ここでは本書に関して、3点ほど所感を述べさせていただければと思います。

 

1. なぜに「経済学」?

 既に書いた通り、本書のタイトルは『遊牧の経済学』です。これについては、現在の私の専門が世間的には地域研究(モンゴル)と社会学となっていることもあり、疑問に思われる方もいらっしゃるかも知れません。実際、私も『遊牧の経済社会学』とすべきか、かなり迷った時期がありました。

 ですが、本書の基となる博士論文執筆時の問題意識に立ち返れば、本書で展開した研究内容は「経済学」でなければならない、という結論に至り、今回のタイトルを決定した次第です。

 「はじめに」の部分で書いたことにもつながりますが、モンゴル経済を理解するためには遊牧による生産から交換に至るメカニズムへの理解が必須です。これはモンゴル経済が鉱業主導となった今も変わっていないというのが、私の見方です。にもかかわらず、そのようなメカニズムを理解するために使えそうな理論体系を、私は既存の理論の中で見つけることができなかったのです。

 だとすれば、そのような体系を作るしかない。農業経済学があるのだから、遊牧経済学を作らなければならない。私一人では無理かも知れないが、せめてそのような理論体系を作るべきだという問題提起だけでもできれば、誰かがその問題を引き受けてくれるかも知れない。院生時代から博士論文提出に至るまでの私の原動力は、そのような意識であり、期待でした。

 今のところ、当時の期待は実現していません。私自身、生きるためとはいえ院修了後は別の研究領域に移ったわけですし、原因の一端は間違いなく私にあります。ただ、かつての私の期待が間違っていたとは今も思っていません。いや、モンゴル経済が重大な岐路に差し掛かった今こそ、鉱業以外でモンゴル経済の軸になり得る、遊牧による牧畜生産を理解し、その成果をモンゴル経済の建て直しに貢献させるべき時ではないでしょうか。願わくば、私より優れた研究者の方々に、そのような作業に携わっていただきたいものです。

 

2. 値段が……

 本エントリの最後で、本書のネット通販のリンク先をご紹介します。そこで本書の価格が出てきますが、なめとんのかと思われるかも知れません。この辺は、大人の事情とか予算の都合とか言わざるを得ません。済みません(汗)

 ただ言い訳になりますが、ただでさえ学術書は高くならざるを得ない中、モンゴル関連のものはさらに高くなってしまうのが現実です。私も学部1年のときに、3万円のモンゴル語の辞書を買わざるを得ませんでしたし(元は取ったと思いますが)。

 もひとつ言えば、本書刊行にかかる予算の出所の都合上、初版が売れても私の手元には一銭も入りません。学術書がそういう条件、もっと言えば持ち出し状態で刊行されることはまったく珍しくないのです。そこまでしてでも出版したい、という意思と先立つものがなければ、学術書は出版できないのです。

 それはさておき、どうしてもお金が……という方は、お住まいかお勤め先の自治体の図書館に本書の購入依頼をかけることをぜひお勧めします。依頼が通ることは保証できませんが、多ければ多いほど通る可能性は高まるかと思います。ちなみに、高知県立図書館には少なくとも一冊は入る予定です。なぜなら、これから私が寄贈するからです(笑)

 ですが、それでもお買い上げいただけるという方。本書を持って高知まで来ていただければ、可能な限りサインぐらいはいたしますので、その場合は事前にご一報ください。

 

3. 研究者諸氏、研究成果公開促進費は一回落ちても諦めるな!

 これがいちばん言いたいことかも知れません(笑)

 実は、本書は研究成果公開促進費に一度落ちています。二度目の挑戦で採択を受けたのです。

 一度目の申請で落ちたときは、やっぱりなぁ、という気になりましたし、どうしても出版するなら自腹を切るしかないか、とも思っていました。車1台買うつもりになれば本は出版できる、という言葉を頂いたこともありましたし、あとは本書がその負担に見合うかどうかの判断でした。ただ、もう一度申請してみませんか、という出版社の方のお勧めを頂き、ダメ元で申請したところ、なんと採択されちゃった、という話です。

 ですので研究者の皆さん、研究成果公開促進費は一度落ちたからと言って諦めるのはまだ早いです。絶対に早いです。不採択理由をよく読んで、対策を練って再挑戦すれば、道は開けてくるはずです。

 何より、本書を読んでいただければ実感されると思いますが、こんな本でも採択されるんです(念のため書いときますが、申請時に原稿は提出しているので、審査する側はちゃんと中身を読んでいるはずです)。皆さんが本気でかかれば、採択に値する原稿がきっとできるでしょう。健闘を祈ります。

 

本書のご注文について

  本書は紛れもなく一般的な本です。ISBNもちゃんとついています。ですから書店でも買えますが、普段から置いているお店はまずないと思いますので(涙)、最後に購入方法について一言。

 本は書店で買いたいという方は、店舗で発注していただくこともできますし、Honya club.comさんでご注文の上、提携している書店でお受け取りいただくこともできます。

 

www.honyaclub.com

 

 また、お近くに書店がない場合は、Amazonさんでもお求めいただけます。

 

 

 Bookfan(本店)さんでも取り扱っていただいています。

 

boox.jp

 

 Honto.jpさんでも取り扱いが始まりました。リンクを貼っておきます。

 

honto.jp

 

 楽天市場でも取り扱いが始まりまっています。

 

 

 もちろん、晃洋書房さんに直接発注する手もあります。

 

■ 遊牧の経済学 | 晃洋書房

 

 ちなみに、3,240円以上の場合は送料無料ということで、本書を一冊買っただけで送料が無料になります。これを機会に、3,240円未満の本を合わせて買ってみるのはいかがでしょうか(勝手に宣伝)。

 

 今日本書の発売に至ったことで、11年半もの間宙に浮いていた遊牧経済研究に、ようやく一つの区切りをつけられた気がします。この間ずっと中空を漂っていた遊牧経済研究者としての私も、どうやら成仏できそうです(苦笑)

 ただ、繰り返しになりますが、遊牧経済研究の必要性は今も変わっていないどころか、むしろ増しているものと思っています。そのような研究はモンゴルのみならず、他の遊牧や移動牧畜による経済社会の理解にも資することでしょう。本書がそのような研究を促し、さらにはモンゴル経済やモンゴルに暮らす人々の生活を向上させるきっかけになれば、何よりの幸いです。