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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

モンゴル2024年国会総選挙総括(上)

 

 2024年6月28日(金)に投開票が行われたモンゴル国会総選挙。ここであらためて、各党・同盟の獲得議席を含め、結果について検討しておきます。

 

 

 

1. はじめに

 昨日(2024年7月2日)モンゴル国第9次国会の初回本会議が行われ、新国会議員が宣誓を行ったことで、モンゴル国憲法下で9番目となる国会が発足しました。6月28日(金)投開票の国会総選挙に関連した動きも、大きな混乱なく一段落となりそうです。

 そこで、今回は総選挙の結果について、いくつかのポイントに注目してみていこうと思います。その際、各党・同盟の獲得議席数も焦点となりますが、実はこれについて、モンゴルのニュースサイトが興味深い論考を公開しています。私自身の考えとも重なるところもあり、参考になったので、リンクを掲載しておきます。

 

www.zms.mn

www.polit.mn

 

 また、開票結果については選挙管理委員会に加えて、ニュースサイトikon.mnによるまとめを適宜利用しています。

 

ikon.mn

 

 このサイトでは初回1992年から前回2020年総選挙の結果もまとめているので、こちらも参照しています。

 

ikon.mn

 

2. 投票率は前回を下回る 

 今回の総選挙で投票日当日の投票率は69.85%でした。今回比例代表制再導入によって復活した在外モンゴル国民では有権者登録者のうち73.2%が投票したのですが、これを加味しても全体的な投票率はほぼ同じです。

 

m-election.mn

 

 前回2020年総選挙の投票率は73.65%。コロナ禍(といっても国内での感染が拡大する前ですが)の中での選挙から、4%近く下がったことになります。

 

www.gec.gov.mn

 

 ただ、過去にはもっと投票率が低かったこともありますし、これをもって政治的無関心の広がりとまで言えるかは微妙です。どのみち日本の総選挙より高いし

 

3. 女性国会議員比率は上昇も、現職議員は苦戦

 一方で、特徴的だったのは女性国会議員の増加と比率上昇です。今回は各党・同盟に対して立候補者のうち30%を同じ性別の候補者で揃えるべしというクオータ制に加え、比例代表では男女交互の名簿記載という制度が導入され、女性候補が一気に増加しました。

 その結果、前回総選挙では女性候補の当選が13人(17.1%)だったのが、今回は32人と倍以上に増加。議席数126に対する比率も25.4%にまで上昇しました。中でも、市民の意志・緑の党から比例代表名簿第4位で立候補したザミラ候補が、カザフ族女性としては初めて国会議員に当選したのが注目されます。

 

m-election.mn

 

 ただし、これが女性にとって手放しで喜べる結果とは限りません。

 まず、当選した女性候補のほとんどは比例代表制での当選で、選挙区から当選したのは8人だけです。加えて、現職女性議員9人のうち、再選したのは人民党オンドラム国会議員とボルガントヤー労働・社会保障相、民主党オドントヤー前国会副議長の3人だけです。

 

blogs.ubc.ca

 

 このことから、上記投稿では、女性国会議員がどこまで党や派閥から自由に行動できるかという懸念が記されています。ここにもある通り、女性国会議員どうしでのネットワーク化が重要になるでしょう。

 

4. モンゴル人民党:第1選挙区、第7選挙区大敗の衝撃

 ここからは各党・同盟の結果についてです。以前のエントリでは「勝者なき選挙」と書きましたが、そこまでは言わないまでも、どの政党・同盟を見ても「勝ち切った」という感じがしないのが率直なところです。

 まずは人民党。比例代表制の導入によって議席率を下げることは確実視されていて、なぜ不利な制度をあえて認めたのかが疑問に思われていたところです。

 ところが、フタを開けてみれば制度を最大限活かして過半数を維持しました。選挙区では中選挙区完全連記制により、38.6%の得票で議席の64.1%を獲得。比例代表制でも阻止条項により無効となった政党・同盟への得票を他の4党・同盟と分け合っています。

 

ikon.mn

 

 ただし、第1選挙区と第7選挙区では大敗を喫しています。第1選挙区は3県からなり、前回は2県で人民党が議席独占、1県で3議席中1議席獲得。第7選挙区は前回3つに分かれていましたが、1議席を除いて人民党が確保。今回は統合され議席が1増えています。

 ところが、今回はそれぞれ当選者が2人のみ。残る議席(第1選挙区7、第7選挙区5)は全て民主党に奪われました。

 第1選挙区の敗因は簡単に思いつきます。サイハンバヤル国防相選挙運動員による民主党地方幹部殺害事件です。

 

www.3710920.com

 

 アマルバヤスガラン内閣官房長官(新国会議長就任決定)はサイハンバヤル国防相の選挙運動を停止すると発表しましたが、国防相が拒否して継続を宣言。その後の人民党の選挙活動でも、他の候補に混ざって演壇に上がっていました(選挙運動期間が終わってweb記事が削除されてしまったようで、今となっては探せないのですが……)。

 これが有権者の反感を買ったか、サイハンバヤル国防相は落選。そればかりか、一緒に選挙運動を行ったザンダンシャタル国会議長、トグトフスレン党国会議員団長、チンゾリグ保健相といった「大物」が枕を並べて討死。フレルスフ大統領の外遊に同行して選挙運動から離れたバトツェツェグ外相がかえって当選したのはあまりに皮肉です。

 謎なのが第7選挙区です。特に南部ウムヌゴビ県は石炭輸出や土地取引をめぐる腐敗の舞台ともなっただけに、現政権による反腐敗闘争に何らかの不満があった可能性は考えられます。ただ、それが行き過ぎや偏りを感じてのものなのか、生ぬるいという評価なのかは分かりませんし、不満が現にあったとして、そもそも選挙区4県のうち1県のみの話です。他にも要因はあり得るでしょうが、人民党がそれらを見誤ると、10月予定の統一地方選挙の勝利もおぼつかなくなりそうです。

 

5. 民主党:党内対立再燃は避けられるか

 過去2回の総選挙で大敗を続けた民主党ですが、今回はちょうど3分の1の議席を確保しました。与党人民党への批判票が集中したことで、ようやく復調した形です。

 しかし、以前も述べましたが、民主党の党規では第1党になれなかった場合に党首が辞任するとあります。つまり、議席が増えようが党規上は党首が責任を取るべき負け戦です。2番ではダメなのです。

 となると、今後はガントゥムル党首に代わる党首、さらには党幹部人事が焦点になると見込まれます。ですが、前回総選挙後の3年近くも党首選びで迷走した民主党が、今回はスムーズに新党首を選出できるとはとても考え難いところです。あるいは超党規的に現党首が留任する可能性もありますが、選挙運動期間中ですら党首辞任を訴える党員が出てくる党で、そのような力技が通るでしょうか。

 また、第4選挙区で当選したバトトルガ元大統領に親しい勢力と、そうではない勢力とがどう折り合いをつけられるかも課題です。さらに、後述する通りオヨーン=エルデネ首相は民主党と人間党に連立政権樹立を呼びかけていて、これが日本風に言うなら「毒饅頭」になる恐れもあります。そこそこの議席は得たものの、民主党が最大野党として機能するには、対処すべき難題がいくつも控えています。

 

 長くなったので、ここでいったん切ります。(下)は人間党、国民同盟、市民の意志・緑の党の結果について見た上で、あらためて総選挙全体についてまとめたいと思います。