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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

高知市から室戸岬まで(少し走って)歩いて行きました(4)夜の歩行と日の出

 

 道の駅田野駅屋を出て、ようやく奈半利町までたどり着きました。いつもなら車やバスでスッと通り過ぎる距離が、今はとてつもなく遠く重く感じます。

 

 

 奈半利までの歩みについては、こちらを。

 

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 話は12時間ほど前に遡ります。間もなくスタートというときに職員さんたちが話しているのが聞こえてきたのですが、常連さんが初参加の人に曰く、

 

奈半利まで行けたらあとは何とかなりますよ」とのことでした。

 

 いや、その奈半利までが遠いでしょと思ったのですが、実際来てみて、自分も間違っていたことに気がつきました。

 奈半利までが遠いのではなくて奈半利からが遠いのです。

 奈半利まで来て、ようやく全コースの3分の2が終わったところ。まだ30km程は歩かなければならないのです。

 しかも、奈半利から先は室戸市の中心部までコンビニがありません。自販機ならあるでしょうし動いているでしょうが、20kmをゆうに超える距離を、食糧補給ができない中で歩き続けないといけないのです。

 しかも、この夜中にです。これから日付が変わって未明が続く間に、です。

 

 

 そんな中でなはりのローソンに立ち寄りました。朝食用、いざとなれば非常食のパンと温かい飲み物を仕入れ、ここからの苦行に出発します。

 奈半利町は決して広い自治体ではありません。むしろ小さい部類に入ります。しかし、安田町、田野町とさらに小さい自治体を歩き通した後だと、距離がいかにも長く感じます。歩き続けて町内東部にある加領郷集落まで来たかと思ったら、バス停は「加領郷西入口」。まだ西なのか、で入口ってなんだよ、という落胆で疲れはいや増します。

 

 

 それでも室戸市に入りました。ですが、ここまできたらあと少し、と言えないのが苦しいところ。目指す岬は、矢流坂で見た時よりは近づいていますが、はるかに遠いところがまだ遠いところに変わったに過ぎません。

 

 

 羽根岬に着きました。まだまだ西の外れです。ここから羽根、吉良川、行当、元、浮津と、岬までいくつも集落を通って行かないといけません。

 しかも、まず羽根集落が東西に長い。行けども行けども集落の端にたどり着けません。そして歩いている最中、急に車に呼び止められたと思ったら徘徊老人と間違われるというハプニングもありました。暗くてよく見えなかったみたいです。

 それでも何とか集落を抜けましたが、今度は吉良川まで無人の夜道が続きます。しかもこの辺りは道路の左右に鬱蒼とした木々が茂っていて、ときに闇夜の中から現れた異形やこの世ならぬものに見えて恐怖を感じます。

 60km以上歩き続けた心身にまだ残った力を、晩秋の深夜の気配が確実に削り取っていきます。

 

 

 吉良川集落を抜け、再び道路の両側を木々が覆う中、ついに室戸岬までの距離が案内されるようになりました。残り13km、これで8割強は歩けたことになります。しかし、それなのに気分が上がりません。ゴールは確実に近づいている、そうともなれば力づけられるはずなのに、何も湧いてこないのです。

 

 

 その後10分ほど歩いて、道の駅キラメッセに着きました。羽根岬から3時間弱、ここまで時間がかかるとは思っていませんでした。とにかく休まないといけません。

 着いてみると、スタート直後に走っていった人たちが仮眠をとっていました。高知市内は付いていけるといいなと思いながら早々に諦めて、その後だいぶ離されたと思っていたのが、意外や意外です。

 ただ、ここで先に行ってやろうとする力が起こらない。少しすると通りかかった車の中から応援を頂いたのですが、有難いとは思ったのに奮い立つものがない。

 いや、気持ちは上がっているのです。何としてでも歩き通すつもりなのです。なのに、それが身体に伝わらない。身体が応えてくれない。悔しいやら情けないやら、ここまでかという考えすら頭をよぎります。

 ですが、ここでリタイヤするわけにはいかない。意地だとか根性だとか執念だとかそんなものではなく、リタイヤしたら後が厄介なのです。

 室戸貫歩から途中で離脱する場合、その旨を連絡した上で、帰りの交通手段は自分で手配しないといけない、というのがルールです。

 しかし、日曜未明の田舎道の途中で、すぐに使える交通手段などあるわけがありません。現実に可能なのは、始発のバスを待つ以外にないのです。11月終わり、海からの寒風が吹き晒される中を、何時間も待たなければならないのです。今の私の身体で、それに耐えられるとはとても思えません。

 行くも地獄、しかし退くはもっと地獄です。

 つまり、安全のための最善策はゴールまでたどり着くことなのです。

 しかし、そのためにはフィジカルをどうにかしないといけない。疲れて冷えた身体を、再び歩き出せるモードに持って行かないといけない。気持ちや精神力ではどうしようもないのです。

 幸いにして、道の駅の自販機は動いていました。考えた末、ホットの缶ミルクコーヒーを買って飲みました。普段ならまず買わないであろう、甘々でカロリーたっぷりのコーヒーミルクです。

 すると、これが見事にハマりました!熱源が行き渡った身体から力が湧いてくるのです。自分でも信じられないほどのフィジカルの変化は弱気も吹き飛ばし、まだ行ける、いや行ってやろうという高揚がとって代わります。

 この調子ならあと少し、3時間も歩かずにゴールできるはず。やっちゃらぁ!先程の疲弊はどこへやら、自信満々で再び歩き始めました。

 

 

 ついに室戸岬まであと10km。ゴールがさらに現実のものになってきました。

 

 

 室戸市の中心部、浮津の交差点までやって来ました。ここで右に折れて、室戸岬まではあと5, 6kmです。

 気持ちがさらにはやるところですが、近くのコンビニでいったんホットドリンクを調達、先程買ったパンを少し流し込みます。キラメッセから1時間半以上歩いているだけに、ここでいったん補給を入れておかないと、ゴール手前でガス欠になりかねません。

 ただ、補給が終われば、ここからは道なり。岬まで一気に、脇目も振らずに歩きます。夜中に倒壊アパート見るの怖いし

 集落を抜けて、岬へのラストスパート(歩きだけど)。木々が生い茂る暗い夜道の向こうに、カーブを示す大きな警戒標識が見えました。あのカーブを曲がれば、そこが室戸岬です。ついにここまで来たのです!

 

 

 そして最後のカーブを曲がり、ついに室戸岬へ!まず出迎えてくれたのは風見鯨の像でした。

 

 

 そして岬のシンボル、中岡慎太郎像。ゴール地点はすぐ近くです。

 

 

 像の向かい側、岬の先端に向かう遊歩道が電飾で飾られています。これが約90kmの旅を終える者へのヴィクトリーロードです。

 

 

 派手に飾られた高知大学の幟。この先を下って、空手道部員の待つゴール地点に到着!高知大学朝倉キャンパスから室戸岬まで、本当に自分の脚でたどり着いてしまいました!

 ゴールしてみると、着順はなんと5番目。確か私の前には6, 7人はいたはずなのですが、どこかで抜いたのかも知れません。

 5位ですよ5位。五指に入っちゃいましたよ。モンゴルの競馬なら馬乳酒をかけて祝福される順位です。

 確かに今年は一般参加がないのですが、今年版の高知大学概要によれば弊学の常勤教職員は1839人、学部生数は4904人、大学院生数は175人。つまり約7000人に参加する資格があったわけで、その中の5位ともいえるのです。しかも、私の1つ後にゴールした人が学生トップだそうで、学生全員に勝っちゃったみたいです。

 それにしても、小学校から高校まで体育で酷い成績しか取れなかった落ちこぼれの私がこんな大会に出て、いきなりこの結果です。体育がいくら苦手でも、スポーツまで嫌いにならないで済んで本当に良かった、と心から思います。

 

 

 バスの時間は7時、その前の6時44分が日の出の時間だそうです。ゴールした途端に足がまるで動かなくなりましたが、夜通し歩いて日の出を見る機会なんてそうそうないので、何とか歩いて日の出を見に行くことにしました。

 

 

 岬の東側から空が白んできました。

 

 

 振り返れば、岬の大地がはっきり見えるようになりました。一晩を通して海を照らし続けた岬の灯台も、灯を落としています。

 

 

 昨日とは変わり、今朝は雲の多い天気。

 

 

 それでも水平線はところどころ顔を出しています。そのどこからか、太陽が昇ってくるのでしょうか。

 

 

 空が茜色に輝きを増してきました。


 

 空を覆う雲の合間を縫って、今日の太陽が姿を現そうとしています。

 

 

 そしてついに日の出。大地の誕生や隆起、変動の歴史が刻まれた室戸岬に来てみると、「地球の上に朝が来る」という言葉が別の説得力を持って迫ってきます。

 

 

 朝日の近くには、外洋を進む船の姿が。

 

 

 真冬になると、昇る太陽が海面に映る「だるま朝日」が見えるといいますが、まだその時期ではなさそうです。

 

 

 夜通しの歩きが終わったこともあり、これでようやく昨日が終わり、今日一日が始まる感覚です。

 

 

 さぁ、ここからバスがくる岬の停留所まで歩かないといけません。90kmぐらい歩けたはずなのに、これほどの近いのが本当にこたえます。

 

 

 それでも停留所まで来ました。明るいところで見てみると、ゴールはこんな風になっていたのですね。

 

 

 そして午前7時、帰りの第1便のバスがやって来ました。

 帰りはほとんどが室戸貫歩のコースを逆走する形になります。なので、まだゴールを目指して歩いている途中の人たちともすれ違います。それで別に勝ち誇る気持ちも湧いてこないのですが、自分はもう歩かなくても良いのだ、という安堵はあります。

 とはいえ、バスがうちまで連れて帰ってくれるわけではありません。最寄りの降車場所ははりまや橋の電停近く、そこからは電車と歩きです。既に緊張感もすっかり解け、脚には疲れがどっと来ています。まさかのためにと持ってきた杖を頼りに、何とか帰宅して、これで本当にゴールインです。

 

 

 ゴール地点で発行してもらった貫歩認定証。前日朝9時にスタートして、19時間51分での貫歩となりました。

 そして気づいたのですが、夜通し歩いたということは完全に徹夜したということです。って考えてみれば当たり前なのですが、いわゆる「徹夜」のイメージとはかけ離れていたので、頭の中でなかなかつながらなかったのです。

 ただ、30代になるぐらいの頃にはもう完徹はできない、どこかで寝たいともたないと思っていたのが、思わぬ形で10数年ぶりの完徹です。人間何事もやってみるもんですね。

 

 4年ぶりの開催となった室戸貫歩。しかし大学という組織で、しかも学生主導ともなれば、4年前までの蓄積は無に等しくなります。

 そんな中、何とか伝統を復活させようと奔走した空手道部や職員の皆さんにはただただ感謝です。ゴール地点でも交代で仮眠をとりつつ、いつ来るかもわからない参加者を寒さの中で待っていたのですから、本当に敬服です。

 一方で、こうして行事が復活したとなれば、一般参加の再開を望む方もおられることでしょう。ただ、話を聞くと空手道部は部員不足で苦労しているようで、現状で一般の参加者まで受け入れられる態勢が敷けるかと言われると、正直かなり疑問です。

 それだけに、一般参加の復活を希望される方は、まずは空手道部員が集まることを願っていただけると良いのではと思う次第です。

 ともあれ、思いもよらぬ好成績で無事ゴールできた今回の室戸貫歩。疲労と脚の痛みと引き換えの達成感と充実感を味わっていると、

 

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 こんなん勝てるかー