魚梁瀬森林鉄道、馬路森林鉄道に乗車し、馬路村内で残るはインクラインのみです。当然、乗らないなんてあり得ません。
インクラインは、急な坂を越えて貨物や船を運ぶために、斜面に軌道を設け、軌道上で貨物や船を載せた台車を走らせる仕組みのことを言います。
ケーブルカーの一種とも言えますが、ともすれば観光用や旅客用のイメージがあるケーブルカーに対し、インクラインと言えば貨物・船など運搬用のものを指す印象があります。そう考えると、「インクラインに乗れる」というのが増して貴重な体験に思えてきます。
さらに、現在の多くのケーブルカーが地上に設けられた巻き上げ機によって動くのに対し、車両と錘(おもり)を結び付けてつるべ式に動かします。これは、かつての森林鉄道が木材を載せた台車どうしを上げ下げしていた方法と同じです。
なので、案内板にあるように、このインクラインでは車両の方に動力がある、少なくとも外部動力がないことになります。ただし、動かしているのはあくまで重力で、自前のエンジンやモーターがついているわけではないので、これを動力と言えるかどうかは難しい気もしますが……
とここまで読んできて、どればぁきつい坂なのかと思われた方、先程の案内板を拡大して見てみましょう。
結構な勾配ですね。木材を載せる2両の台車が互い違いに上下するのですが、すれ違うところだけはレールが2本ずつ、あとは真ん中のレールを1本だけにして、共有するようにしています。
そして、現在あるインクラインがどんなものかと言うと、
これ、これを登るんです!
ちなみに、傾斜は最大で35度あるのだそうです。
だとすると、最大勾配はどうなるかというと、ええと……とにかく凄いパーミル!
インクラインを下から見ると、こんな感じ。これを重力だけで上り下りするんですよね……
インクラインの車両は窓のない開放式。前面にはご覧の通り、トレードマークとともに、エコー・パワーのフレーズが記されています。
そういや東北新幹線にやまびこ号がありましたが、こちらもこちらでやまびこ号。高知には東西に新幹線が走っています。
客車に乗り込んでみました。
文字通り、想像の斜め上を行く視界です。
先程も書いた通り、一般的なケーブルカーは巻き上げ機を使うので、車両の制御は地上で行います。なので乗組員は運転を行わないため、運転士っぽく見えてもそうではありません。
ただ、このインクラインでは必要に応じて車両側でブレーキをかける、つまり制御は車両側で行うことになるとのこと。なので、乗り込んでいるのは運転士さんになります。
車両からの排水溝がパイプにつながっています。インクラインが上昇する時は、錘よりも軽くないといけないですし、逆に下降する時は錘よりも重い必要があります。
なので、インクラインが上昇した時に水を積んで重みを増して、下まで下がったら今度は水を抜いて軽くするのです。
インクラインがゆっくりと動き始めました。真下に馬路温泉の建物が見えます。駅自体が温泉よりも少し上にあるためですが、これが少しなんてものではなく上になっていくのです。
さらにゆっくりと上がっていきます。普段エレベーターで数えきれないほどの垂直移動を経験してきたはずなのですが、それよりも上昇感があるのはなぜなんでしょうか。
頂上、もとい終点が近づいてきました。車上でブレーキを操作するので、駅までの距離が車両から見えるように示されています。
駅について、ホームに降り立ちました。
展望台にはかつての村の風景写真が掲げられています。今よりも人口が3倍以上あったころの写真です。
こちらからは村の中心部を一望しています。写真は2010年、気がつけば11年も前のものです。気がつくんじゃなかった。
現在の馬路集落。集落を囲む山林の向こうがどれだけ見えるものか、次は晴れた日に来てみたいものです。
頂上にはタンクがあります。水の重みで下降するインクラインの大事な動力源です。
タンクからのパイプが車両まで続いています。これで降りる時の水を補給するわけですね。
勢いよく水が流れ込んでいます。ただブレーキもかかっているので、いきなり動き出すことはありません。
そろそろ帰りの時間となりました。帰りですから降りるわけです。って、これを降りるんですよね……
昔はこのぐらいの勾配を、木材を山積みに積んだ台車が上り下りしていたんでしょうか。そう思うと、見てみたかったやら恐ろしいやら。
ともあれ、乗り込んだ客車はスルリスルリと急坂を降りていき、気がつけば地上に戻りました。この様子はいろいろな動画が上がっていますが、高所恐怖症の方もいると思うので、気になる方は検索してみてください。
これで馬路村の鉄道は全て乗りつぶし。目標を達成したところで、馬路温泉で昼食と温泉を楽しむことにします。
馬路温泉のレストランは、定食も丼ものもユズや川の幸を活かしたものばかり。なので相当考えましたが、今回はアメゴ丼にしました。全身を揚げていて、まるっと食べてしまえるのです。
まだ冷やい中を歩き回ったのを、温泉にも漬かって体を温めた後は、帰りに集落の端にあるお土産物屋さんに立ち寄ります。
店内のベンチに地元のおばちゃんが座っていました。うん、間違ったこと言ってないよね。
さてこのお店、商品はもちろんなのですが、もうひとつ外せない理由があります。とりわけ森林鉄道が気になるなら、です。
商店のバルコニーから川の向こう岸を見ると、森林鉄道の遺構が残っているのです。
廃線から半世紀を経て、流石に橋梁は頼りなげになっていますが、トンネルの辺りなど、今でも小さな列車が出てきそうな感じがあります。
幾多の材木と人々が行き来した栄華の時代と共に去っていった魚梁瀬森林鉄道。
その伝え手が、今日も集落を訪れる人々を見守っています。
今回の戦利品。龍馬パスポートの特典で、木の乗車券をもらいました。あらためて、体験乗車だけではなくて、運転までできた充実感に浸っています。
なお、魚梁瀬森林鉄道、馬路森林鉄道については、下記エントリをご一読ください。