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地域系学部というのに加わった大学教員による高知発モンゴル発のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

ウランバートルのアルド・キノー・テアトル(人民映画館)、取り壊し始まるも即ストップ

 

 ウランバートル社会主義時代に建設された元映画館、「アルド」キノー・テアトル(「人民」映画館)の取り壊しが始まったという突然の知らせ。そして同日中に首都政庁から工事中止のお達し。このスピード感。

 

 

 モンゴルの首都ウランバートル社会主義時代、第2次世界大戦後に建設が始まりました。近年の経済成長で高層ビルが乱立するようになりましたが、中心部には政府宮殿(政府庁舎)をはじめ、社会主義時代の建造物が今も残っています。

 そして、それらの中には、社会主義時代が終わって30年経った今も、昔の名前で呼ばれているものもあります。民間のショッピングセンターになって久しいはずの大規模店舗が、今も「国営百貨店」と言われるのは有名な例です。もっとも、こちらはいまだに昔からの看板を掲げているわけですが。

 その一つが、アルド・キノー・テアトル、日本語では人民映画館と言われる建物です。映画館から銀行の支店になって久しいながら、最寄りのバス停含め、いかにも社会主義な名前で、今も親しまれています。ときに「テアトル」が略されることもあります。

 ところが、そのアルド・キノー・テアトルの取り壊しが始まったという話が昨日飛び込んできました。モンゴルの大手紙、ウドゥリーン・ソニンが「『アルド・キノー・テアトル』が壊され始めている」というツイートを投稿したのです。

 

 

 アルド・キノーの正面玄関が壊され、これからさらに解体を行うべく重機が準備している……往時を知る人なら誰もが衝撃を受けるであろう光景です。

 かくいう私も、この辺りは20年以上前から歩き回ったところです。あまりにもショックですし、信じたくない気持ちでいっぱいです。

 ただ、それでも事実かどうかは確認しないといけない。さらに調べると、こんなニュースサイトの記事がありました。 

 

news.zindaa.mn

 

 以下、本文の日本語訳です。

未明から「アルド」キノー・テアトルの取り壊し作業が始まった。この映画館は1996年に経営の民営化により個人による管理に移行し、これまでに建造物には警備保護部局、旅行者用施設、銀行、ダンストレーニングセンター、質屋、コピー店、写真店、公証人役場等のサービス組織が業務を行ってきた。なお、2014年に公正競争・消費者庁*1が経営契約により私有化された国有財産に対し監査を行い、この映画館の民営化が一部法規に違反していたとみている。

 

 この取り壊しはモンゴルで予想外で、衝撃を受けた人々も少なからずいるようです。先程のツイートに対しては、取り壊しに対して反対、抗議のリアクションが見られます。例を挙げると、

 

 

「父さん母さんの思い出を壊してしまっているのよ」

 

 

「アルド・キノー・テアトルの建物はウランバートル市の歴史・文化的な記念物ではないのか?文化・歴史上貴重な建築物は保存保護すべきだろうが。この建物の価値を評価して公式な地位を与え、補修して保護しないといけなかったのだ」

 

 さらには、取り壊し工事の危険性を指摘する声も上がっています。

 

 

 「建物の取り壊しの安全用の一時的な柵や、人々が行き来する出入口も何もない。専門監査庁*2はみんなナーダムでいなくなった」

 

 これらの批判がウランバートルっ子の中でどのぐらい代表的なものかは分かりません。今のところ、取り壊しを擁護する意見は見ていませんが、これも見ていないというだけです。

 ただ確実に言えるのは、取り壊しに対して私は何も手出しができないということです。映画鑑賞に行ったことはないのですが、アルド・キノー・テアトルはウランバートルにいて毎日当たり前のように見ていましたし、後に銀行の支店が入ってからは、外貨両替に訪れたこともままあります。

 それだけに、私のウランバートルの光景や思い出が、何の前触れもなく奪われたという思いは拭えません。しかもこの2年間、パンデミックでモンゴルに行けなかったのです。

 事前に分かって、かつモンゴルに行けていれば、見納めもできただろうに。そう思うと、ただただ悲しいです。

 

 ……と思っていたら、その日のうちに中止の報道が入ってきました。モンゴルの有力なニュースサイトの一つ、ikon.mnによる報道です。

 

ikon.mn

 

 以下、全文訳です。

 

 

アルド・キノー・テアトルの建物の取り壊しが始まった。

 

この件について首都専門監査局*3から「党外の建物の取り壊しについて公式許可は出ていない。首都専門監察局から建物の利用及び衛生に関する結論が出ている。これは建物の取り壊しの許可ではない。

 

(訳注:取り壊しは)建設法に違反している。このため建物取り壊し作業を何らかの決定が出るまで中止し、取り壊しが始まった建物に人が入って負傷する危険があるため柵を立てる。監査作業を継続する」との通知が出されている。

 

この映画館はモンゴル初の映画館で、1930年代に建設された。一方、現在のこの建物は1965年に建設された。

 

本映画館は1996年に経営民営化で個人管理に移転されている。

 

 ひとまずはホッとしましたが、取り壊しの可能性はまだ残っています。取り壊しが無くなったとしても、破壊された正面玄関を再建しなければなりません。まだまだ不安は続きます。

 

 ふと気になって、自分で撮ったアルド・キノー・テアトルの写真を探してみました。トップで示したのは2018年の写真です。入居するハス銀行が看板と宣伝の幕を掲げています。

 

 

 こちらは正真正銘の映画館だった1998年の写真。「映画会社・アルド」という社会主義時代にデザインされたサインが屋根に乗っています。映画会社と言うのはあくまで直訳で、制作会社ではないです。それにしても、今の歩行者や自動車の数を考えれば、昼間なのに長閑なものです。

 

 

 そしてこちらは2013年の写真。1990年代にはほとんど止まっていた噴水が復活しています。この付近には外貨両替所やレストランが並ぶようになっていて、かなり賑わっています。ただ、アルド・キノー・テアトルの正面は宣伝だらけになっていて、特徴的なデザインがすっかり隠れているのが残念です。

 

 

 玄関にあったATMの看板。試しに使ってみたら、ちゃんと10,000tgが出てきました。当時のレートで言えば500円ぐらいだったでしょうか。

*1:モンゴルの省庁の一つで、日本の公正取引委員会に相当する。

*2:安全基準等の監査・指導を行うモンゴルの政府機関。

*3:首都政府の安全監査・指導機関。