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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

「ハルハ河/ノモンハン」から80年のモンゴルへ(2)ウランバートル中心街を歩く

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 今回も日程が短いので、ウランバートルから外に出ることはほとんどありません。その代わり、仕事の合間を見て市内を歩き回ることにします。

 

 

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 朝7時前のウランバートル。滞在経験のある方なら場所特定はとてもカンタンでしょう。今はまだ静かですが、1時間もしないうちに大渋滞と喧騒に包まれます。

 

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 朝ご飯。通な人なら、これだけ見て滞在先を特定可能だと思います。ここの朝食はタラグ(モンゴル風ヨーグルト)があるので気に入っています。

 

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 滞在先の部屋にあったテレビのチャンネルガイド。ウランバートルはメディアが非常に発達していて、ここでテレビチャンネルを数えただけでも50は超えます。さらにケーブルテレビに加入していれば、世界各国の国際放送を見ることもできます。言葉の問題はありますが、情報量と多様性においては、日本のテレビ事情はウランバートルの足元にも及ばない気がします。

 

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 朝ご飯を食べて出発。まず前を通るのは、与党人民党の本部です。

 

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 看板が出ているので何かと思ったら、党の青年組織の大会があるようです。

 

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 隣は国立オペラ・バレエ劇場。知らない間にこんなロゴができていました。忘れてただけかも知れませんが。

 

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 演目が出ていますが、これが今年6月のもの。モンゴルは基本7, 8月は休暇の時期なので、公演自体がないのかも知れません。

 

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 と思ったら、建物の傍らで看板が放ったらかしになっていました。「ウランバートルの秋」というので、モンゴルを代表するグループ、カメルトンとニキトンが登場するようです。なので今後掲示するのかも知れませんが、だとしたらこの扱いは、ちょっと。

 

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 ちなみに、正面には国際ジャズフェスティバルの案内が大きく出ていました。モンゴル以外だとキューバラオス、ロシア、ポーランド、スイスのミュージシャンが参加するようです。

 なんかいろいろジャズのイメージと違い過ぎて興味が湧きますね。ただ、旧東側でもジャズは結構演奏されてきた経緯があります。

 


VIO-66 - S/T (FULL ALBUM, soviet easy listening / jazz, 1969, Russia, USSR)

 

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 スフバータル広場にやって来ました。去年は改修中で足場が組まれていたのですが、今年は工事もなく、政府宮殿やチンギス・ハーン像を遮るものはありません。

 

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 こちらも去年は建設中でしたが、今年見ると既に完成。モンゴルのカシミアブランドの老舗、ゴビ社の店舗兼事務所のようです。

 ゴビ社は社会主義時代に建設されたゴビコンビナートを祖とする企業です。この工場は日本とモンゴルが国交を樹立した際、日本の無償資金協力で建てられたものです。もっとも、形式上は援助ですが、実質上はモンゴルがハルハ河戦争(ノモンハン事件)の戦時賠償請求を放棄する見返りと言えるものです*1

 

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 チンギス・ハーン像の反対側にはステージができていました。上部には戦勝記念を全面に押し出したパネル、社会主義時代を髣髴とさせる赤い星を背景とする紋章に、左下にはモンゴルの国旗に描かれている「ソヨンボ」、右下にはソヴィエトの象徴たる鎌とハンマーをネルが押し出されています。

 9月になればハルハ河戦争勝利80周年、このステージで、これから記念行事が目白押しです。

 

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 よく見ると、一番下には今のモンゴルとロシアの国旗がデザインされています。80年前の戦争が、今に続く歴史になっていることを実感します。数日後にはプーチン・ロシア大統領も来訪する予定で、単なる戦勝記念を超えて、ロシア・モンゴルの伝統的友好関係を確認する機会になっているようには思えます。

 さて、そろそろ昼食時です。食べられる時にモンゴルの料理を食べるのは、私にとっては当然のこと。一人でふらっと食べに行くのですから、その辺の食堂を探して入ることにします。

 

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 そういうわけで食堂へ。よく考えたら去年も入った記憶があります。すぐそばの別の店に行くのも考えたのですが、値段が少し高い、いや少しは少しなのですが、ホーショール(揚げ餃子みたいなの)1枚1000トゥグルグというのに衝撃を受けて腰が引けてしまいました。おじさんが若い頃は、1枚80トゥグルグとか90トゥグルグなんて店もあったのに……

 ちなみに、現行の為替レートで言えば、だいたい25トゥグルグが1円。ホーショール1枚が40円の計算です。一方、当時の為替レートが正確には分からないのですが、さっき書いた昔の値段だと、1枚10円もしないでしょう。

 それだけウランバートルの物価水準が上がったわけですが、この間モンゴルは高度成長を経験していて、所得水準も一応は上がっているわけです。一方その頃日本は(強制終了

 

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 少し待ちましたが、料理が出てきました。左がツォイワン(焼きうどん)、右がマントー・ボーズ(肉まん)です。ちょっと量が多いかなと思いましたが、せっかくなので完食。

 

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 腹ごなしのため、資料収集先まで歩きます。

 こちらは中央郵便局横にあるモンゴルの老舗通信社モンツァメの写真ボード。ハルハ河戦争記念一辺倒かと思いきや、意外にもまったくなし。左側は先日モンゴル代表が優勝した国際騎馬兵コンテスト、中央はトナカイ2000頭の祭典、右側はエスパー米国防長官のモンゴル訪問、それぞれハルハ河とは無関係の写真でした。

 

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 少し歩いて道の反対側にはロシア大使館があります。道路側には看板が立っていて、ロシアオペラ・バレエ公演の宣伝を左右に挟み、中央にハルハ河戦争80周年記念を謳うボードが出ています。先程の写真パネルと合わせると、どうにも意味深長な気もします。

 それにしても不思議なのは、ハルハ河戦争で停戦合意がなされたのは1939年9月なのに、記念のシンボルには1939年8月と書いてあることです。先程もそうでした。モンゴル・ソ連軍が満州国・日本軍を潰走させたのは8月なのですが、それにしても普通は国際法上戦争が終結した時を記念するものですし、不思議です。

 もっとも、日本も国際法上意味があるとはとても思えない(かつ沖縄や樺太・旧満州では実質的な意味すら怪しい)8月15日を「終戦」記念日としているので、偉そうなことは言えないのですが。

 

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 さて、ウランバートル市内を歩き回るもう一つの理由は、渋滞に巻き込まれるのが嫌だからです。ウランバートルは日本のような市内・近郊の電車や記者がなく、自家用車が増える一方。レンタサイクルもまだ定着には程遠いので、渋滞を避けたければ歩くしかありません。幸い、中心街に宿を取れば、研究絡みで訪問するような所なら大抵歩いて行けるので、渋滞を横目に市内を歩くのが、滞在中の私の行動パターンになっています。

 ただ、政府も市も、必ずしも渋滞を放置しているわけではありません。市内各地で道路を建設、拡充していますし、今年からは交差点の混乱を避けるため、主要交差点に網目状の塗装を施し、前が使えているときは進入しないよう呼びかけています(ただし、この交差点に関しては以前から塗装があったようです)。

 で、効き目はご覧の通り。信号が青なら交差点の先などお構いなしに入ってくる車は後を絶ちませんが、4方向から車が突っ込んで交差点があふれかえるということはありません。これを効果ありとみるか、無しとみるかは人それぞれです。

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 交差点と言えば、今までは歩行者用だけだった信号の残り時間表示が、自動車用にも取り付けられるようになりました。ただ、まだ数が少ないようなので、これが他にも広がるかどうかは注目されます。

 

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  旧国営百貨店向かいの遊歩道に来ました。以前来た時は工事中だったのですが、その工事に関してひともんちゃくあったので、その後が気になっていたのでした。 

 

www.3710920.com

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 はたして、渦中にあったビートルズのモニュメントは、そのまま残っていました。

 

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 ウランバートル団地の階段でギターを弾く青年の像。

 前も書きましたが、ソ連・東欧諸国で西側音楽が聴けなかったという話は誤りか、控えめに言って誇張です。確かに制限はあったでしょうし、計画経済体制の下では、政治上の問題以前にレコードの輸入が困難だったわけですが、実際には西側音楽が合法または非合法な形で流入していたのです。

 

ovo.kyodo.co.jp

 

 そのような音楽のうち、どのぐらいがソヴィエトを横断してモンゴル人民共和国まで来たかは分かりません。ただ、当時外国留学に出た若者なら、留学先でそのような音楽に触れる機会はあったはずです。

 そんな若者がモンゴルに戻り、微かに触れた新しい音楽を懐かしむ……もちろん想像ですが、的外れなものではないと思っています。

 

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 反対側にはビートルたちのレリーフがちゃんと残っていました。まずは一件落着というのが分かって良かったのですが、大騒ぎになった駐車場も地下道もできたようには見えず、単に通りを補修しただけじゃないかという気もします。大山鳴動して鼠一匹を地で行く展開です。

 ちなみに、モンゴルではありませんが、エストニアでリリースされたカバー・バージョンなんてのもあります。よろしければご参考まで。

 


Collage "See on nii" (Let It Be cover) 1972

 

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 モンゴル大手百貨店ノミン・デパートの旗艦店、旧国営百貨店です。何度書いてもへんな感じですが、「国営百貨店」の看板を下ろさないんですからどうしようもありません。

 

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 中に入ると大きな広告。抽選で20名を東京オリンピック観戦券が当たるキャンペーンだそうで、55,555トゥグルク(2200円程度)お買い上げごとに抽選権が1つとのことです。

 東京オリンピック開催前の現況を知る者としては鼻白む限りですが、当選したとして、日本のビザはそう簡単に取れないはずです。どうするんでしょうね(他人事

 

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 また外に出て歩いていると、アパートの壁にeスポーツセンターという看板を見つけました。モンゴルのeスポーツ事情はまるで分からないのですが、「チームスポーツは苦手なんだよね」というモンゴル人の話は以前にも聞いたことがありますし、大丈夫かなぁ……と勝手に心配してしまいます。

 

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 今度は日本センターというのを見つけました。技能実習制度に加えて「特定技能」による日本行きが可能となった今、日本語学習の需要も少しは増えているのでしょう。

 

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 それにしても、日本どころかあまりにもピンポイントな看板です。

 いや、ぐんまちゃん好きなんですけどね。

 

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 国内外を問わず、夕食は地場のスーパーや商店で調達するのが私の旅のスタイル。地元の日常のものを手軽に味わいたいんですよね。

 今回は一本単位で切り売りされるソーセージ(前後がつながっていて、必要な本数をハサミで切り取ります)、昔ながらの(?)ニンジンサラダに、ウランバートルのビール2本です。もう少しいろいろ買っても良かったのですが、日本と違って一人用のお惣菜がなかなかないので、食べ過ぎに注意しようとするとこうなります。

 

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 滞在中の友として、アルヒ(ウォッカ)を1本購入。3日間で1本(750ml)は多いかなと一瞬思ったのですが、少な過ぎて悲しい思いをするよりは、多少多いぐらいの方がはるかにマシです。ってか、多かろうが絶対呑み切りますし(笑)

 

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*1:この間の経緯はTs.バトバヤル著、芦村京・田中克彦訳[2002]『モンゴル現代史』明石書店を参照。

モンゴル現代史

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