またも米朝首脳会談を行うとの話が湧いて出ました。モンゴルクラスタとして、今度こそウランバートル開催があるかと色めき立ちたいところですが、現実には難しいと思われます。その理由とは。
6月12日にシンガポールで行われたトランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との会談が、またも開催されるという話が出てきました。しかも、今回はシンガポール以外になるとのことです。
報道を見る限り、2回目の米朝首脳会談の実現可能性は十分あるように見えます。そしてシンガポールで行われることはなさそう、となれば、前回惜しくも選ばれなかったウランバートルでの開催が今度こそ実現するかも知れない、そんな思いが浮かんでも不思議はありません。
ただ、いくつかの理由から、ウランバートルでの会談の可能性は低いと見ています。むしろ、前回よりも今回の方が実現は難しい、というのが私の見立てです。なぜか?
第1に、ウランバートルの気候の問題があります。モンゴルのニュースサイトで気象情報を見ると、明後日9月27日(木)から雪が降るようで、金曜日と土曜日は夜の気温が氷点下。前回の6月は非常に快適な季節でしたが、これから秋が深まるにつれて、気温も下がれば雪も降って氷も張るなど、気候は厳しくなる一方です。
ただ、寒いだけならアメリカにも北朝鮮にも、モンゴルほどではないにせよ、寒冷地はいくらでもあります。ですが、ウランバートルでの寒さは単純に気温の問題ではありません。ここで第2の理由が出てきます。秋・冬・春にかけての大気汚染です。
ウランバートルでは零下30度、場合によっては40度の冬を越せるだけの暖房が必要です。都市中心部こそ集中暖房システムが供給されていますが、それ以外では自分で暖房を用意しないといけません。ところが、そこで燃料として使われるのは主に石炭。ただでさえ煤煙が出る上に、炭質は良いわけではなく、さらにウランバートルは盆地で排気ガスがたまりやすくなっています。ただでさえ自動車の排気ガスが多い上にこの煤煙で、冬場のウランバートルは北京をも上回るほどの大気汚染に覆われます。そのため、日本をはじめ先進国が援助に乗り出したり、深夜電力の代金をゼロにして電機による暖房の利用を促してはいますが、今のところ有効な対策は、春になることぐらいです。
(参考) プロジェクト概要 | ウランバートル市大気汚染対策能力強化プロジェクトフェーズ2 | 技術協力プロジェクト | 事業・プロジェクト - JICA
既に9月末、先程述べたような寒さです。既に暖房を始めたところも多いことでしょう。そして暖房利用はこれからさらに増え、空気はますます汚く、健康に響くようになります。そんな中、モンゴル人相手ならまだしも、第三国同士の首脳会談をわざわざ行おうという人がはたしているでしょうか。今回の会談はトランプ米大統領の中間選挙対策の要素が多分に多いでしょうし、そうなると選挙当日までに行われることになるでしょうが、10月時点でも寒いのは寒いですし、空気が悪いところは悪いです。
さらに第三の理由として、言い出しっぺがいない、ということも挙げられます。前回ウランバートルでの米朝首脳会談開催がうわさされたそもそものきっかけは、エルベグドルジ前大統領がトランプ米大統領にツイッターの@ツイートで提案したことでした。ところが、今回は会談の提案どころか、先月から本エントリ執筆時点まで、ツイート自体が止まっている状況です。つまりは誰もイニシアティブを取る人がいない状況で、モンゴル側に米朝首脳会談開催の意思がそもそもあるかが怪しいところです。
そう考えると、第2回米朝首脳会談のウランバートル開催は、前回よりもハードルが上がったと言わざるを得ません。だからと言って他の候補地が簡単に見つかるわけではありませんが、シンガポール開催も完全に消えたわけではありませんし、ソウル開催だってあり得ます。先の南北首脳会談の中身からすれば、金正恩委員長がいずれソウルを訪れることになりますし、それに合わせて米朝間でも首脳会談を行うアイディアも、あながち的外れとは言えないでしょう。
とはいえ、ウランバートル開催の可能性がゼロとは言いません。というのも、「ハードルが高い」「現実には難しい」と言うと、それがフラグになってしまう可能性があるからです。モンゴルに関する見通しは、得てしてよく分からない理由で外れます。という話はまったく合理的な説明にはなりませんが、ことはモンゴルなのです。
そんなわけで、2回目の米朝首脳会談がウランバートルで開催される可能性は非常に低いです。ただ、そういった途端にウランバートル開催が発表されるというオチになっても、驚かない自信が私にはあります。