史上初めての米朝首脳会談がシンガポールで開催。一方その頃、開催地になり損ねたウランバートルはというと……
史上初めてとなる米朝首脳会談がシンガポールで行われました。会談の評価は専門家に委ねますが、目立ったトラブルもなく終了したことだけは確かでしょう。
もっとも、以前からお伝えしてきた通り、この会談は一時ウランバートルでの開催が有力視されていました。この辺の経緯を繰り返すのは煩雑なので、以前のエントリをお読みいただければと思います。
というわけで、昨日のウランバートルは米朝首脳会談なしの1日を過ごすことになりました。モンゴルにとっては残念な日だった、かと思いきや、存外にそうでもなさそうです。
まず、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のJ.メンデー氏がこの件について、ブログ上で論考をアップしています。
■ The UB Dialogue in 2025 | Mongolia Focus
氏は、米朝首脳会談が行われなかったことにより、会談開催にかかる費用負担や軍・警察への保安面での負担が生じず、道路封鎖や交通渋滞の悪化も回避できたことから、モンゴル政府関係者、安全保障担当者、ウランバートル市民はむしろ安堵したぐらいだろうと述べています。加えて、直近で開催予定の「ウランバートル対話イニシアチブ」が中止にならずに済んだことも評価しています(ウランバートル対話イニシアチブについては後述)。
言われてみれば、その通りだろうなぁという気は私もします。氏の主張ともかぶりますが、今回の件でモンゴルはキナ臭い北東アジアの中で唯一の中立地、かつどの国に対しても友好的なアクターとしての認識を勝ち得つつ、米朝首脳会談開催の負担は免れたのです。最小の負担で十分過ぎるメリットを得たわけですから、結果論という面があるにせよ、モンゴルとしては外交上の勝利といえるでしょう。
もっとも、現実問題として、2018年6月12日のウランバートルに、米朝首脳会談まで行う余力があったかどうかという疑問はあります。昨日の現地報道を見ると、現地では前日に開所した内陸開発途上国国際研究センターの開所記念会議が行われていて、国連事務次長や内陸国の外相クラスが参加しています。そればかりか、第8回持続可能な畜産部門に向けてのグローバル・アジェンダ年次大会も開催2日目、さらに「持続可能な開発目標達成に向けた議員の能力強化」アジア・太平洋議員会合も始まり、これらに出席すべく世界各国から国会議員団や畜産政策担当者らが集まっているのです(ただし、上記会議名の日本語訳は、定訳が見つからなかったので私個人によるものです)。ということは、モンゴルの政府首脳や閣僚、国会議長クラスは、各会議の参加者たる閣僚・議員・高官の訪問や会談を相次いで行っていかないといけないのです。
これらだけでも結構な負担なのに、さらに米朝首脳会談までどうやって開催するのか。いくらなんでも、ウランバートル郊外の草原で適当に、というわけにはいきませんし、保安部門はパンクしかねません。先程報道をみてようやく分かった、というのもどうかとは思いますが、そもそも開催に無理があった可能性は高いです。
さらに言えば、モンゴルにとっては先述の「ウランバートル対話イニシアチブ」を成功させる方が重要かも知れません。これは正式には「北東アジア安全保障に関する『ウランバートル対話イニシアチブ』」と言って、エルベグドルジ前大統領が2013年に提案、翌2014年から毎年行われている国際会議です。モンゴルにとっては自らが主宰して域内の安全保障問題を協議できる貴重な機会です。これまでのところ、学術会議としての面が強い印象はありますが、この機会を利用して日朝政府担当者が接触し、意見交換を行う例もあります。
また、今年の会合でも、日本政府が北朝鮮当局者との接触を図ろうとしています。決して無視できない機会なのです。
今年の「ウランバートル対話イニシアチブ」は今月14日と15日に開催予定。もし面でー氏がしてきするように、開催直前に米朝首脳会談が入り、こちらの会合は飛んでいたら、日本にとってはとばっちりもいいところでした。
それら諸々を考えてみると、米朝首脳会談がウランバートルで開催されなかったのは、むしろかえって良かったぐらいに思えてきます。そして、モンゴルにとって本番は明日から。いや、日本にとってもそうかも知れません。