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2016モンゴル国会総選挙一口メモ(7)モンゴルの政党4. 市民の意志・緑の党

 2016モンゴル国会総選挙一口メモ、今回は小政党ながら国会議員を輩出し続けている市民の意志・緑の党についてです。なお日本政府・外務省関連の文献では「国民勇気・緑の党」となっていますが、モンゴル語および英語訳から判断して、私は上述の日本語訳を当てることにしています。

 

 1. 市民の意志党とモンゴル緑の党が2012年に統合して成立

  この党は「市民の意志党」と「モンゴル緑の党」という2党が統合したものです。もともとの2つの党のうち、市民の意志党は2000年に民主化運動のリーダーを率いたゾリグ氏の妹オヨーン氏が設立、同年の選挙で旧人民革命党が76議席中72議席を獲得する中で、同氏が僅かな野党議員として生き残りました。その後、2004年と2008年の選挙でもオヨーン氏は当選、議席を確保し続けます。

 一方のモンゴル緑の党が設立されたのは民主化直後の1990年ですが、単独で国家大会議には一度も当選者を出したことはなく、2008年総選挙ではエンフバト党首が市民同盟の候補者として当選しています。その後、2011年にモンゴル緑の党エンフバト党首が市民の意志党との合併協定に署名したのですが、緑の党はこの案をめぐって賛否両論が噴出、反対派が一方的にエンフバヤル党首を解任すれば、一方の党合併に関する最高裁への届け出も却下されるなどの問題が生じました。結果として、2012年に合併賛成派が党を離脱して市民の意志党に合流、その上で党名を市民の意志・緑の党と変更する形で、ようやく統合が実現しています。

 

2. オヨーン共同党首の存在感大、2012年総選挙後に連立与党で一時閣僚就任

 市民の意志・緑の党にとって重要なのが、3人いる共同党首の1人オヨーン氏の存在です。民主化運動の主導者兄ゾリグ氏が無血での民主化を成功させながら、若くして非業の死を遂げた後に政党を設立、大政党と渡り合って現在まで議席を守り続けたのですから、モンゴルの主要な政治家の1人に数えられてもおかしくはないでしょう。政治家ランキングで上位に上がる例はあまり見かけませんし、党内でもあくまで3人いる共同党首の1人ですが、モンゴルの女性政治家と言えば、おそらく真っ先に名前が上がる人ではないでしょうか。

 2012年の総選挙でもオヨーン氏はデンベレル氏とともに当選しています。そして、市民の意志・緑の党民主党、「正義」同盟とともに連立政権を構築、オヨーン氏は新設された環境・グリーン開発省の大臣に就任しています。

 ただし、アルタンホヤグ首相の解任後に大連立が成立すると、同省は環境・グリーン開発・観光省に再編され、大臣の座も人民党に譲ることを余儀なくされます。後に人民党が政権を離脱した後も閣僚のポストは戻らず、市民の意志・緑の党は少数政党の悲哀を味わう形となりました。

 

3. 2016年総選挙への参加を巡って混乱

 目前に迫った2016年総選挙ですが、市民の意志・緑の党は正念場に立たされています。当初は民主党への合流を模索したものの党内の反対で実現せず、それから総選挙への参加の有無を巡って揺れた末、結局は単独での参加を決定します。ところが、選挙中央委員会への提出書類について不備を指摘され、いったん参加不承認の決定が下されます。後に裁判所からこの決定を無効とする判断を得たことで、市民の意志・緑の党はようやく選挙への参加が決まりましたが、一連の問題の間に、共同党首を務めていたデンベレル議員が民主党に移籍するなど、党のまとまりは崩れつつあります。

 何より驚きなのは、オヨーン氏は2016年総選挙に立候補しないと表明したことです。インタビューでは党の顔の一新、さらに民主党との協力による党勢拡大の期待を不出馬の理由として挙げています。民主党との統合を巡って混乱を招いた責任もある一方、自分が出なくても選挙協力さえできれば議席は獲得できるだろうということでしょう。ところが、不出馬表明後に民主党は全選挙区に候補者を立てたのです。当然ながら市民の意志・緑の党の立候補者とは競合するわけで、氏の期待は裏切られる形になったばかりか、党の最大の「顔」なしで、大政党と直接対決を強いられることになったのです。

 小政党ながら議席を守り続けてきた市民の意志・緑の党ですが、今年の総選挙で最大の危機に立たされています。

 2016モンゴル国会総選挙一口メモ、次回はここまで紹介した以外で、特に注目する勢力についてです。

 

 

3710920269.hatenablog.jp

  

 なお、今回以外のエントリを下に示しておきます。ご参考まで。

3710920269.hatenablog.jp

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※ 市民の意志・緑の党の歴史については、モンゴル最高裁判所市民の意志・緑の党およびモンゴル緑の党の政党登録、ならびに選挙中央委員会のウェブサイトを参照しました。この他詳しくは、『アジア動向年報』収録の拙稿「モンゴル」(特に2012、2013年版)をご一読ください。