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モンゴル2024年国会総選挙の選挙制度概要

 

 モンゴルで2024年に行われる国会総選挙では中選挙区完全連記制と比例代表制の並立による新たな選挙制度が用いられます。今回はこの制度について解説してみます。

 

 

 

1. はじめに

 2024年6月28日に投開票予定のモンゴルの第9次国会総選挙。今回から議席数に加えて選挙制度も改められ、中選挙区完全連記制に加えて比例代表制が12年ぶりに用いられます。今回のエントリでは、この選挙制度について解説してみようと思います。

 が、私自身は政治学が専門でもなんでもないですし、簡明さのために厳密な説明を省くことがあるのはご留意ください。

 というわけで、ここからいくつかポイントを示しながら説明していきます。

 

2. 全126議席中78議席が選挙区から、48議席比例代表制で選出

 再三お伝えしている通り、2023年の憲法改正によって国会の議席数は76から126にまで増加しました。このうち、2024年総選挙では78議席が選挙区から、48議席比例代表制で選出されます。全76議席が選挙区から選出された前回総選挙区から、比例代表で4割弱が選出される形に変わったのですが、なにげに選挙区からの選出数も2つ増えているのは見逃せません。

 

3.  選挙区では中選挙区完全連記制により議員選出

 78議席が争われる選挙区では、前回2020年に続いて中選挙区完全連記制が用いられます。この「中選挙区完全連記制」という制度は、1つの選挙区から複数の当選者を選出するものですが、有権者の票数が投票する選挙区の定数と同じになるのがポイントです。つまり、定数2の選挙区なら有権者の選挙区での票数は2、定数5なら票数も5になる、という形です。

 ただし、モンゴルの総選挙では、有権者は定数と等しい数の候補者に投票することが求められます。定数より多い場合はもちろん、少なくても無効票扱いされるのです*1。なので、「完全連記制」に分類されるのです。

 また、政党・同盟は定数ちょうどまでの候補者を擁立することが認めらえています*2。ということは、定数を上回る候補者の擁立は認められないので、どこぞのように1人を選出する選挙で何十人も候補を立てるなどはできないのです。

 この制度ではかつての日本の衆議院選挙であったような、同じ政党の候補による「同士討ち」は避けられます。有権者が複数の票を持っているので、支持する政党・同盟の候補全員に投票することが可能だからです。

 一方で、定数いっぱいの候補を立てた政党が議席を「総取り」することもできます。これが多くの選挙区で起きると、結果は単純小選挙区制に近づいていきます。つまり、最も多くの票を得た政党が、得票比率を大幅に上回る議席を占めることが可能になるのです。これはモンゴルの2020年総選挙で実際に起きたことで、人民党の地滑り的勝利の要因となりました。

 それだけに、今回も同じことが起きるのか、あるいは人民党以外の政党が「総取り」に成功したり、有権者が戦略的投票に出て議席が細分化されるのかが注目されます。

 

4. 各選挙区は前回から原則拡大、13選挙区に集約

 前回総選挙では一部を除いて県及び首都ウランバートルの地区がそれぞれ選挙区となっていましたが、今回はほとんどの選挙区で統合が行われました。その結果、今回の選挙区は13にまで集約されています。以下、ikon.mnのデータベースにより、今回の区割を示します。

 

第1選挙区:アルハンガイ県、ウブルハンガイ県、バヤンホンゴル県(定数9)

第2選挙区:ゴビ=アルタイ県、ザブハン県、ホブド県、オブス県(定数10)

第3選挙区:バヤン=ウルギー県(定数3)

第4選挙区:ボルガン県、フブスグル県、オルホン県(定数8)

第5選挙区:ダルハン=オール県、セレンゲ県、トゥブ県(定数10)

第6選挙区:ドルノド県、スフバータル県、ヘンティー県(定数7)

第7選挙区:ドルノゴビ県、ドンドゴビ県、ウムヌゴビ県(定数7)

第8選挙区:バヤンズルフ地区(定数5)

第9選挙区:バヤンゴル地区(定数3)

第10選挙区:スフバータル地区、チンゲルテイ地区(定数6)

第11選挙区:ソンギノハイルハン地区(定数5)

第12選挙区:ハン=オール地区(定数3)

第13選挙区:バガノール地区、バガハンガイ地区、ナライハ地区(定数2)

 

 モンゴルで唯一カザフ族が多数を占めるバヤン=ウルギー県からなる第3選挙区、もともと複数地区から構成されていた第10、13選挙区、首都中心部の第9、12選挙区は再編されていません。また第9、11選挙区は前回総選挙で同じ地区ながら二分されていたのが統合されています。

 選挙区の拡大再編は、これまで県ごとに議員を選出してきたことで、議員による自県への利益誘導が続いてきたとの見方に基づくものです。ただ、一般的に考えると、選挙区が拡大すれば資金力や動員力の小さい候補者には不利になるわけで、中小政党や無所属候補への影響が気になるところです。

 

5. 選挙区の定数は2~10とさまざま、一票の格差も残存

 先程の区割りでお気づきの通り、各選挙区の定数は最も少ないところで2、最も多いところでは10となっていて、最大5倍の開きがあります。前回総選挙では定数が2または3になるよう調整されていたのですが、選挙区拡大によりこの調整がなくなった形です。

 このように異なる定数なのですが、各選挙区の人口に比例しているかというと、必ずしもそうではありません。先程のデータベースによれば、選出議員当たりの人口は最も少ない第7選挙区で19405人となっている一方、最も多い第8選挙区では55073人と、3倍近い開きがあります。

 実はモンゴルの国会総選挙では、有権者数の比で見ると地方に比べて首都の議席配分が過少な状態がずーっと続いていました。今回の1票の格差も、日本なら違憲判断が出てもおかしくないレベルと言えるでしょう。

 ですが、これについて憲法裁判所に訴え出たという話は寡聞にして知りません。実はあるのかも知れませんが、だとしてもこの辺の背景はぜひ知りたいものです。

 

6. 比例代表は全国統一の拘束式候補者名簿を使用

 比例代表部分の説明に移りましょう。こちらは日本でもすっかりおなじみになった選挙制度で政党・同盟から提出された名簿から、各党・同盟の投票率に基づき当選者を決定する方法です。

 2024年総選挙では、比例代表制選挙は全国規模で行われます。候補者名簿は全国一律です。

 また、名簿は拘束式になります。有権者は政党・同盟から1つだけを選択して投票することになります。日本の参議院選挙のように、名簿の中から特定の候補者を選ぶことはできません。

 

7. 比例代表選挙には選挙区で全定数の半数以上の候補者を擁立した政党・同盟が参加可能

 これは前回エントリでも書いたことですが、比例代表選挙に参加が認められるのは、選挙区においてすべての定数の半数かそれを上回る人数の候補者を擁立した政党・同盟になります。

 2024年総選挙では選挙区で78人が選出されるため、選挙区に39人以上候補者を擁立することが条件となります*3。が、却下された候補者がいたせいか、実際には選挙区の候補者数が38人以下なのに、比例代表選挙に候補者がいる政党があるのは、前回エントリで見た通りです。

 

www.3710920.com

 

8. 比例代表全投票の4%以上を得た政党、5%ないし7%以上を得た同盟が議席獲得可能

 モンゴルの比例代表選挙にも阻止条項はあります。議席獲得のためには、政党は比例代表選挙での全投票の4%、2党による同盟の場合は同5%、3党以上による同盟の場合は同7%を得ることが、議席獲得の条件となります*4

 今回の総選挙に参加する国民同盟はモンゴル緑の党とモンゴル民族民主党、新統一同盟は伝統統一党と新党による同盟です。そのため、どちらも議席獲得には最低限5%の得票を得ることが必要です。

 

9. 議席配分には最大剰余法を適用

 比例代表選挙なので、先述の通り議席は各党・同盟の得票率に基づいて決まるのが原則です。ただし、それでも端数が生じるため、実際の議席配分方法はさまざまなものがあります。

 モンゴルでは「最大剰余法」または「最大剰余方式」と呼ばれる方法が用いられます*5。法の条文では具体的説明がないのですが、調べたところ、一定の得票数(たいていは全投票数を議席数で割ったもの)を割り当てとして決めた上で、各党・同盟の得票数と割り当ての商を計算し、その商に基づいて議席を配分、残った議席については商を算出した際の余り(剰余)が大きい順に配分していく、というものだそうです。

 

www.britannica.com

kotobank.jp

 

 なお、最大剰余法のさらなる詳細や他の方法と比べた際のメリット・デメリットについては、お近くの政治学の先生にお尋ねください。

 

10. 小括

 ここまでモンゴルの2024年国会総選挙で用いられる制度について見てきました。日本とは異なる点も結構あるので、興味深いところや不思議なところもいろいろあったのではないでしょうか。

 次回からは、総選挙に参加する主な政党・同盟について見て行ければと思います。もっとも、どこまでを「主な」とするかという問題はありますが……

 

 なお、今回の内容については『アジア動向年報2024』の拙稿モンゴル編もぜひご参照ください。

*1:モンゴル国会選挙に関する法(以下「国会選挙法」72.1.)

*2:国会選挙法30.4.

*3:国会選挙法74.3.4.

*4:国会選挙法74.2.2.、74.2.3.および74.2.4.

*5:国会選挙法74.3.4.