土佐白浜から岬の根元をショートカットして到着した有井川駅は、際限のない土佐の夏の日差しが何ものにも遮られずに降り注ぐ中にありました。
収穫を待つ稲穂に囲まれた中にある小さな棒線駅。その中程に、比較的新しそうな待合室が貼り付いています。
扉と窓以外、あらかたが木造の待合室。ベンチには小さな座布団が、ぽつりと置かれています。
そんな真昼の駅を通っていく窪川行の普通列車。僅かな時間に僅かな乗客を降ろすと、すぐに目的地へと去っていきます。
後に残ったのは、カーブしてすぐ山林に吸い込まれていく2本のレール。このあとしばらくはトンネルが続きます。
中村方面は山をくぐると、再び海辺のルートをたどり、また山をくぐって走りをしばらく繰り返していきます。
駅の北側、山や林が迫る僅かな土地を利用した一面の田畑。梅雨明けもまだこれからという時期に、本州なら秋ではないかというぐらいの黄金の光景です。
駅の南側は、小さな田畑や国道を隔てて、すぐ太平洋が広がります。
海沿いであるが故の宿命が津波の浸水予測。この付近の線形から、割合高い所にあるはずの駅ですが、津波の予想最大高にはまるで及びません。
駅を降りてみました。コンクリート造りの堅牢そうでかつ簡素な造りが、戦後できたローカル線の駅であることを物語ります。
国道への階段に差しかかると、地域の公共交通を応援する幟が出ていました。この幟が道路脇に立てられていること自体が、クルマ社会という現状を物語っている気もします。
傍らに時刻表が立てられています。それにしても、終列車が17時台というのが何度見ても不可思議です。
次から次へと車が行き交う国道56号。この先は岬を回る景色の良いドライブルートです。
駅までの自動車のルートを示す標識。これがなければ、ドライバーは鉄道の存在を認識できないかも知れません。
国道から駅を眺めてみました。草に埋もれた築堤上に置かれた小さな駅に、人の気配はありません。
ただ、そろそろ列車の時間です。誰もいない駅に戻るとしましょう。
駅への途中、柿の実を見つけました。まだまったく青い実ですが、これから夏の盛りを迎える時に、秋は静かに己の時期を待っているようです。
駅に戻って、すぐに中村行がやって来ました。
数えるほどの乗客を乗せた列車。乗客が1人増えても閑散としたことには変わりなく、終点中村へと出発します。